Pocket Garden ~今日の一冊~

大人も読みたい、大人こそ読みたい、大人のための児童文学の世界へご案内

ほんわか児童文学から自分の偏見に気付かされた話

『橋の下のこどもたち』(2002年)ナタリー・サベッジ=カールソン作 なかがわちひろ訳 ガース=ウィリアムズ画

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大草原の小さな家』シリーズ、『しろいうさぎくろいうさぎ』、『おやすみなさいフランシス』シリーズでもおなじみのガース=ウィリアムズの挿絵もよい!

クリスマスが近くなるとこちらを紹介してる方が多くて、読んでみたいなあと。もう年越してるやん、って感じですが読んでみました。

 

うん、THE☆児童文学。小学校中学年向けで、あっという間に読めるのですが、心がじんわりあたたかくなります。ああ、いいなあ。こういうの読むとほっとするなあ。クリスマスから新年にかけての奇跡の物語。と思っていたら、そこに終わらず、”所有とは?”なんてことまで考えさせられ、自分の偏見に気付かされる物語でした。

 

物語の舞台はパリ。主人公のアルマンじいさんは、パリの町が大好き&一人きままが好きな老人で、橋の下に住んでいるんですね。ところが、ある日びっくり。自分の場所に小さな三兄弟がいるではないですか。最初は追い出そうとするアルマンじいさんでしたが、次第に仲良くなって......さあどうなる?という物語。

 

しかし、この子たちの母親が、やっかいなプライドの持ち主なんです。子どもたちを施設に入れたくない、家族離れたくないから、仕方なく橋の下に住もうとしているけれど、こんな生活を軽蔑している。アルマンじいさんに世話になっているのに、感謝どころか早くこんな生活抜け出さねばと焦っている。

 

ああ、でもでも、ちょっとこの母親の気持ちも分かっちゃう。働けるのに働こうとしないアルマンじいさん、決していい大人の見本とはいえないかもしれないもの。自分もそういう人たちに対して、偏見持たずにいられるかと問われると、正直自信がないです。子どもたちほど、曇りのない目では見られない気がする。うちの子たちを物乞いに利用しないで!とか、私も思っちゃいそう......。

 

個人的にとっても興味深かったのはジプシーの人たちのところへ行く場面。あとがきで、なかがわちひろさんも解説してくれているとおり、ジプシーの人たちっていまだ偏見の目で見られがちなんだそうです。それは、人の土地にずかずか入ってきて、モノを取ってしまったりするから。うそつき、泥棒、そういう目で見られる。でもね、それは価値観というか倫理観というか、世界観が違うからなんですね。自分の子どもたちがジプシーの子どもたちと遊んでいる姿を見てショックを受けるお母さん。ジプシーの何が悪いのか?と問われ、少なくとも自分は彼らとは違って正直だと答えたお母さんに対し、アルマンじいさんはこういうのです。

 

しょうじきだとしても、いじわるで、心がせまかったら、いい人間とはいえないな。P.101

 

ドキッとしました。私も倫理観は強いほうなのですが、果たしていい人間かと聞かれると......。アルマンンじいさんは続けて、ジプシーたちのことをこう説明します。

 

「わるぎはないのさ。ぬすんじゃいけないという、おきてを、しらないんだ。ジプシーは金や、たべものを、ありあまるほど、もっているれんちゅうから、もらってくるのが、わるいことだとはおもってないのさ。......中略......みんな神さまの大家族。だから貧しいものは、みんなで助け合って生きていいく。」P.101

 

あとがきにもあったように、大自然と共に生きていた昔はそれでもよかった。でも、貨幣経済中心となった時代では、彼らの行動は理解されない。この土地も、あの土地も誰かのもの。ほしければ、金払え。所有、所有、所有。

 

なんだか、所有の概念持ってるほうが殺伐としてるような。取った、取られたと疑心暗鬼になり、貧富の差が生まれる。倫理観は強くても、果たして自分は自分よりも貧しい人たちに分け与えてる?色々と考え直させられます。

 

そこで、ちょっと話は違うのですが、思い出したのが、満州引き揚げ者でもある父から聞いた話。ロシア人もね、元バイキングだから、ジプシーのように人のものを盗るのは悪いという概念がないんだそう。ところが、彼らは矛盾するように感じるかもしれないけれど、信仰は厚い。だから、他の宗教でも信仰の厚い人のことは、意外にもリスペクトするそう。

 

こうして、ロシア人にも助けられて、300人もの戦災孤児たちを満州から引き揚げてきたのが、臨済宗妙心寺派管長の河野宗寛老師だそうです。信仰が厚かったから、ロシア人からも尊敬された。ロシア人とひとくくりにして見がちな自分に気付いて恥じ入りました。私の祖父も、ずいぶん満州の地でロシア人の人たちによくしてもらったそうです。まだまだ知らない素晴らしい人たちがいるなあ。

 

すごいなあ、児童文学って。小学校中学年でも分かる、ほんわか優しい気持ちになれる物語なのに、色々と考えさせられるし、自分の中の偏見に気付かされる。これだから、児童文学を読むのはやめられないんです。よかったら。