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本編たったの134ページの短い物語ですが、ずしりと心に重くのしかかる物語。重いテーマなのですが、「自分だったらどうした!?」とすごく問われて、誰かと話し合いたくなる、そんな物語です。
今回のコロナ禍で、普段は普通の人だと思っていた人たちの「えっ......!?」っていう部分が露呈した面もありましたよね。悪って一体何なんでしょう?
《『ぼくの心の闇の声』あらすじ》
兄さんが事故で死に、父さんは悲しみから立ち直れない。十一歳のヘンリーは、必死で働く母さんを助けようと、自分も食料品店で働いている。あるときヘンリーは、強制収容所を生き抜いたユダヤ人のおじいさんと仲良くなった。おじいさんが、ナチスに破壊された故郷の村を甦らせようとして作っている木彫りの村を見て、ヘンリーは深く心を動かされる。だが、仕事先の食料品店の店主ヘアストンさんにそのことを話してしまった時、ヘンリーは、恐ろしい罠におちこんでしまったのだった…。(BOOKデータベースより転載)
原題はTUNES FOR BEAR TO DANCE TOで、こちらの直訳だと意味が通じないので、全く違うタイトルにしたと訳者の原田さんがこちらの講演会でおっしゃってました。↓
さて、『ぼくの心の闇の声』ですが、表紙見て、素直な子どもの一言
「なんか気持ち悪い」
いやあ、本好きの人が見たらこの手の表紙は「お、きっと骨太な内容に違いない」と逆に思うんですけどね。そっか、そっか。確かに手に取りづらいと思う人もいるのかもな。
原田さんもおっしゃっていましたが、ちょっと変わった物語です。食料品店店主のヘアストンさんが、なぜ主人公ヘンリーにそんなヒドイことをさせようとするのか明確な意図が見えなくてゾッとするのです。ヘアストンさんは嫌な人物ではあるけれど、法律上では犯罪者ではないし、極悪非道というわけでもない。なぜヘンリーに目をつけたのか。まさに、心の闇。そこらへんにいそうな、嫌な人だからゾッとするのです。
ヘアストンさんがヘンリーに目を付けた理由は、ヘンリーが純真だから。純真な人を見ると、そんなはずはない、その人にもかならず闇があるはず、自分たちと同じはずと陥れたくなる。人間にはこういう心理がある気がします。
子どもの世界は純真でもあるけれど、同時に残酷でもあって、この手の話は学校でも起きているであろうことは想像に難くありません。イジメを指示されてやる子たち。やらなければやられる。
短いのにとても迫力があります。読み手もドキドキしながら、最後までヘンリーの選択を見守ります。
そうかぁ、そうきたか......!そして、そこからどうなるか。
人間は弱いもの。悪も弱さからきている。それを知った上で、私たちはどうしていくのか。読んだ人と語り合いたくなる一冊です。
【今日の一冊からもらった問い】
悪を選択しなければ家族が犠牲になるとき、自分ならどうする?