Pocket Garden ~今日の一冊~

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自分の善を押しつけないこと

『川の上で』(2001年)ヘルマン・シュルツ作 渡辺広佐訳 徳間書店

今日の一冊は、BOOKOFFで気になって連れ帰ってきたしまったコチラ。

あとがき入れても、わずか150ぺージ。薄めの本って、すぐ読み終えちゃうからなんとなくあまり手に取らないんですよね。でも、こちらはあらすじが気になって。

 

とってもよかったです。

大切な視点、人としてありたい姿勢を思い出させてくれる。時々読み返そう、そんな風に思った物語でした。

 

舞台は、1930年代の東アフリカ。ドイツ人宣教師のフリードリヒが留守の間に、妻と娘が熱病にかかってしまい、妻は亡くなってしまいます。残された衰弱した娘を大きな町の病院に連れていくため、父娘が小舟で川をくだる旅に出る、というもの。厳しい大自然の中の川下りはスリルあり!村人たちとの交流によって、徐々にフリードリヒの心に変化があらわれていくさまも、とおってもいいんです。

 

わずか(?)5日間の物語。でも、5年とも思えるような濃さと心の変化がこの5日間に起こります。

 

宣教師ものって、改宗させようっていう押しつけがあるから個人的に好きじゃないんですよね。まあフリードリヒには、キゴマという村の王ウジビムというアフリカ人の友もいて、決して嫌なタイプの宣教師ではないんです。それでもね、やっぱりキリスト教を宣教したいわけだから、アフリカの村の人たちのシャーマニズム的なものには眉をひそめるし、ましてや自分の娘に村人から何か治療的なものを施されるのはどうしても許せないんですね、信条的に。いまわしい魔術だと信じている。信条はときには大事だけれど、でも、なにごともこだわりすぎる、執着しすぎると見えるものも見えなくなってしまいますよね。村人たちがしてくれた親切に感謝するどころか、疑心暗鬼になってたフリードリヒなのでした。

 

そんな彼でも、娘を助けたい一心で、徐々に彼らの言うことに耳を傾け始めるんです。

 

たとえば、娘の意識がなくても、彼女に話しかけ続けることという助言。

また川の上に出たら、たくさん話をしてあげてくださいね。話を聞くことで眠りからさめますから。それが、あなたがしてあげられる一番のことよ。だって、ねむっているときはこの子はひとりぼっちなんですから。今、この子をひとりぼっちにしてはいけないわ……(P.79)

 

そうそう、無意識下で聞いてるんですよね。そういえば、“お布団の中で寝かしつけ時に絵本を読んでる途中で子どもが寝ちゃっても、ちゃんと最後まで読んであげて下さいね。寝ながら聞いてるから。”と昔言われたことを思い出しました。昏睡状態の人にも何年も話しかけ続けると意識が戻るという話も聞きますよね。ただ話しかけるのではなく、ここではフリードリヒが自分自身の物語を聞かせたということが大切で、娘の命をつなぎとめたんです。物語の力、スゴイ!

 

また、もう一つ印象的だったのは、どの村でもこの西欧人の親子を受け入れてくれたところ。女性たちは献身的に病気の娘の世話をしてくれる。どの村でも。

これ、もし逆に西欧の村にアフリカ人の親子が突如訪ねてきたらどうでしょう?あんな風に歓迎するかしら?しかも、感染症かもしれない病人抱えてるのに。考えてしまいました。

 

西欧人が施す彼らの善……。この物語を読んでいて思い出したのが、大学を卒業する春休みにネパールに1か月ボランティアに行ったときのこと(はるか昔)。それまで私は、西欧人はこういうボランティアに積極的で意識が高くて、なんて素晴らしいんだろう!と思ってたんですね。こういう場所にボランティアに来るくらいだから、フレンドリーで優しい人が多くて。

 

でも、1週間後にはだんだん印象が変わってきました。日がたてばたつほど、例えば毎日同じダルカレーの食事に飽きるなど、異文化に順応できなくて苛立ってくるんです。現地の人たちに同情しているときは優しかったけれど、それは同時に彼らを見下してるからくる優しさでもあったんだ、と気付いたときはショックだったなあ。

 

現地の学校でのボランティアもしたのですが、“あそこの学校はいい!Westernized”って言うんです。いい学校の基準が西欧化してるかどうか。彼らが原始的と呼んだ学校は、私の目にはいいなあとうつってたので、彼らの感想が当時の私には衝撃的で。最初の印象が好印象だっただけに、異文化への興味・好奇心はあれど尊重がないことに失望してしまいました。いや、最初はあったんです、最初は。でも、根底に西欧文化が最善と思ってるから、だんだんそれが出て態度が横柄になっていった。自分の善を押し付けずに、相手にとっての善を施すって難しいですよね。

 

さて、そんなフリードリヒが現地の人々と本当の意味で知り合ったとき、彼は現地の人たちに洗礼を施すよりも重要なことがあることに気付かされるのです。

さあ、それは一体どういうことだったのか。

 

ぜひ一緒に5日間の川下りをしてみませんか?私たちにとっても、きっとそこには気付きがいっぱいです。