Pocket Garden ~今日の一冊~

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『ぼくはO.C.ダニエル』(2017年)ウェスリー・キング作 大西昧訳 鈴木出版

 

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なぜ私はこういう物語に惹かれるんだろう?

ああ、もう鈴木出版の“この地球を生きる子どもたち”シリーズ大好き!

 

 

 

【『ぼくはO.C.ダニエル』あらすじ】

使ったあとの綿棒そっくりなぼく、ダニエル13歳。アメフトはへたすぎて控えのキッカー兼給水係。勉強は得意だけど書けない数字がある。気になる女の子もいるけど見つめるだけ。寝る前に「儀式」を2、3時間する。しないと死んじゃうから。ぼくはヘンだ。でも、だれにもいえない。2017年エドガー賞児童図書部門受賞。(BOOKデータベースより転載)

 

エドガー賞とは、ミステリー専門の文学賞。この物語は、OCD(強迫性障害)に一人で苦しむ少年が、同じくサイコとあだ名をつけられ、誰とも話さない少女サラと出会い、消息を絶った多彼女のパパの真相を追うというもの。ミステリー要素があることもあって、どうなるの?どうなるの?と一気読み!

 

 

【力を借りることを恥ずかしがらないで!】

 

さて、この物語の主軸となっているのがOCD(強迫性障害)なのですが、OCDとは、「不安」や「こだわり」によって、自分の意思に反して、不合理な考えやイメージが頭に繰り返し浮かんできて、それを振り払おうと同じ行動を繰り返してしまう病気。

 

主人公のダニエルは、同じ年ごろだったころの作者の体験をほぼそのまま物語にした姿だといいます。だから、こんなにもリアリティがあるんだ!まるで、自分もOCDを患っているかのような感覚に陥ります。いやはや、すごい世界です。

 

OCDに苦しんでいる人たちは、家族にですらそのことを知られたくなくて、徹底的に秘密にして、一人で抱え込んで悩んでいることが多いのだそう。それは、神経質とかそんなレベルのものではなくて、毎日、一瞬一瞬、絶え間ない死闘をくりかえさなければならないんだ、と作者は述べます。なんてなんて、苦しいんだろう!苦しいけれど、ダニエルにはユーモアもあるので、物語としては暗い気持ちにならずに読めます。後味もさわやかなので安心して!

 

そんな作者が伝えたかったのが“希望と受容”。同じ状況にあるのは自分だけではないこと、そして、力になりたいと思っている人が必ずいることを伝えたかった、と言います。力を借りることは、恥ずかしいことではない、と。力添えが必要な人に届くといいな。

 

 

【自分が変わると映る景色が変わる】

ところで、この物語、OCDというものについて知れるというのもあるけれど、ストーリー自体もとても面白いんです。好きになった女の子への初々しい気持ち、ウィットに富んだ会話、自分を受け入れるということ。随所で挿入される、ダニエルが自分の気持ちを落ち着けるために書いている、SF的な物語も面白いです。最後に書き直した結末がなんとも清々しくて勇気をもらえる。

 

そう、これも“行きて帰りし物語”なんだな。

ファンタジーの冒険ではないけれど、サラに振り回される形でも、いままでとは違って色々踏み出したダニエル。アメフトで成功したことも確かに一因ではあるけれど、でも心の持ちようが変わったからこそ、周りをも違う目で見れるようになったんだということが分かります。とりまく環境が変わったんじゃないのに、見える景色が変わってくる。プレッシャーと感じていたものが、純粋な応援と受け止められたりね。

 

でも、病気に関しては現実はそう簡単ではなくて、その後も相変わらずOCDには悩まされるし、その点は変わらない。けれど、あるがままの自分を受け入れたこと、仲間を見つけたことで、確実に何かが変わり始める。ゆっくりでも前進し始める。

 

余談ですが、個人的に気になった登場人物は、サラとダニエルが殺人犯と疑っているサラのママの恋人ジョンでした。見るからに悪党で前科持ちの怪しい人物。ネタバレになるので詳細は書けないけれど、彼は私の物の見方を変えてくれたというか、気づきをくれました。

 

ああ、新しい視点や気づきをくれるから、こういう物語が好きなんだな。

 

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jidobungaku.hatenablog.com

 

ぜひ!