Pocket Garden ~今日の一冊~

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ちょっと疲れたときに読みたい短編集

『ふしぎなオルガン』(2010年)リヒャルト・レアンダー作 国松孝二訳 岩波書店

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今日の1冊は、ちょっと疲れたなあと思うときにページをめくりたくなるおとぎ話の短編集。安心安全の我らが味方、岩波少年文庫でございます(笑)。読んだあとになんだか、ちょっと元気が戻ってる。

 

子どもたちにオススメなのはもちろんなのですが、私はむしろ疲れた大人にもすすめたい。一緒に楽しむのもいいなあ。

 

グリム童話ほど残酷でもなく、イソップほど教訓めいているわけでもなく、アンデルセンより個人的にはとっつきやすい。ファージョンを読んだときのような気持ちに包まれます。初めて読むのに、なんだか以前から知ってるかのような物語たち。

 

ファージョンといえば忘れ難い思い出が。以前うちにホームステイに来ていた児童養護施設の里子ちゃんが、とっても気に入っていたんです。読書家の彼女で、当時高校生だった彼女にはファージョンは子どもっぽいと思われちゃうかな?と思ったんですね。そしたら、「これ大好き」って。さらに、読み聞かせしてほしい、って。一人で寝たがる彼女だったのですが、この時だけは同じお布団に入って、ひたすらファージョンを読み聞かせした思い出。私が幸せだったなあ。

 

そんな彼女がファージョンと並んで好きだったのが、今日の一冊なんです。著者のレアンダーは意外や意外、ドイツの著名な外科医。なんと、これらの物語は彼が赴いた戦地から故郷の子どもたちに向けて書いた物語だというから驚きです。戦地という、非人間的な場で、あのような楽しく美しい物語を紡ぎ出す。いや、そうしなければ逆に彼はやっていけなかったのかも。

人として大切な何か、言語化はできないけれど心に持っていたい何かが、メルヒェンにはあるようです。

 

でね、最初にも書きましたが、私が声を大にして言いたいのが、大人にも読んでもらいたいということ。だって、メルヒェンが必要なのはむしろ大人だと思うから。でも、なんとなく少年文庫から出ていて、おとぎ話の短編集で……と言ったら、身近に低年齢の子どもがいない大人は手に取りづらい空気があるように思うんです。そんな空気を取り払いたい!

 

(精神的に)大人になりきれない大人というのとは違うんです。こういうところを思い出す、空想の世界に時として入りこむのは、大人子どもに関係なく、“人”として大事な気がするんだなあ。だって、読み終えたあと、あたたかい気持ちになるから。次!次!と読みたくなるというよりは、1話1話ゆっくり大事に読みたくなるような、そんな短編集です。