
今日の一冊は、韓国から。帯に書かれていた
“何度も作り直せばいい。器を焼くことは心に明かりをともすようなもの”
“手を動かすこと食べること。それが力をくれる”
という言葉に惹かれて手に取った一冊。
児童文学というくくりではないのですが、進路に悩んでいる高校生や大学生にも勧めたい物語だったので、ご紹介。
予想通り、ゆっくりとした時間の流れる、素敵な物語でした!
恋愛要素もちょっと入っているのですが、大人の物語にありがちな感じではなく、いまどき珍しく奥ゆかしいというか、実に安心して読めました笑。
最近、YA(ヤングアダルト、中高生向きの小説)は現実社会や学校や家庭の苦しい人間関係が描かれるものが多くなってきて、正直息苦しく感じることもあるんですよね。それは、きっと人間関係だけにフォーカスされてるから。
ところが、あら不思議。そこに身体を使ったこと、手仕事や料理なんかが入ってくると、とたんに息がしやすくなるんです。
この物語は、主人公ジョンミンが、バリバリに働いていたブラックな職場環境を辞め、カフェと間違えて入った陶芸教室に偶然出会うところから始まります。半引きこもり状態になっていたジョンミンは、料理はおろか、生活にまつわることすべてに何もやる気がでない。そんな中、その陶芸教室に集う年齢もバックグランドもさまざまな人々と出会い、ジョンミンは流れに身を任せ、陶芸教室に通うことを決めます。すると......
何かを学ぶと決めただけで全身にこんなに血がめぐるとは思わなかった(P.22)
いままで目が死んでいたジョンミンに血が通い始めるんですね。
そう、まず“決める”こと。“決めるだけ”で、何かが変わるんです。
意識が変わると世界がまわり始めるってこういうことかあ。
自己啓発系の本でよく言われるところだけれど、こうやって物語で追体験できると実に腑に落ちる。
きちんとした食事を、きちんとした器でとる。手を動かす。多様な人々とゆるやかに交流する。そうやって、少しずつ少しずつ大切なものを思い出していく。
やがて、陶芸は「土を形づくる」のではなく、「土を触る」だけでいい、と気付くジョンミン。土はやり直しがきく。1250℃の温度で二次焼成されるとき人間ができるのはただ待つことだけ。人間が作っているようでいて、人間のコントロールを越えたところがいいんですよねえ。
頭だけで考える、心だけで感じることをやめる。
そして、手を動かす、五感を働かす。
陶芸を教えてくれているジョヒはこんなことを言います
「焼き物を焼くことは、心を焼くことと同じ。不格好で鈍感な土を手で整え、愛情をこめて見つめれば見つめるほどきれいになって、大切にできるようになる。取り出してみるのが嫌なくらい醜い心も、ずっと見つめていればそこに何かがあるのかちゃんと見えてくる。憎しみしかないと思ってた心に愛情や思いやりがあるのがわかったりもする……。いろいろな感情がくしゃくしゃに丸まって隠れてるの。それがわかると、醜い心まで大切に思えるようになるのよ」(P.194)
醜い心も、全部全部抱きとめるんだなあ。
全部抱きとめることを思うとき、いつも『ゲド戦記』を思い出します。真理。
また、一年の最後に「未完成の焼き物は全部割る」という慣例があるのですが、割ってしまうのはむなしくないか?とジョンミンは聞きます。未完成とはいえ、せっかく心込めて作ったのに割っちゃうの?ってそりゃなりますよねえ。
それに対する教室仲間のギシクはこんな風に答えます。
「また焼けばいい。だから、焼き物にひびが入ったり割れたりしても大丈夫なんです。焼きつづけるから。焼き物も人間も一度だけで形づくられるわけじゃない。むしろ何度も焼いたもののほうが価値があります」(P.248)
そう!一度だけで形づくられるわけじゃないんですよね。コスパタイパで焦る人が多いけれど。人生にひびが入ってしまったジョンミンだからこそ、余計にこの言葉は響いたと思います。
最近、息子たちを見てても思うんですよね。若者よ、どんどん失敗せよ、って。
失敗というか、思い通りにならない予想とは違った経験を重ねてほしい。
そうすると人にも優しくなれるし、謙虚になれるから。
そして、何度でもやり直せるし、どこまでも成長することができることを知ってほしい。自分も色んな黒歴史を重ねてきたなあ、って我が身を振り返って思います。
ああ、陶芸をしてみたくなりました!
疲れた大人にもおすすめの、再生と希望の物語です。ぜひ。
※五感を使う体験なら、こちらもよかったら。
3月のPocket Garden Books&Cafeでの手仕事会、ミニチュアかご作りです↓














