Pocket Garden ~今日の一冊~

大人も読みたい、大人こそ読みたい、大人のための児童文学の世界へご案内

それでも人生は続く

f:id:matushino:20200128104328j:plain

『どこまでも亀』(2019年)ジョン・グリーン作 金原瑞人訳 岩波書店

 

今日の一冊は、強迫性障害に苦しむ子のことを描いた物語です。

 

強迫性障害って???

 

聞いたことはあっても、説明できるほどには知りませんでした。身近にそういう人がいなかったので、正直あまり知ろうともしていなかった。でも、物語の力って、やっぱりスゴイなあ。一気読みでした。

 

 

『どこまでも亀』あらすじ

アーザは強迫性障害に苦しむ十六歳.失踪した大富豪ラッセル・ピケットの手がかりを探しに,親友のデイジーとピケット邸に乗り込んだアーザだったが,そこでピケットの息子デイヴィスと再会を果たす.デイヴィスに惹かれる一方,アーザは常に思考の渦に飲み込まれる不安にさいなまれ…….ベストセラー作家,待望の新作.(出版社HPより転載)

 

 

切手マークが右上についた岩波書店のSTAMP BOOKは、“ティーンの喜びや悩みを綴ったシリーズで、海外からエアメールのように届く、選りすぐりの物語たち”、だそう。洋書のペーパーバックみたいなスタイリッシュな装丁で、これなら中高生も手に取りやすそう!海外版の表紙も見てみたけれど、日本版が一番好き。

 

それにしても、強迫性障害って、なんてやっかいなんでしょう!

自分で自分の思考がコントロールできない、この苛立ち、追い詰められていく苦しさ。作者自身も強迫性障害に悩まされたそうで、だからこんなにもリアルなのかと驚き。完全に自分も強迫性障害になった気分を味わいました。

それだけでも、一読の価値ありだと思います。これは映像では無理。思考にまで入りこんで主人公と一体化するのは、読書でないと体験できない。

 

ところで、主人公のアーザ、そんな生きづらさを抱えてはいるけれど、心配してくれるママがいる、親友がいる、恋だってできてるんです(まあ、強迫性障害のせいで多少支障はあるのだけれど)。人間関係恵まれているじゃないか!、って言いたくなっちゃうんですよねえ。世の中、もっと孤独な人いっぱいいるから。でも、これって比較の問題じゃないんですよね。人間関係恵まれているからこそ、その期待に応えられないというプレッシャーも苦しい。

 

テーマは重いのですが、失踪した大富豪ラッセル・ピケットというミステリー要素もちょっと入っていて、グイグイ読み進んでしまいます。そして、このピケットの息子、文学青年のデイヴィスがいい!!!アーザとのやりとりは画面上のメッセージが多いので、現代っ子も共感しやすいかも。

 

このデイヴィスの父親ピケット氏はとんでもない人で、財産を自分の子どもではなく、ペットのトゥアタラ(トカゲみたいなの)に残すことしたんです(なんじゃそりゃ?って感じでしょう?ぶっ飛んでます)。愛されたかったデイヴィスの弟は外で荒れまくりの問題児、家では寂しくて寂しくて小さな子どもみたい。だから、デイヴィスは弟のために早く大人にならなければならなかった。

 

最後、弟のことを第一に考えて下した決断には涙。私たち大人は果たして同じ決断ができただろうか、って考えてしまいます。何が本当に大切なのか、見極められたデイヴィス、君はエライよ!!!愛おしくて、ぎゅーっと抱きしめてあげたくなりました。彼の母親の代わりに、父親の代わりに。

 

この物語は、分かりやすいハッピーエンドではないんです。それが、また現実的だなあ、と。よくなったと思ったら、また悪くなる。その繰り返し。でも、希望の光は見える。上向きばかりじゃない、それでも人生はそれほど悪くないし、それでも人生は続いて行く。「必ず、希望はある」、それが著者が困難を抱えて生きている人たちに強く強く伝えたかったこと。

 

アーザにデイジー、そしてデイヴィス、あなたたちに出会えてよかった。