Pocket Garden ~今日の一冊~

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戦時下より平和を生き抜くほうが難しい!

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『あいまいさを引きうけて』(2018年)清水真砂子著 かもがわ出版

※毎週月曜・金曜の19時(ちょっと遅れることもあり💦)更新中!

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 ※追記あり

 

8月のとある日、テーマのリクエストがあり、zoomで児童文学おしゃべり会を開催しました!そのテーマとは、『平和を生き抜く』。

 

とっても深いテーマで、あれこれ頭を悩ませました!

ゲド戦記』をはじめ、たくさんの海外児童文学を翻訳された児童文学研究者の清水真砂子さんの著書の中で、「平和を生きのびることの大変さ」が描かれているんです。戦時下じゃなくて、平和を生きのびる方が大変!?

「困難」じゃなくて、一見何の問題もなさそうな「平和」を生き抜く。その大変さ。

 

 

【戦争の世代がうらやましい若者たち】

清水真砂子さんは短大で教えていらっしゃったのですが、そのとき学生から言われた言葉に衝撃を受けます。それは、戦争体験者たちがうらやましい、という言葉。大変だったのに、なぜ?と問うと

 

「戦争を体験した人たちは、自分たちの戦争体験を語るとき、すごく楽しそうじゃないですか」「みんないろんなことをとてもいきいきと語っている。だけど、先生、私たちには語るものなんてないんですよ」(P.239 ,240)

 

って。

あああああ。

戦争を体験した大人は戦争を語り継がなければ、再び戦争になるんだと思っていたけれど、実は平和がいきのびられなくて戦争をおっぱじめるんじゃないか、そう清水真砂子さんは考え直し始めます。もし子どもたちが退屈したら、何もかもが嫌になったら……戦争ほど私たちを興奮させ、戦争ほど「物語」の面白さを伝えてくれるものはないかもしれない、と。

 

分かる。

私自身じゃないのだけれど、すぐに闇抱えてしまううちの長男なんかは、何もかもが嫌になると全てなくなってしまえ、のような発言よくしていました。

 

以前さくまゆみこさんの講演会に行ったときも、さくまさんも清水真砂子さんと同じようなことをおっしゃっていたんですよねえ。

戦争の悲惨さを伝えるより大事なのは、子どもたちに今生きていることの喜びを十分に味わってもらうこと。今生きてることがつまらなかったら、それをひっくり返したくなるのが人間。そして、それは全てをひっくり返す戦争につながりかねない、と。

その時の記事です↓

blog.goo.ne.jp

 

【今の子が苦しい理由は今ココを生きていないから】

今の子たちは恵まれているけれど、こんなにも不登校や引きこもる子が多い。恵まれているのに、なぜ苦しいのか?

 

一つ頭に浮かんだのは、現代は「夢や目標を持たなければいけない」という神話があるんじゃないかな、って。子どもって、もともと自ら成長したい人たちです。でも、自分でそれを決めたいのに、周りが“待つ”ことができない。親から、先生から成長を促されるから嫌になるんじゃないでしょうか。他人から“あるべき姿”を提示されるって、苦しいです。

 

でも、かといって自由・制限がないというのは自分との戦いです。いざ、自由にしていいよと言われたらどうしたらいいか分からない。そんな自分も嫌で苦しくなるのではないでしょうか。何ものかにならなければいけないという強迫観念、自分を大きく見せて、心の奥底にあるものにフタをしてしまう。

 

常に未来のため、未来、未来で、“いま、ココ”を味わうことが欠落してることも、生きてる喜びを感じられない要因の一つかもしれません。

 

 

【段階的に手渡してみる】 

このテーマをもらったとき、今生きる喜びを十分に味わえていない子たちに、どういう本が寄り添えるのだろう、って悩みました。色々素晴らしい本はあるけれど、自己肯定感が低い子は、色んなことにまず拒否反応があるんじゃないか、と我が子を見てて思ったわけです。素直に受け取れない。

 

そんなわけで、手渡す本も段階を踏むのもいいのかもしれません。

 でも、正解なんてないですから、その子のことを思って選んだならどんな本でもいいんだと思います。Zoomではたくさん紹介したのですが、ここでは長くなるのでかいつまんで一部をご紹介しますね。

 

 

1.まずは、言語化できない自分の苦しい胸のうちを代弁してくれるような、そういう子が共感できるような物語。

例えば↓

blog.goo.ne.jp

とか、これとか↓

blog.goo.ne.jp

 

2.次に、自分の中の闇と向き合い、ありのままでいいと一歩踏み出す物語

 

※追記:昨晩うちの子どもたちも大好きな、人気YouTuberピアニストのよみぃくんが、「僕もう少し生きてても良いですか」という動画を出していて、びっくりしたんですよね。よみぃくんと言えば、登録者は100万人越え、傲慢にならず、思いやりの感じられる人柄に惹かれる人が続出。みんなを励まし、癒してくれる演奏をしてくれていた彼、端から見ると才能あふれ、うらやましがられる存在の彼がそんな風に感じてただなんて。↓

www.youtube.com

 

まじめだから、そんな負の感情を抱いてしまう自分は生きててはいけないのではないか、と思い詰めてしまうんだね。我が子と重なり涙してしまった。

そんな、彼にも差し出したいのが、自分の心の奥底にきちんと向かい合うことの大切さを教えてくれるコチラ。感情には良いも悪いもない、感情にフタをしないことが大事なんですよねえ↓

blog.goo.ne.jp

 

また、こちらもおススメ。今の子たちって、夢や目標をもたなければいけないという強迫観念に苦しんでる気がするのですが、こちらの物語なんかは、何の目的もなく走り続けるところがスバラシイ!“いま、ココに生きる”ことを教えてくれます↓

matushino.wixsite.com

 

3.人間関係だけの狭さから抜け出す物語

さらに、人間関係だけ、って時として息が詰まりますよね。目に見えるものだけが世界じゃない、と視点を変えてくれる物語はどうでしょう?ふっと肩の力を抜いてくれる気がします。例えば↓

blog.goo.ne.jp

 

その他にも落ちこぼれることが楽しくなってくるこちらとか↓

blog.goo.ne.jp

 

人間以外の友だち(動物、精霊、小人などなど)を持つ物語や、神話的、昔話的物語も人間を回復させる力を持ってるので、ぜひ差し出したい。

 

4.何でもない日常の輝きを描いた物語

 個人的には一番思いつくのが難しかったです。北欧を代表する現代児童文学作家ウルフ・スタルクの短編なんかはエスプリが効いてて好き。↓ 

matushino.wixsite.com

 

あとは、ラモーナシリーズもおすすめです。

 

他の方の紹介してくださったものも素晴らしく、色んな解釈があり、学びになりました!人からテーマを与えられると、自分からでは気づかなかった発見が得られますね。テーマを投げかけてくれたSさん、ありがとう。

 

こんなテーマで、本の話がしたいという方がいましたら、コメント欄でも直接でもメッセージくださいね。