Pocket Garden ~今日の一冊~

大人も読みたい、大人こそ読みたい、大人のための児童文学の世界へご案内

あなたは選ばれる大人?

『ペイント』(2021年)イ・ヒヨン作 小山内園子訳 イースト・プレス

今日の一冊は、韓国で30万部突破し、チャンビ青少年文学賞を受賞した話題作のコチラ。話題作ってあんまり読まないんです。避けてるというよりは、後回しでいいかなー、と思ってるうちに読まずに終わってる感じ。なのですが、今回手に取ってみようと思ったのは、

 

「子どもに親を選ぶことができたら。人類の究極の「IF」に挑んだティーン小説。
大人こそ読んでこころの準備をしておいたほうがいい」

 

というブレイディみかこさんの推薦文が目にとまったから。大好きなブレイディみかこさんに、“大人こそ”と言われちゃあ、読んでみましょう、と。

 

なるほど、これは大人の課題図書かもしれません。親子ってなんでしょうね?登場人物のキャラが立っているという点において、物語というよりも漫画よりかもしれない。そのおかげで、本が苦手な子でも読める気がします。ドラマ化するのが目に浮かぶなあ。

 

設定は近未来で、舞台は韓国。監視管理社会にはゾッとするけれど、コロナ禍で既に似たようなことはじまっているし、意外とこんな未来すぐに来ちゃうんじゃないかというリアリティがあります。でも、技術は発達しても、人間というものはそうそうは変わらなくて。抱えてる悩みはいまとそう変わらないのかもしれない。きっと思春期の子どもたちは自分と重ね合わせて読むことでしょう。

 

さて、物語に出てくるNC(National Children国家の子ども)センターとは、政府が子どもを育てる施設。いまでいう児童養護施設の進化版みたいな感じ?個人的に、児童養護施設の子のホームステイをしてたこともあるので、感情移入してしまいました。この物語に出てくるみたいに、本当に志が高い、熱い先生たちにいっぱい出会ってきたので。

 

色々賛否両論、紆余曲折を経て、NCセンターが設定した養子縁組可能年齢は、嫌なことや間違いを口に言える十三歳以上の子どもにだけ、という点が非常に興味深かったです。小さい子を育てる苦労の時期をすっ飛ばすから、かえって養子縁組希望者が増えるという。そして、面接でOKを出すのは子ども側、親を決める選択権は全面的に子ども側にあるというのです。

 

さあ、大人のみなさん!果たして、我々が面接に行ったとして、選んでもらえるでしょうか!?問いかけられます。

 

でも、そんな数回の面接で人って判断できないよね?判断されちゃあ困るよね?その後合宿もあるけど、それでも分からないよね?そりゃ、合格の最低ラインっていうのは当然あると思うけれど(虐待しないとか、親の都合のいいようにしないとか)、いろんな失敗や試練を経て、一緒に学んで一緒に築き上げていくのが、きっと家族なのかな、って。

 

私個人の話になりますが、もともとあまり子ども好きじゃなかったんです。だから、子どものいない人生でいいと思ってた。でも、こんな子育てならしてみたいかもと思える友人たちの姿を見て、やっといてもいいかなと思えるようになってきた(傲慢ですよね、分かってます)。

 

ところが、妊娠して普通に嬉しいけれど、よく芸能人が発表で言ってるような“自分の中に生命が宿る奇跡”だの“自分の命にかえても惜しくない存在”だの、正直そこまでは思えなかった。生んだら変わるのかな、とも思ったけれど、正直そこまで変化なかった。もちろん、赤ちゃんはかわいいけれど、なんていうか普通にかわいい。周りがいうほどには自分には感じられなかった。

 

私おかしいのかな?と子煩悩だった自分の母にふともらしたら、“産んだから(自然に)かわいいんじゃない、育てていくからかわいいと思えるようになっていくのよ”と言われて、えー、あの母ですらそうだったの!?と驚いたと同時になんか救われたんですよね。

 

そこからは、まあ試練続き。子育て暗黒期を乗り越えまして、いまだって客観的にはダメダメ親子かもしれないけれど、主観的にはうちの親子関係最高!とまで思えるようになりました。そして、外でまったく知らない人の赤ちゃん見ても、抱っこしたい衝動にかられるくらいには赤ちゃん好きになりました(笑)。

 

しかし、もし、暗黒期中にこの物語のように面接されてたら、完全に私落とされてたよなあ、って思うわけです。よくいえば芯がある、悪くいえば自分の価値観を子どもに押し付けるような親だったから。うん、自分の価値観が絶対と思ってた点においては、毒親よりだったと思う。

 

そう思うと、“選べる”っていうのも実は不自由というか、なんて難しいんでしょう。選べることで、逆に逃してしまうものもたくさんあるのかもしれない。そんな風に思ってしまった。

 

そして、親になる準備ができてるって、どういうことなんでしょうね?

 

主人公のジェヌ301は、早熟な子で大人の偽善を見抜いてしまうんですね。だから、なかなか養子縁組が決まらないのだけれど、そんなジェヌが気に入ったのは、大人から見たら、大丈夫?というようなカップルだった。でもね、そのとき彼らをみてジェヌはこう思うんです。

 

彼らは、命令する代わりに問いかけと反省ができる親だった

 

と。

!!!

親になる準備って、どう子どもを導けるかとかじゃない。私たちは、つい子どもを間違った方向にいかないようにしなきゃ、とか思いがちだけど、それよりも、いかに”問いかけと反省ができるか”なんだなあ。

 

ネタバレになるので書けませんが、最後にジェヌのとった選択は、実に清々しいものでした!心から応援したくなる。がんばれ、ジュヌ!最後に、ジュヌの言葉をどうぞ

 

「わからないから不安だし。でもわからないから、思いがけないことに出会えるんだと思います」

 わからないってことは、必ずしも悪いだけじゃないはずだ。わからないから学べる、わからないからわくわくできる。人生は結局、知らなかったことにたえず気付いていくプロセスで、そこから喜びを感じる長い旅なんじゃないだろうか? P.219

 

うん。それでは聞いてください。藤井風で『旅路』笑↓

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