Pocket Garden ~今日の一冊~

大人も読みたい、大人こそ読みたい、大人のための児童文学の世界へご案内

素朴だけれど胸を打ち、心洗われる

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『海辺の町から』(1985年)佐藤州男作 理論社

※毎週月曜・金曜の19時~21時の間に更新中!

(できるだけ19時ジャスト更新!ムリだったら、21時までに更新笑)

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今日の一冊はコチラ。

これは、誰かに紹介してもらわないと、もはや出合えないかも。

絶版ですし、図書館でも閉架(書庫にあって表に出てない)状態。だから、紹介します!!!←謎の使命感。

 

ああ、出合えてよかったなあ。素朴だけれど、こみあげるものがあって、電車の中では読んではいけないタイプの物語。昔、なつかしい1900年代後半の理論社感満載です。『ぼんぼん』とか『兎の眼』『太陽の子』などの理論社大長編シリーズ。手元に置きたいから古書で手に入れよう。

 

この本を私が知ったきっかけは、友人がご縁で知り合ったさとこ先生のブログで紹介されていたからなんです。教え子の小5タクヤくんが、好奇心からタバコを吸うという事件を起こしてしまうんですね。大好きなさとこ先生を悲しませてしまって、どうしたらいいか分からなくて苦しむタクヤくん。そんなタクヤくんにさとこ先生がコピーして渡したのが、今日の一冊の中に出てくる非行少年のエピソードなんです。タクヤくんの話も泣いた。

 

25年間小学校の教員をされていたさとこ先生が、教員時代に出会った子どもたちのことを書いた、こちらのシリーズ『私が出会った子どもたち』カテゴリーもぜひぜひご覧ください!↓

ameblo.jp

 

さとこ先生のブログのこのカテゴリー、最初から一気読みしました。胸いっぱいになって泣きながら。実際にお会いしたさとこ先生ご自身は、とっても明るくて、とにかく面白い方という印象だったので、こんなに泣かされるとは思わなかった―(笑)。いやあ、もう、ほっっっんとに子どもたちって素晴らしい。

 

さて、『海辺の町』のほうの話にうつりますね。

作者は、新潟で三十年間教員をしていた方。教員人生の後半、十数年間は、障害児学級を受け持っていたとのことで、そのときの体験談を元に書きあげていて、春夏秋冬の12の月の短編からなっています。ただ、主人公は教員ではなく、駆け出しの女性新聞記者という形。新聞記者なので、当然のように時々強引なところもあったり、嘘も方便なところもあったり。そこだけは、個人的にやっぱり抵抗感じちゃったな。

 

とはいえ、エピソードの一つ一つは胸を打つものでした。素朴です。文章も。出てくるのは障害児や、非行児、学業不振児などさまざまなレッテルを貼られがちな子どもたち。あとがきによると、実は、作者自身が障害児たちに対して、最初は決していい印象を抱いていなかったそうです(←これを正直に書ける作者もすごいな、と思いました)。カリキュラム通りに進まない彼らに苛立ちを覚えていた。でも、あるとき彼らのすばらしさに気付かされるのです。球根に「話しかけて」いる子どもに衝撃を受け、目から何かが剥がれ落ち、そこから彼らのこころが見えてきたといいます。そうしたら、涙ぐみそうに幸福だった、と。

 

12の月のどのエピソードも甲乙つけがたいくらい好き。そして、心洗われる。

そして、最後の障害児学級のクリスマス会は、大フィナーレなので、お楽しみに!

『この子等に、世の光を』ではなく、『この子等を、世の光に』

 

うん、変わらなければいけないのは、目が曇ってる大人のほうなんだ。

子ども向けにやさしい言葉で書かれていますが、大人こそ読みたい物語です。