Pocket Garden ~今日の一冊~

大人も読みたい、大人こそ読みたい、大人のための児童文学の世界へご案内

さらけ出せ!自分を思い出せ!

『ビッグTと呼んでくれ』(2007年)K.L.ゴーイング作 浅尾敦則訳 徳間書店

毎週月曜日の19時~21時頃に投稿しています♪

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今日の一冊は、強烈な表紙のコチラ。原題は、FAT KID RULES THE WORLD(デブが天下をとってやるぜ)。

 

“まず自分が変われば、まわりの世界も変わっていく。自分を受け入れられるようになれば自然に、まわりの人々とも気持ちが通じるようになっていくもの”ということを、コンプレックスの塊だった横綱級に太った男子高生トロイと、退廃的なカリスマパンクギタリストのカートの友情を通じて描いた物語。

 

いやあ、なんか圧倒されました。パンクロックはあまり好みではないので、その不健康な世界観に読んでいてウッ、となるときもありました。が、面白かった。あまり好みではない、なんていいつつ、実は私、友だちについて行った初めてのライブはパンクロックでした(笑)。ガンズとかもめっちゃ聞いてた。私は枠からはみださない所謂つまらないいい子ちゃんだったので、そういうものに憧れたのかも?ロックとパンクの違いもよく分からずで、調べてみたら、パンクは反社会的な色合いが強く、奇抜なファッションであることも特徴的なんだとか。作者のあとがきによると、

 

パンクロック初期のミュージシャンたちは、外見ですぐ人を判断してしまう一般の人々の意識を変えたいと思い、そのために自分たちの外見を利用した。そして、わざと嫌われそうな攻撃的な格好をし、そうした姿に自分たちの個性と誇りをこめ、パンクロックという音楽を通じて、おれたちを見ろ、おまえたちも変われ、と人々を挑発した(P.285)

 

とのこと。

 

ところで、この物語に出てくるカートは、ニルヴァーナカート・コバーンからインスパイアされてるのかな?この物語のカートも、ニルヴァーナのカートも、その壮絶な生い立ちに読んでいて胸がしめつけられます。親に棄てられたという思い、薬物依存、宿なし。そんなカートと比較するからか、トロイにはなんだかイライラさせられました。親からも愛されてるのに、どこか甘ちゃんで。コンプレックスは、分かるよ、分かるよ、でもいつまでウジウジしてるんだー!!!って言いたくなっちゃう。だけど、思春期なんて多かれ少なかれみんなこんな感じですよね。どんなに恵まれてるって言われたって、自分がコンプレックス感じちゃったらなかなかそこから抜け出せないし、人の目が過剰なほど気になる。だから、この物語は思春期の子たちに響くんだと思います。

 

大人が読むと、トロイの父親(母親は既に他界)目線で感情移入するかもしれません。思春期の子とどう関わればいいのか。本当は助けを求めている息子の友だちに、大人としてどう救いの手をのべればいいのか。難しいですよ、これ。ホームレスの子に泊まれというのは簡単だけれど、じゃあ、いつまで泊っていいのか。違法薬物ではないけれど、薬物中毒でいけない手口で手に入れた薬を保持していることを知ってしまって、大人としてどう対処するのか。警察に引き渡す?何がその子のためにとっていいのか。大人としてつきつけられます。

 

紆余曲折を経て、トロイ自身が変わったとき、父親や弟との関係性も変わってくるさまがリアリティがあったなあ。そうなんです、相手じゃないんです、自分なんです。自分が変わると世界が変わって見え始めるんですよね。変わるというか、本来の自分を思い出すといったほうがいいのかな。自分をさらけ出すのはこわいけれど、でも、きっと自分が思ってるほど悪くない。

 

勇気をもらえる物語です。