Pocket Garden ~今日の一冊~

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ツライ時代からもらう希望

黒い兄弟リザ・テツナー作 酒寄進一訳 あすなろ書房

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こちらも分厚さ(しかも上下巻!)におののきますが、なんのなんの一気読みです。

本好きな子なら小学校中学年から読めるのでは?以前、福武書店から出ていたものの復刊です!すぐ絶版になる今日この頃、復刊って嬉しい。

 

さて、『黒い兄弟』は、アニメ世界名作劇場ロミオの青い空』の原作です↓

 

放映25周年ということもあって、3月にはミュージカルにもなっていたようですね。 アニメのほうは私は見ていなかったのですが、とても好評だったようで、多くの人に感動を与えたんだとか。

 

こんな言い方すると批判されそうですが、ツライときは下を見ろ、という考えもあってですね、自分よりもツライ思いをして乗り越えた人がいるということが、いまツライ状況にいる人の救いになったりすることもあるんですよね。その人に比べたら自分はマシだ、って。比較は基本よくないのかもしれないけれど、その人だって乗り越えられたなら自分だって、と勇気をもらえるという意味ではいいと思うんです。今日の一冊もそんな物語。

 

黒い兄弟』あらすじ

物語は19世紀半ば。貧しい暮しに苦しむスイスのあちこちから、子どもたちがミラノの煙突掃除要員として奴隷商人に売られていった。辛い生活の中でも、煙突掃除の少年たちは、仲間と友情をはぐくみ、『黒い兄弟』という秘密結社を作り、彼らをさげすむ町の少年グループ『狼団』と戦う。ある日、偶然良心的な医師と出会った主人公ジョルジュたちは、逃亡することを決意し......。

 

なんて、なんてツライ時代なんでしょう。家族愛があっても、子どもを売り飛ばさなくてはならない状況。日照りなど人間の思うようにはなってくれない自然相手の暮らし。でもね、そこに“貨幣経済”というものが入りこんでいることが不幸の元凶だとも思うわけです。お金を払わないと医者に診てもらえない。お金がどうしても必要、だから子どもを売らざるを得ない状況。色々と考えさせられます。

 

THE☆王道の児童文学、といった感じなので、こんなうまくいくかな?と思うところも多々ありですが、いいんです、いいんです。

 

子どもが子どもらしくいられないだなんて。でも、いまの時代だって労働こそさせられていないけれど、子どもが子どもらしくいられない時代、という意味では同じかもしれません。

 

子どもの死因断トツ第一位が”自殺の日本。

命さえあれば、何とかなるよ!絶望に思えても、希望はあるよ!ということをこういう物語は伝えてくれます。生き抜いてほしい。

 

ミラノでの話は読むのもつらいのですが、ちゃんといい大人も出てくるところが嬉しい。どこかには必ずいるんです、いい大人。それが、希望。また、売られる前や逃亡中の自然の中で魚を捕まえたりする場面もあるので、そこはちゃんと楽しいです!苦しい場面ばかりじゃないので、安心して。敵対していた狼団ともお互いを認め合うところも好き。敵ながらあっぱれ!

 

友情ありの、最後はハッピーエンドで、『小公女』や『小公子』がお好きな方だったら、きっとお好きな物語。あきらめない勇気をもらえます。