Pocket Garden ~今日の一冊~

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お金を稼ぐことは悪なのか?

『起業家フェリックスは12歳』(2023年)アンドリュー・ノリス作 千葉茂樹訳 あすなろ書房

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今日の一冊は、児童文学には珍しい起業がテーマ!?おっ、訳が千葉茂樹さん!じゃあ、面白いに違いない、そう予感して手に取った1冊。

 

小学校高学年から楽しめそうで、将来何者かになりたがっている(大成したい)小5三男にもすすめてみようっと。起業に必要なことが具体的に書かれているので、起業に憧れてはいるけれど、実際よく分かってないとい大人にもおススメ。

 

時代設定は、インターネットが広がり始めた頃。常に何かちょっとした起業のまねごとをしては失敗していたフェリックスが、親友モーが描いたオリジナルのバースデーカードを販売し、やがてオンラインショップまで手掛けるようになって大成功する物語。先駆けだったから成功したっていうのもありますが、リアリティがあって、面白いです!

 

他に出ている子ども向けお金の本との違いは、こちらは教科書的ではなく、ちゃんと物語として成立していて、面白いこと。友情、家族、本当に大切なものは何かを考えさせてくれる物語でもあるのです。そこが、いい。

 

この物語の中にも出てくるのですが、なぜか大人たちは子どもが稼ぐことには顔をしかめる。“ビジネスにまつわる不思議な反応”とこの物語の中では称しているのですが、学校の先生たちはフェリックスたちの成功を知っても不自然なほど完全無視するような態度を取るというのです。これまで、生徒たちが何か立派な成果をあげたときには、全生徒に知れ渡るように発表してほめたたえるのに。スポーツでも美術でも、音楽でもいい成績をおさめると、かならずしっかり祝福されるのに。

 

うんうん、ありますよね。お金にまつわることは忌み嫌うという傾向。実際には、音楽でもスポーツでもそのお金をじゅうぶんにかけられた子が成功しがち、という一面もあるのに。部活は別として、そのさらに上の世界は、いかにお金をかけられたかということにかかってる。お金は自分の夢を実現させることの助けになってくれる。だから、お金は大事なはずなのに、この矛盾なぜ?

 

教頭のローリングズ先生は、フェリックスの成功にはっきりと不快感を示し、ビジネスをする行為によって学業がおろそかになるようなことがあったら厳格に対処すると言い渡してくる始末。スポーツで活躍してる子は、暗黙の了解で学業免除されるのにね。

ただ、救いだったのは、社会科で経済とビジネス楽を教えてるヒューズ先生だけは感心してくれて、先生の授業内で生徒の前で話す機会をくれたこと。

 

かくいう私も、お金なんて……、と思っていたくちでした。清貧の思想?稼ぐことが何となくよくないことのように思い込んでいた。そんなわけで、NPONGOなんかに憧れてた時期がありました。ただ、そんな中であれ?って思うことが多くなってきたんです。無償ボランティアに頼りきることへの疑問。本当に価値ある仕事であるならば、正当に評価され、正当なお金をもらってしかるべきではないかと。だから、みな疲弊して、疑問感じてやめていく......。やりがい搾取ってやつですね。

 

誤解しないでほしいのは、決して今の資本主義のあり方がいいと思っているわけではないんです。だけど、やりがいという名のもとに、例えば保育士、先生、介護職など本当に素晴らしい大変な仕事をしている人たちが、正当に稼げず、やめざるをえない世界はそろそろ終わりにしたい。お金稼ぐことに後ろめたさ感じさせるような教育してる(orお金の正しい教育をしてない)から、そういう人間力が必要な職業の人ほど、稼げないことを受け入れてしまう、そうさせられてる状況になっている気がするんです。彼らの優しさにつけこんでる気がして。

 

だからこそ、子どもの頃からフェリックスのように起業する子がどんどん増えてほしいなあ、って思うんです。だって、自分の心からやりたいことに純粋な子どもたちのアイディアや視点は新鮮で、地球に優しい新しい経済を見せてくれるような気がしてならないから。子どもが余計なお金を手にしたらおかしくなっちゃう?いやいや。それこそ、お金に使われるんじゃなく、使い方を教えるのが大人の役目というものではないでしょうか。

 

最後にこの物語で、一番印象的だったこと。

それは、“べつの物語を自分に語ることもできる”、という話。誰かに裏切られたと思ったとき、ずっと恨んだままその物語を抱えて生きていくのか、それとも別の物語を自分に語るのか。自分の捉え方を変えることで、人生を良い方向に変えることができる。そんな大事なこともこの物語は教えてくれます。ぜひ。