Pocket Garden ~今日の一冊~

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秋の夜長に少年少女文学の王道を

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『サリーの帰る家』(2010年)エリザベス・オハラ著 もりうちすみこ訳 さえら書房

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マイナーな本ばかり紹介していると言われてしまう私ですが、時々THE☆児童文学、といった王道の物語をたまらなく読みたくなります。

なぜだかは分からないけれど、秋になると特に。

 

というわけで、今日の一冊はそんな王道のこちらをご紹介!

 

『サリーの帰る家』あらすじ

本好きのサリーは夢想家ではあるが、待ち受ける運命は、百年前のアイルランドの国情を映して厳しい。しかしサリーは運命を受け入れ、未知の世界に果敢にとびこんでいく。父の死により、遠い農場で働くことになった十三歳の少女が、他人を思いやって信頼のできる一人前の娘になるまで。情景描写や心理描写も巧みにえがかれ、あきさせない。(出版社HPより転載)

 

読んでいくと……ん、既視感!?

でもでも、決してそれが嫌なわけじゃなくて。ああ、好きだなあ、これ。

赤毛のアン』のモンゴメリが描く物語のように、少年少女が違う環境で成長していく物語。もしくは、個人的に大好きな『海の島』から始まる『ステフィとネッリ』四部作も思い起こさせます。↓

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『海の島』(2006年)アニカ・トール作 菱木晃子訳 新宿書房

 

『ステフィとネッリ』シリーズが中高生向きな内容なのに対して、サリーの方は安心して小学生にも差し出せる内容。そこを物足りなく感じる人もいるかもしれませんが、一気読みでした!ああ、こういうの大好きだったなあ、って、サリーと同じく夢見がちで家事仕事が大っきらいだった少女時代の自分も懐かしくなる。

 

しかしね、さすがは階級社会ですよね。これじゃあまるで『アンクルトムの小屋』と同じじゃない!奴隷じゃない!とサリーが母親に対して叫ぶ“雇われの市”は結構衝撃です。子どもたちが労働力として売られていくんですから。

 

サリーと妹、それぞれの雇い主となった家がまたねえ、リアリティがあってよかったです。サリーの行った家庭では、一見良さそうに見えて、内情はそれほどよくなく……。それでもそこで居場所を見つけて居心地よくしていくサリー。

 

一方の妹のケイティの行った先は、魔女と思われる老婆の世話にあけくれ、読者もハラハラと心配になる環境。ところが、こちらもフタを開けてみれば、思ってたよりも悪くなくて。いい意味で、私たちが色眼鏡をかけて物事を見ていることにも気づかせてくれます。

 

そしてね、やっぱり王道ですから。

逆境に思えても、自分の心持ち次第で、今いる環境で最大限に幸せになることはできることを教えてくれる。清々しい読後感!

 

三部作なので、秋の夜長に続きを読むのも楽しみもできて嬉しいなあ。

王道が好きな方は、ぜひ!