Pocket Garden ~今日の一冊~

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スッキリなはずのラストに、なぜかモヤモヤ

『逆ソクラテス』(2020年)伊坂幸太郎作 集英社

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伊坂幸太郎が珍しく小学生たちが主人公の短編集を書いた、とのことで、読んでみました。痛快で、とても面白かったです!さすがの構成力だなあ、って思う。

 

でも、ちょっぴりモヤるのはなぜなんだろう......それを考え続けています。

 

メッセージ性が強すぎるから?

 

会話での説明が多すぎるから?

 

ああ、痛快だった!で、終わらせていいのだろうか。そんなことを考えてしまうんです。なので、純粋に楽しまれた方は、この先は読まないでくださいね。

 

いや、とてもいい内容なんですよ?ものごとを決めつけがちな大人は、ハッとさせられる場面も多い。わが身に振り返って、自分の思い込みや先入観を反省させられる。

また、まっすぐな子どもたちの姿に、きっと勇気をもらう子ども、大人もたくさんいると思うんです。特に、第一話の『逆ソクラテス』に出てくる、

 

「僕はそう思わない」

 

は自分を守ってくれる、お守りになるようなマジックワード。例え口に出せなくても、心の中で思うだけでも、いい。相手の偏見や理不尽な決めつけを受け入れない。これは大事なことだなあ、って。

 

うーん、なのに、なぜモヤるんだろう。純粋にエンタメ小説としても面白いのに。いじめだったり学校特有の閉塞感があるから苦しいのかな。似たような体験をした人はトラウマがよみがえるかもしれません。子どもの世界って、思ってる以上に残酷ですからね。

 

悪役の登場人物に、ぎゃふんと言わせるラストなので、この小説を読んで、理不尽な思いをした過去の自分が慰められたような気持ちになる人もいるんでしょう。だから、痛快。子どもたちに教えたいことも詰まってる。

 

でもでも......。

痛快さは残るけど、それは“希望”とはちょっと違う気がして。帯に「最高の読後感」とあるけれど、我が子がこれを最高の読後感と感じたら、私はちょっと複雑かも。論破の気持ちよさと、どこか似通った空気がある気がして。

 

あ、そうか。きっと、私は悪役の登場人物たちにも、“背景”があることをもっと感じたかったのかもしれないです。児童文学では、そう感じれるものが多いから。そこが、児童文学に慣れてしまっている自分には、モヤっとしたのかもしれません。

 

色々考えるきっかけをもらえたので、読んでよかったです!