Pocket Garden ~今日の一冊~

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塾なんて、って言わないで

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みかづき』(2016年)森絵都作 集英社

 

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今日の一冊は年始のお休みのときに読んだこちら!

長編でぶ厚めでしたが、一気読みでしたよ~。

 

《『みかづき』あらすじ》

「私、学校教育が太陽だとしたら、塾は月のような存在になると思うんです」
昭和36年。人生を教えることに捧げた、塾教師たちの物語が始まる。胸を打つ確かな感動。著者5年ぶり、渾身の大長編。

小学校用務員の大島吾郎は、勉強を教えていた児童の母親、赤坂千明に誘われ、ともに学習塾を立ち上げる。
女手ひとつで娘を育てる千明と結婚し、家族になった吾郎。ベビーブームと経済成長を背景に、塾も順調に成長してゆくが、予期せぬ波瀾がふたりを襲い――。

(出版社HPより転載)

 

 

2017年の本屋大賞第2位を受賞し、NHKでドラマ化して話題になった本です。

話題本ってあまり手を出さないのですが(←ひねくれ者笑)、これはちょっと読んでみたかったんです。

 

なぜって?

 

塾の歴史の物語と聞いたから。

 

“塾なんか” “塾のせいで今の子たちは時間がない”

 

そんな言葉を聞くたび反論したかったから。そんなに塾って悪い?みな必死で親は行かせたがる割に、なぜか塾についてまわるイメージはあまりよろしくない。

ちなみに身近で言ってたのはうちの夫です~。彼は良い先生に出会えなかったようで。確かにお受験系の塾の中には、質問を許さないといった塾もありますが、でも熱意があるのは確か。ひとまとめにしないでほしい。

 

私が塾に通ったのは、小学校6年生の一年間と、高校2&3年の夏季講習とちょこっとくらい。ですが、行ってた期間が短いのに、そこで得た刺激は大きく、いまだに思い出すと感慨深いのです。社会のはみだし者的な先生が多くて、すっっっごく面白かった!魅力的だった!

高校のときにちょろっと行った予備校(全国区で大手)では、平和活動をしている強烈なS先生がいて、テクニック的なことだけでなく、教科書には載ってないエピソードや社会を見せてくれた。

 

小6のときに通った個人経営の塾では、さすがにそこまで社会を見せてくれるような授業ではなかったけれど、それでも子ども心に、どうして塾の先生はこんなにも学校の先生と違うんだろう?って感じてました。

 

授業は面白いし、何よりも雰囲気が違う。みなタバコ吸ってたのも印象的だった(笑)。うちの両親は塾なんて(←ね、なんてという言葉が出てくる)行かなくていい派で、偏差値教育に疑問を持ってる人たちだったので、頼んで頼んで入塾テストを受けさせてもらった記憶。

 

でも、行き始めてからは全然悪くは言いませんでしたけどね。多分、あまりにも私が楽しそうだったから。望むがまま中学受験コースに入れてくれました。

 

その塾は個人の先生が一人で始めたのですが、駅前にビル丸々全館その塾だけで使い、分校もあって、マイクロバスでの送迎もありました。

 

この『みかづき』を読むと、それがいかにスゴイことだったのかが分かって、またまた感動してしまうのです。当時、子ども心にも、先生たちの熱意がすごく伝わってきて、学校の先生からはなぜあまり熱意が伝わらないんだろう?と不思議だったんです(学校にもいい先生はいました)。カリキュラム通り進めなくては!という制限がないのがよかったのか、塾の先生からは自由を感じたんですよね。学びの広がりを。

 

この『みかづき』は三世代に渡る物語。

物語が始まるのは昭和36年、昭和生まれの私にとっては、「え?そんな最近のこと?」というくらいの時代(笑)。この期間の日本の急激な変化、教育の変化には読んで改めて驚きました。自分が生きてる間だけでも、こんなに変化があったんだなあ、って。

 

個人的には、あれだけ反骨精神があってポリシーを持っていた千明が、方向転換してしまったことが残念で残念でたまらなかった。“生き残り”に焦点が当たると、人ってぶれるんだな、と。千明の変化は、色々とドキッとさせられ、考えさせられます。自分もそうなってないかな?って、我が身を振り返る。

 

周りの母友でも多いんです。子どもが小さかった頃は、ユニークな教育を模索したり、本来の学びをしてほしいと願っていたのに、いつの間にか中学以上になったら「全然勉強しない。成績あがらない」とそんな発言ばかり。あれ?そういう人だったっけ?って。

 

物語の中で、個人的に一番注目したのは、孫の一郎の代です(さかれているページ数は一番少ないけれど)。塾に通うお金がなくて、勉強で困っている子たち、あぶれてしまっている子たちの居場所を作るんです。もう、これ希望!もうね、読みながら、がんばれー!がんばれー!ってエール送っちゃいましたよね。

 

余談ですが、今回、読み終えてそういえば小学校のときの塾は個人経営だったから、いまどうなってるんだろう?と思い、HPをのぞいてみたんです。駅前から姿消していたので、もしかして、つぶれちゃったかな?とも思いながら。そしたらですね、移転しただけであったんです。

 

私のときは授業料が半額になる特待生コースは成績が基準で、私もその恩恵に預かったのですが、今回見てみると基準が変わっていました。成績は一切関係なし。

 

父親など家計を担う者が亡くなった場合は、学費一切免除で卒業まで面倒をみる。す、すごくないですか!?ここ読んで泣きました。

他にも、母子家庭割引、兄弟割引、経済的理由がある家庭割引まであるじゃないですか(涙)。もうね、『みかづき』読んでるから、それがいかに大変なことかが分かって、ああ、やっぱりあの塾の先生たちは素晴らしい人たちだったんだな、って。

 

子どもたちの学びに力を入れない国に未来はない、と聞きますが、ホントそうだと思う。これから、日本の教育がどうなっていくのか。いままでの経緯を『みかづき』を読んで知るのもよいかも。まずは、“塾なんか”と言いがちな夫にすすめてみようかと思います!