Pocket Garden ~今日の一冊~

大人も読みたい、大人こそ読みたい、大人のための児童文学の世界へご案内

人間と動物はどちらが大事?

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『フラミンゴボーイ』(2019年)マイケル・モーパーゴ作 杉田七重訳 小学館

 

※毎週月曜・金曜の19時(ちょっと遅れることもあり💦)更新中!

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今日の一冊は、美しいピンクのフラミンゴにナチス帽が印象的な表紙。8月15日の終戦の日に読みました。

 

 

『フラミンゴボーイ』あらすじ 

歴史のひとこまを力強く描く感動作品
一人のイギリス青年が、一枚のゴッホの絵をきっかけに訪れた南仏カマルグで、原因不明の高熱におそわれ動けなくなる。辺りにはフラミンゴが無数飛んでいた。気を失った後、助けられた家で不思議な話を聞くことになる。
第2次世界大戦の末期、南仏の田舎町カマルグにもナチスはやってきた。
そこで何が起きたのか………?
それは、フラミンゴと話ができる不思議な力を持つ少年とロマの少女の物語だった。(出版社HPより転載)

 

大人こそ読みたい物語 

今年2020年の高校生の部の課題図書です。マイケル・モーパーゴは、イギリスの児童文学界を代表するストーリーテラー。あとがきで、訳者の杉田七重さんがこう書いています↓

 

「このところ彼の発表する作品には、子どもたちの見たいに大きな責任を持つ大人たちへのメッセージも色濃くにじんでいるような気がしてならない」(P298)

 

そうなんです、そうなんです。特に戦争文学は、大人が読んでほしい。起こすのは大人だから。止められるのも大人だから。

 

戦争文学ですが、流れている空気は温かく優しい。重たくないので、戦争文学が苦手と思ってる方にも!ロマの人たちへの差別など、胸をしめつけられるような場面も時々出てきますが、それ以上に美しい光景を堪能させてもらいました。それは、カマルグという場の持つ力と、ロレンゾがいるから。「カマルグ」でぜひ画像検索してみてください。なんて神秘的な光景なんでしょう。息を飲みます。

 

そして、ロレンゾ。彼はいわゆる発達障害の子なのですが、動物と意思疎通ができるんです。ロレンゾがフラミンゴの真似?なりきって?いる場面は本当に美しく、知らず知らずの間に私のことも癒してくれていたようです。ロレンゾは聖人のような気がしてきました。

 

そんな変わり者のロレンゾですが、理解ある両親に愛され、動物を治してくれるということで、村人たちも一目置いてくれているようで、ほっとします。

 

父性性と母性性、戦争を止めるのはどちら?

 

そんな仲良し両親ですが、フラミンゴの卵の盗難をめぐって、一度言い合いになります。戦争の中、飢えに苦しむ人たちがフラミンゴの卵を盗みにくるんですね(高く売れるから)。通常だったら、見逃さないのですが、こんなご時世、人もみな飢えている、フラミンゴはまた来年も卵を産む、と。人間か、フラミンゴかどちらが大事なのか、と問いただす夫のアンリ。それに対し、きっぱりこう言い放つ奥さんのナンシーのかっこいいこと!

 

「フラミンゴよ!」

 

「フラミンゴは戦争を起こす?銃をつくったりする?人を奴隷にする?ロマや、サロモン先生みたいなユダヤ人を強制収容所や、もっとひどいところに入れたりする?自分たちとちがっているからっていう、ただそれだけの理由で?……」(P230-231)

 

 

アンリの言うことも、一見もっともなような気がします。父性性だと、論理的に脳で考え、色んなことが大義名分化されてます。でも、母性性は心で、直観で命に結びつく本質を見るんですよね。

 

以前習った講義の中で、父性性は裁断原理、母性性は包括原理、と習いました。戦争は感情的だと思われがちだけれど、実は非常に理性的。そして、理性的になればなるほど残酷になっていく、と。

 

名作と言われる他の戦争文学でも、いつだって命が大切、という当たり前のことを声高に叫べるのは母性(性別じゃないです。男性にも母性性はあるので)。戦争を始めない、止める鍵は母性性が握っているな、って思います。

 

その他にも、ロマのこと、ドイツ兵の中にも良心を持った人もいること、など読む人によって、響くところが違うかもしれません。

 

個人的には、映画で見てみたいなあと思う絵画的な物語でした。

 

【今日の一冊からもらった問い】

極限に置かれたとき、人間優先じゃない決断を自分ならできる?