Pocket Garden ~今日の一冊~

大人も読みたい、大人こそ読みたい、大人のための児童文学の世界へご案内

小中学生向けのおススメ性の絵本はこちら!

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『生きるってどういうこと?(性の絵本)』(1992年)山本直英著 木原千春絵 大月書店

前回は、中高生からぜひ手渡したい性に関わる物語をご紹介したのですが、今回は小学校中学年から中学生向けの性の絵本をご紹介。

 

こちらは、物語ではなく、もっと直接的に説明しています。

 全5冊。

 

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『子どもからおとなへ生きる(性の絵本)』(1992年)高柳美知子著 木原千春絵 大月書店

素晴らしい選書眼を持つ学校司書Tさんのおススメなんです。

 

性教育の本も何冊かあれど、これはよい!と大絶賛だったので、さっそくうちの次男に読ませたんですよね。

 

うちの次男、小5くらいのときから性に関する下ネタが止まりませんで(男子あるある)。クラスの男子の多くがそんな感じだったので、うちだけではないのですが、言葉の意味を知らずに連呼してしまう。困った先生が、臨時で性教育の時間を設けてくれたのですが、なんと!その日うちの子は休んだという(笑)。

 

意味が分かっていないのは明白で、

 

「お母さん、どうして虫や動物はみな交尾するのに、人間だけはキスだけで赤ちゃんが生まれるんだろうねえ」

 

ってしみじみ言ってましたから(笑)。

 

親から話してもよかったのですが、どちらかが照れて最後まで聞いてもらえない恐れがあり、知るならちゃんと知ってほしかったんです。

いやらしいことや恥ずかしいこととしてではなく、ね。命のことなんだよ、って伝えたかった。

 

そんなとき、ちょうどTさんがこの絵本を紹介していたんです。

 

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『男と女ともに生きる』(1992年)山本直英著 木原千春絵 大月書店

 

感想を聞くことはしませんでしたが、

 

「そうだったんだあ。」

 

と何回かつぶやきながら読む次男。

 

「お母さんたちも“儀式”しただなんて信じられない」

 

と言いつつも、儀式はいやらしいことではなく、自分が愛されて生まれてきたことを実感してくれたよう。この絵本にはホント助けられました!その後、次男のふざけて言う下ネタはぴたりと止まり、ご近所さんでこの絵本が巡回(笑)。

 

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『なぜ、こんなことをして生きているの?(性の絵本)』(1992年)高柳美知子著 木原千春絵 大月書店

 

学校の先生を信頼してないわけじゃないんです。

でも、短い時間の中で、どうしても生物的な側面の説明で終わってしまう可能性が高いですよね。性教育の授業のあとでも、照れからか男女でからかいあったり。

 

命のこと、生きていくうえでどう向き合うか。読み終えて、次男は満たされた顔つきをしていました。それがこの絵本の良さを物語っているかな。

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『生きていくから聞きたいこと(性の絵本)』(1992年)安達倭雅子著 木原千春絵 大月書店

自分で話す自信がないと困っている大人のみなさん、こちらおススメです!

 

 

性教育(命の教育)ならこちらをぜひ!

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『ディア ノーバディ』(1991年)バーリー・ドハティ著 中川千尋訳 新潮社  

 

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ああ、どうしてこの本にもっと早く出合っていなかったんだろう。

そうすれば、あの子に手渡せていたのに。

 

今日の一冊は、中高生&大人たちにぜひ読んでもらいたい物語。

 

 

あの子というのは、私が児童文学に再会するきっかけをくれた子なのですが、その子ももう二十歳。ちょっと心配な生活を送っていて。この物語を高校生のうちに手渡しておきたかった。

 

あらすじを簡単にいえば、この物語は高校3年生の女の子が、予期せぬ妊娠をしてしまい、思い合っていた恋人同士の関係が崩れていく一月から十一月までの物語。

  

河合隼雄氏推薦というだけでも間違いないし、カーネギー賞を受賞したほどの名作です。なのに、なのにですよ?残念ながら絶版が決定しているそう。

 

ああ、もう!

どうでもいいような本がたくさん出ている中で、こういったスバラシイ物語が絶版だなんて……。見かけたら、ぜひ手に取ってもらいたいです。

なぜなら、すべての人に関係する普遍的な物語だから。

 

先日ご紹介したクーベルチップさんで、まだ手に入ります!↓

jidobungaku.hatenablog.com

 

10代未婚で妊娠、と聞くとふしだらな印象を抱くかもしれません。

所詮子どもの恋で、男子側は性欲だけなんじゃないか、とかね。確かにそういうケースも多いかも。

 

でもね、この物語は、その事実をセンセーショナルに描いていないんです。女性側ヘレンの手紙と、男性側クリスの回想で物語は綴られ、丁寧に丁寧に、どちらの立場からの心情も描いている。それぞれの心情が深く心に染み入り、もはや他人事とは思えなくなる。

 

うちは気を付けてるから予期せぬ妊娠なんて関係ないわ、と思うかもしれません。

が、この物語、それだけではないんです。周りの大人たちのそれぞれの知られざる背景も次第にあきらかになり、人間の生き方について考えさせられる。

そう、この物語は多くの“問い”をくれるんです。

 

性的関係を持つとはどういう可能性をはらむのか。

母との関係。

命の重みとは。

 

命に関することは、誰一人として無関係な人はいない。

性教育って、命の教育。物語だからこそ追体験できる、その意義の大きさを感じます。

 

ところで、あの子に渡したかったと言いつつ、実は私自身はクリス側を弁護したい気持ちでいっぱいだったんです。なぜなら、三人の男子の母でもあるから。どうしても、男子に肩入れしちゃうんですよね。

 

性欲だけのありがちな十代男子とクリスは違うよ!妊娠を告げた後もクリスは覚悟を決めてくれたのに、なぜヘレンは黙って一人で何もかも決めてしまうの?クリスはこんなにも誠実なのに。こんなにも愛しているのに。一方的に心を閉ざすヘレンは、ちょっと身勝手じゃない?

 

ついクリスに肩入れしてしまった私は、ラスト4ページになるまで、なぜヘレンがノーバディと手紙に綴っているのかを、クリス同様理解できなかったんです。私、女性でしかも母親なのにね。

そんなわけで、ラスト4ページで、それを理解したときの衝撃たるや!

ああ、だからヘレンは……。

 

読み終えたとき、ノーバディは消えていました。

現れたのは、私にとっても大切なサムバディ。

 

赤ちゃんが生まれるたびに思い出す、インドの詩人タゴールの詩を最後にどうぞ。

 

すべての嬰児は

神がまだ人間に絶望してはいない

というメッセージをたずさえて生れて来る

(『タゴール詩集』、山室静 訳、弥生書房、P78)

 

 

 

 

それって、私が悪かったの?

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今日は、児童文学ではなく映画のご紹介(最後に児童文学も紹介してます)。

お友だちに招待券いただいて観に行ってきました。          

 

韓国で物議を醸した問題作の映画化。

 

『82年生まれ、キム・ジヨン

klockworx-asia.com

 

ああ、もう涙が止まらなかった。

 

私自身は82年よりももうちょっと(笑)早く生まれてるし、彼女のようなキャリア志向ともちょっと違う。けれど、それでも重なるところがいっぱいあって。

 

私も周りにはキム・ジヨンだらけ。

能力があるのに、活かせずに日々家庭の仕事をする友人たち。

家庭の仕事を下に見てるわけじゃないんですよ?

でも……。

 

これは、私たちの物語。

 

子育てがいやなわけじゃない。

でも、このモヤモヤはなんだろう。

子連れお出かけ一つがどうしてこんなに大変なのか、ストレスがたまるのか、

説明しても説明しても夫に理解されることはなかった(ズレた理解しかしてくれなかった)あの頃。

 

いやね、私自身は全然ワンオペじゃなかったんですよ?

夫はよく手伝ってくれるし、子育てに興味も持ってくれる方。

ジヨンの夫もそうで。

夫がわりといい方だからこそ、余計に何も言えなくなる感じ……伝わるでしょうか。

 

ジヨンの女性であることの生きづらさは、結婚前から始まっていました。

痴漢にあったとき、お前も悪いと言われる。被害者なのに!

ああ、私もあった。高校生のとき、ストーカーにしばらくつきまとわれるという被害にあったんです。1時間半通学の道のりついてきて、家の最寄のバスにまで乗ってきて。でもね、ジヨンと同じくお前にも隙があるから狙われるんだ、と言われた。震え上がるほど怖い思いをした後、なおかつ責められるというね。

 

原作は救いがないと聞いていたので、実は読んでいないのですが、映画は希望があるラストに改変されていると聞き、観に行ったんです。

 

前向きなラストでよかった、と個人的には思いました。

が、でも社会復帰したいと願う女性たちにはあのラストも絶望的だったかもしれない。

 

男性が作り上げた価値観の組織で生き残ることに、さっさと見切りをつけよう。

女性には女性に合った働き方がある。

 

でもね、いかんせん選択肢がないのです。

起業すれば一番いいけれど、それに注ぐ時間やエネルギーがない人だっている。

ハンドメイド系やビューティー系、自己啓発系サロンで花開く人もいるけど、逆にそれしか道はないのかな?

 

もっと言えばね、男性だって我慢していると思うんです。

女性ほどあきらめたものは少ないように見えるけれど、家族を養うのは男性が当然というのはプレッシャーだと思う。

 

女性も、男性も、もう我慢する時代は終わりにしよう。

おかしいと思ったら声上げて。

もうそろそろ自分らしく生きる時代にしよう。

時代を変えるのは、いつだって誰かの小さな小さな行動からなのだから。

 

いやいや、そうは言うけれど、現実は……。

立ちはだかる大きな壁を前に無力感を感じるのなら、こちらをぜひ!↓

matushino.wixsite.com

 

 

 

 

なんでこの子はこうなの!?

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『「聖なるあきらめ」が人を成熟させる』(2015年)鈴木秀子著 アスコム

 

今日の一冊じゃなく、二冊はこちら。

 

まずは、こちらカトリックのシスターが書いた本なのですが、考え方は禅的なのです。つまり、宗教関係なく、普遍的ってことですよね。

 

“あきらめる”というと投げ出すイメージがあるのですが、違うんです。

“明らめる”。

まずは、いったん“受け入れる”ってことなんですよね。

 

受け入れないと、ない部分にばかり目がいってしまって、なんて自分は不幸なんだとなってしまうんですよねえ。私もそうでした。

 

なんで、うちの子はこんなに大変なんだろう。

なんで、うちの夫はこんなに理解がないんだろう。

なんで、母親のせいばかりにされるんだろう。

って。

 

全然違ったのに。

受け入れてみたら、自分の被害妄想だったことが分かった。

 

自分が“問題”だと思ったから望みどおり問題になった。

でも、自分が問題視しなかったら、同じ状況でも問題なんて消えちゃった!

 

この本には、心穏やかに過ごすヒントがたくさんです。

 

 

もう一冊はこちら↓

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『子どもを信じること』(2019年)田中茂樹著 さいはて社

 

こちらは、特に子育てに悩んでいる方に。

もうもう我が家のバイブル!

 

いままでいったい何人に貸してきたことか。

そして、貸した方のほとんどは、その後自分で購入し直されてます。

手元に置きたいって。

ちなみに今も貸し出し中。

 

うちの長男は小学2年の6月頃から6年生まで荒れに荒れました。

後半は緩やかになっていったんですけどね。

そりゃもうすごくて。一緒に暮らせないんじゃないかと何度も思ったくらい。

 

「小学生だったからまだいいよね」とよく言われましたが、なんのなんの中高生の反抗期(しかもすんごい)レベルでした。暴れっぷりが。

 

不登校も経験して。

だからか、「実はいまうちも不登校で」という声が寄せられることが多いんです。

こんなにも不登校の子って多いんだ!と驚くくらい。

でもね、どの子も自分を持った素敵な子なんです。

 

不登校の子に何か問題があるんじゃなくて、これ受け入れ先の選択肢が少なすぎるというのが問題なんだよなあ、といつも思わされます。

でも、違う選択肢を選ぶには、親の覚悟がいるんですよね。

 

さて、こちらの本。子どもを信じるとはどういうことなのかを教えてくれます。

“甘やかす”と“甘えさせる”は似て非なるもの。

不登校でもひきこもりでも、かわいがっていいんです。

 

でもでも、この子ホントにそのままでいいの?

そのままの状態を受け入れちゃったらマズイんじゃないの?

 

そう思ってる方に『聖なるあきらめ』とあわせて読んでいただきたい。

 

この本で言ってることは極端じゃないか、やっぱり甘やかしすぎじゃないかという意見も見かけます。でもね、そう思ってる親って、どこかで子どもはまだコントロールできるものだと思ってる。

 

昨日ご紹介した本『預言者』の子どもの章にもあります。

 

子どもはあなたのものではない、のだと。

子どもには子どもの考えがある、と。

 

子どもを解放しなくっちゃ!

だって、彼らは勝手に成長する。

心配を手放そう。

 

なんでこの子はこうなの?

と思ってる方は、ぜひご一読くださいね。

 

 

 

 

迷えるときの一冊

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預言者』(1990年)カリール・ジブラン著 佐久間彪訳 至光社

 

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今日の一冊はこちら!

迷える人、人生の中でいくつも“問い”を持っている方に差し出したい一冊。

 

私自身がこの一冊と出合ったのは、次男が生まれてすぐだったので、もう10年以上前になるのですが、最近人におススメする機会が多くなり。

そのような状況を全く知らないじいじから、つい先日「これ読んでみたら」と違う出版社バージョンのものを手渡されるというシンクロ。

 

これは、もうブログでも紹介せよ、とのことでは!?

 

というわけで、今日の一冊はレバノンの詩人であり哲学者、画家でもあるカリール・ジブランの『預言者』です。

 

ちなみに、じいじが持ってきたのはこちらのバージョン↓

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預言者』(2009年)カリール・ジブラン著 船井幸雄監訳・解説 成甲書房


原書は1923年出版なので、なんたるロングセラー!!! 

 

 様々な出版社から翻訳が出ていて、ハリール・ジブランと表記されることもありますが、同一人物ですよー。

 

これはねえ、もう、読み返したくなる手もとに置きたくなる一冊。

私が好きな装丁は文庫本よりも少し小さめのポケット版(トップ画でご紹介しているもの)です。

 

散文詩なのですが、愛、子ども、働くということ、喜びと悲しみ、自由、善と悪、祈り、死など、人間の普遍的テーマ26項目について深く語られているんです。

どこから読んでもいいので、その時々の気分や自分の中の問いによってページを開くもよし。

 

まるで、聖書を読んでいるみたいなんです。

 

固い?ええ、そういう意味では固いです。

さらっと読めるというよりも、なんていうんでしょう……重厚感。

 

実は私、詩が苦手というか、あまり深く心に入ってこないんですよね。

でも、こういう普遍的テーマは軽い言葉では語れないんだなあ。

魂に響くものって、重みがある。

 

出合ったときは知らなかったのですが、20世紀のアメリカでは聖書の次に多く読まれたんですって。

そういえば、“マンチェスター ラプソディー”というイギリスBBCのドロドロ恋愛ドラマにも結婚式で、ジブランの詩の中から「子育て」のところが朗読されて、おお~!と一人で盛り上がったんですよね(←重厚感どこへやら?急に世俗的笑)。そのときは、その興奮を誰とも分かち合えなくて寂しかった(笑)。

 

日本では、まだまだ知名度は低い気がするのですが、アメリカの知識人家庭には必ず一冊はあると言われているんだそう(船井幸雄さん談)。

 

今の私には響くのは子育て関連のところですが、その時々によって響くところが変わってくるんだろうな、と思うと楽しみです。

自分の中にどんな“問い”があるかで、めくりたくなるページが変わってきます。

 

人生は迷いがあるから、学びがあり、面白くなる。

“問い”は人生を深めてくれる。

 

ぜひ。

秋の夜長に少年少女文学の王道を

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『サリーの帰る家』(2010年)エリザベス・オハラ著 もりうちすみこ訳 さえら書房

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マイナーな本ばかり紹介していると言われてしまう私ですが、時々THE☆児童文学、といった王道の物語をたまらなく読みたくなります。

なぜだかは分からないけれど、秋になると特に。

 

というわけで、今日の一冊はそんな王道のこちらをご紹介!

 

『サリーの帰る家』あらすじ

本好きのサリーは夢想家ではあるが、待ち受ける運命は、百年前のアイルランドの国情を映して厳しい。しかしサリーは運命を受け入れ、未知の世界に果敢にとびこんでいく。父の死により、遠い農場で働くことになった十三歳の少女が、他人を思いやって信頼のできる一人前の娘になるまで。情景描写や心理描写も巧みにえがかれ、あきさせない。(出版社HPより転載)

 

読んでいくと……ん、既視感!?

でもでも、決してそれが嫌なわけじゃなくて。ああ、好きだなあ、これ。

赤毛のアン』のモンゴメリが描く物語のように、少年少女が違う環境で成長していく物語。もしくは、個人的に大好きな『海の島』から始まる『ステフィとネッリ』四部作も思い起こさせます。↓

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『海の島』(2006年)アニカ・トール作 菱木晃子訳 新宿書房

 

『ステフィとネッリ』シリーズが中高生向きな内容なのに対して、サリーの方は安心して小学生にも差し出せる内容。そこを物足りなく感じる人もいるかもしれませんが、一気読みでした!ああ、こういうの大好きだったなあ、って、サリーと同じく夢見がちで家事仕事が大っきらいだった少女時代の自分も懐かしくなる。

 

しかしね、さすがは階級社会ですよね。これじゃあまるで『アンクルトムの小屋』と同じじゃない!奴隷じゃない!とサリーが母親に対して叫ぶ“雇われの市”は結構衝撃です。子どもたちが労働力として売られていくんですから。

 

サリーと妹、それぞれの雇い主となった家がまたねえ、リアリティがあってよかったです。サリーの行った家庭では、一見良さそうに見えて、内情はそれほどよくなく……。それでもそこで居場所を見つけて居心地よくしていくサリー。

 

一方の妹のケイティの行った先は、魔女と思われる老婆の世話にあけくれ、読者もハラハラと心配になる環境。ところが、こちらもフタを開けてみれば、思ってたよりも悪くなくて。いい意味で、私たちが色眼鏡をかけて物事を見ていることにも気づかせてくれます。

 

そしてね、やっぱり王道ですから。

逆境に思えても、自分の心持ち次第で、今いる環境で最大限に幸せになることはできることを教えてくれる。清々しい読後感!

 

三部作なので、秋の夜長に続きを読むのも楽しみもできて嬉しいなあ。

王道が好きな方は、ぜひ!

 

 

 

漫画が文学!?約ネバが面白い

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英米文学者と読む「約束のネバーランド」』(2020年)戸田慧著 集英社新書

 

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約束のネバーランド』という大ヒット漫画(累計2100万部超え!)をご存知でしょうか?うちは小6次男がハマっていたので、私も読んでみました。

 

鬼滅と並んで、『週刊少年ジャンプ』で連載されていて、この6月で完結した話題作。

これがねえ、あらすじだけを読むと、とっても残酷で、寒々しい気分になる内容なんです。

 

【簡単なあらすじ】

孤児院で幸せに暮らしている子どもたちはみな天才児ぞろい。彼らは、12歳になると里親のもとに行かされるが、実はこの孤児院、鬼たちが好む美味しい脳を育てるための農園で、子どもたちは鬼のための食用児。それを偶然知ってしまった、主人公エマと仲間たちが、全員を引き連れて、絶望に立ち向かう脱獄ファンタジー

 

なんて、悪趣味な内容!

……と思うでしょう?ところが、これが、頭脳戦であったり、なかなか面白いのです。日本の漫画家ってホントにすごいといつも感心してしまいます。

 

で、今回は『約束のネバーランド』(以下「約ネバ」)にすっかりハマってしまったという英米文学者の戸田慧さんが書いた解説本が、とっても興味深かったのでご紹介。

物語の生まれた背景を知る。これは、大人ならではの楽しみ方ですよ~。

 

英米文学者と読む「約束のネバーランド」』あらすじ

あの鬼のモデルとなった人物は?「約束」や「原初信仰」の謎を解く鍵は?「約束のネバーランド」というタイトルの真の意味とは?謎を解く手がかりになる、いくつかの英米文学作品。鬼達の宗教「原初信仰」とユダヤキリスト教。階級、女王、狩り…鬼の社会と似た特徴を持つ国は?ジェンダーから見た「約束のネバーランド」という物語の新しさ…気鋭の文学研究者が徹底考察!(BOOKデーターベースより転載)

 

とっっっても分かりやすいです!

学者の人が書いたからといって、難しい表現もないところにも好感が持てます(←上から目線!?)。内容はさほどマニアックでもないので、英米文学に興味のない人でも、逆にこの本が英米文学への興味の入り口にもなるかも。

 

こじつけでは?と感じる人もいるかもしれませんが、こじつけにしたって面白いし、作者が意図していなかったかもしれないところで「なるほどー!」となるのも物語自体が力を持っている証拠。

 

『ピーター・パン』『不思議の国のアリス』『指輪物語』などの文学作品との関連性も面白かったのですが、個人的にはジェンダーの章が一番興味深かった。女らしさや男らしさの神話、ジェンダーからの解放、色々と考えさせられました。『約ネバ』を読んだことがない人でも、この解説本は楽しめる気がします。

 

そんなさまざまな視点を提示し、最後のほうで著者はこんな風に述べています。

 

このような視点から見れば、『約ネバ』は十九世紀にルイス・キャロルの『不思議の国のアリス』によって幕を開けた、大人の古い常識を覆し、真に自由な大人へと成長する子供達の物語という伝統的な児童文学の王道を継承しつつ、二十一世紀的な新しいジェンダー観を反映し、漫画という媒体で描かれた、まさに新しい「文学」だといえるでしょう。(P223)

 

そうなんだなあ。文学だから多くの人の心をとらえたんだろうなあ。

あらすじだけ読んでいたら、自分からは手に取らなかったけど、

子どもが夢中になっているものは、なんでも読んでみると大人の偏見も取れますね。

 

こういう新しい世界の提示の仕方があるんだな、と感心してしまった。

 

ちなみに次男の約ネバの感想は、

 

「これさ、すっごく面白いんだけどさ…。エマたちが人間だから思わず応援しながら読むけど、孤児たちが豚とか(家畜動物)だったら、鬼が人間だよね。そう思うとさ……」

 

と複雑な思いを抱いたようです。 

うん、子どもあなどるなかれ、ですね。

 

面白かったです!