いつも読んでいただき、ありがとうございます。
Facebookの『大人のための児童文学』ページの方に、以下のようなご質問をいただきました。↓
児童文学と童話の明確な境とは何なのでしょうか?
児童文学は童話よりも話が長く、少し大人向きと耳にしたことがあるのですが、本当のところが分かりません。
自分自身の中でも迷うところがあったので、こちらのブログに書いてみようと思いました!
自分の中では、主観で“こういうもの”という境はあるのですが、果たしてそれが客観的に学術的に正しいのかが分からず、絵本・児童文学研究センターでの講座資料を引っ張り出してきて、色々調べてみたりしました。
結論からいうとですね、“明確な”境あるいは定義は、よく分かりませんでした(どなたか教えてください)。答え“らしき”ものはあるけれど、“明確か”と問われるとちょっとグレーゾーン。
子どもの本の歴史って、1658年のヨハン・A・コメニウスによる『世界図絵』というのが最初の絵本の原型ようなものだと言われています。内容は、いまでいう『子ども百科』、絵入り教科書に近かったとか。そこから徐々に寓話(擬人化した動植物が登場する教訓的なお話)や、メルヘン(グリム童話とか)をへて、アンデルセンが童話芸術を確立したと言われてます。まだ児童文学と呼ばれるものが出てきていない時代。
日本では、明治から子ども向けの雑誌は出ていて、『ロビンソン全伝』(ロビンソン・クルーソー)、『八十日間世界一周』、『十五少年漂流記』などの翻訳文学もあらわれています。ちなみに、「小説」は程度が低くて子どもたちには有害とされ、文章を学ぶためのものとして「文学」ならよい、というのが当時の考え方だったんですって。
その後、誰もが聞いたことがある鈴木三重吉が大正7年(1918年)に子ども向けの雑誌『赤い鳥』を発刊したあたりから、創作童話と呼ばれるものが出てきます。三重吉が『赤い鳥』を創刊した動機として、長女が誕生がきっかけなんていう美談もありますが、内情は借金返済が理由だったとか。人間らしくて、まあ、いいじゃありませんか(笑)。
大正14年(1925年)に『赤い蝋燭と人形』などで知られる小川未明が早大童話会を立ち上げ、昭和21年(1946年)に発足した日本児童文学者協会の初代会長を務めているので、この頃から児童文学という言葉はあったのですね。
最近では、小学校低学年向けの絵本よりは文章が長めの読み物を“幼年童話”と呼ばれています。絵本のように眺めるのがメインなものから、自分で読むことへの橋渡しになるようなものが幼年童話。出版社自身が幼年童話シリーズとうたってたりもしますね。例えばこれら↓
一方、低学年向けだけれど、『ちびっこカムのぼうけん』あたりは児童文学に入るのでは?と個人的には思ったり。
ちなみに、子どもたちに大人気のゾロリシリーズ、おしり探偵や、つばさ文庫の一部は私の中では幼年童話とも児童文学とも呼ぶには抵抗があり(それらが悪いという意味ではなくて、あくまでも呼び方として)、個人的には“児童書”と呼んでいます。
なので、境と言われると本当に難しい。
個人的には“小説”と“文学”の違いや境はどこなのか。“小説”と“物語”の違いは?なども考えることが多いです。中高生向けの児童文学と呼ばれるジャンルを読んでいると、いや、これは文学というよりヤングアダルト小説よね?と思ったり。文字ではなく漫画でやったほうがよかったのでは?などなど、児童文学と呼んで紹介してしまうことにちょっと抵抗があるものもあり。その境はどこなんだろう、と。自分の中の感覚としてはあるのですが、客観的な区切りではない。
そんなモヤモヤしていたときに出会った説明をご紹介しますね。何かの本に引用されていて、メモしていたもので、この本自体は未読なのですが↓
「物語」といわれる作品は、小説とちょっとちがって、個人の問題よりは、積み重ねられた人類の知恵を語ると言われます。そして、そのために人物よりは出来事を、場所よりは時間の流れを追うとも言われます。
なるほどー、と個人的には腑に落ちた説明でした!この「物語」が自分の中では児童文学です。
ただ、このように線引きすること自体が、あまり意味がないんじゃないかな、というも思いも。例えば児童文学と“児童”をつけてジャンル分けするから、大人こそ読んでほしいものでも、大人の目に留まることがなくなってしまうから。もったいないなあ、って。春休みに連れて行っていただいた名古屋のちくさ正文館書店さんなんかは、そういう境のない棚の作り方で、出会える本屋さんでした!
線引きすること自体あまり意味がないのでは?といいつつ、一方で、それについて考えるの、とても楽しかったです!答えを出すことよりも、考えたり自分の中で問い続けたりすることが大事だなあ、って改めて気付かされました。今回はご質問いただいたことで、自分の中で考えるきっかけをいただけたなあ、って。ありがとうございました!
答えにはなっていないかもしれませんが、いつでもこのようなご質問は大歓迎です。