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ああ、どうしてこの本にもっと早く出合っていなかったんだろう。
そうすれば、あの子に手渡せていたのに。
今日の一冊は、中高生&大人たちにぜひ読んでもらいたい物語。
あの子というのは、私が児童文学に再会するきっかけをくれた子なのですが、その子ももう二十歳。ちょっと心配な生活を送っていて。この物語を高校生のうちに手渡しておきたかった。
あらすじを簡単にいえば、この物語は高校3年生の女の子が、予期せぬ妊娠をしてしまい、思い合っていた恋人同士の関係が崩れていく一月から十一月までの物語。
河合隼雄氏推薦というだけでも間違いないし、カーネギー賞を受賞したほどの名作です。なのに、なのにですよ?残念ながら絶版が決定しているそう。
ああ、もう!
どうでもいいような本がたくさん出ている中で、こういったスバラシイ物語が絶版だなんて……。見かけたら、ぜひ手に取ってもらいたいです。
なぜなら、すべての人に関係する普遍的な物語だから。
先日ご紹介したクーベルチップさんで、まだ手に入ります!↓
10代未婚で妊娠、と聞くとふしだらな印象を抱くかもしれません。
所詮子どもの恋で、男子側は性欲だけなんじゃないか、とかね。確かにそういうケースも多いかも。
でもね、この物語は、その事実をセンセーショナルに描いていないんです。女性側ヘレンの手紙と、男性側クリスの回想で物語は綴られ、丁寧に丁寧に、どちらの立場からの心情も描いている。それぞれの心情が深く心に染み入り、もはや他人事とは思えなくなる。
うちは気を付けてるから予期せぬ妊娠なんて関係ないわ、と思うかもしれません。
が、この物語、それだけではないんです。周りの大人たちのそれぞれの知られざる背景も次第にあきらかになり、人間の生き方について考えさせられる。
そう、この物語は多くの“問い”をくれるんです。
性的関係を持つとはどういう可能性をはらむのか。
母との関係。
命の重みとは。
命に関することは、誰一人として無関係な人はいない。
性教育って、命の教育。物語だからこそ追体験できる、その意義の大きさを感じます。
ところで、あの子に渡したかったと言いつつ、実は私自身はクリス側を弁護したい気持ちでいっぱいだったんです。なぜなら、三人の男子の母でもあるから。どうしても、男子に肩入れしちゃうんですよね。
性欲だけのありがちな十代男子とクリスは違うよ!妊娠を告げた後もクリスは覚悟を決めてくれたのに、なぜヘレンは黙って一人で何もかも決めてしまうの?クリスはこんなにも誠実なのに。こんなにも愛しているのに。一方的に心を閉ざすヘレンは、ちょっと身勝手じゃない?
ついクリスに肩入れしてしまった私は、ラスト4ページになるまで、なぜヘレンがノーバディと手紙に綴っているのかを、クリス同様理解できなかったんです。私、女性でしかも母親なのにね。
そんなわけで、ラスト4ページで、それを理解したときの衝撃たるや!
ああ、だからヘレンは……。
読み終えたとき、ノーバディは消えていました。
現れたのは、私にとっても大切なサムバディ。
赤ちゃんが生まれるたびに思い出す、インドの詩人タゴールの詩を最後にどうぞ。
すべての嬰児は
神がまだ人間に絶望してはいない
というメッセージをたずさえて生れて来る