Pocket Garden ~今日の一冊~

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疲れたら優しい世界へ!

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『ヤービの深い秋』(2019年)梨木香歩作 福音館書店

 

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やっと大好きな秋が来たと思ったら、また夏日に戻ったり、何着たらいいか困ってしまう今日この頃です。というわけで、今日の一冊は秋テーマから。

 

『ヤービの深い秋』あらすじ

出会ったのは森の奥深く、きみの夢の底深く

秋はしだいに深まり、冬ごもりの支度におおいそがしのヤービたちは、博物学者であったグラン・グランパ・ヤービが、ややこし森でみつけたという、まぼろしのキノコ、ユメミダケを探す冒険に出発します。同じころ、フリースクールの生徒ギンドロと、ウタドリ先生たちも、ギンドロの見つけた不思議な手紙に導かれ、テーブル森林渓谷、ヤービたちのいうところのややこし森へと向かっていたのでした。ヤービシリーズ待望の第二弾。(出版社HPより転載)

 

『岸辺のヤービ』の続編です。前作を読まなくても楽しめる内容にはなっていますが、登場人物同士のつながりや、過去の出来事も出てくるので、やっぱりできるなら一作目から読んだほうがいいかもしれません。1作目↓

blog.goo.ne.jp

 

相変わらず丁寧で優しい世界が広がっています。優しいといっても、胸がきゅっとなるような切なさや悲しみも描かれているんです。ええ、秋の気持ちが。

だけど、意地悪い人が出てきたり、人間(生き物)不信に陥るような出来事は一切出てこないんですね。大沢さかえさんの挿絵もこの世界観にあっていて、とっても素敵。

 

個人的には、パパ・ヤービがツボでした。誰よりも少年心を持ってワクワクしていて、だけど威厳を保とうとしていて、かわいいなあ(笑)。そして、自分が間違えたと思ったときは、素直に謝り、子どもたちの意見にも耳を傾ける。パパ・ヤービが念願の鳥の背中に乗って大空から下界を鳥瞰(俯瞰)したときに感じたこと、大きい人も小さな生き物も、みんなみんな同じ時を生きているという実感もとてもよかった。

 

もう一つ印象的だったのは、ウタドリ先生が、どういう子が秘密の手紙を見つけるかを、ちゃんと分かっていたところ。羽目板の後に手紙が隠れていることに気づくのは、やるせない気持ちをもってそれを眺めている子。毎日が充実してて、友だちとワイワイ楽しんでる子は次の行動に忙しくて、そんなことには気づかない。そうなんですよねえ!

 

個人的には、“孤立”は避けたいけれど、“孤独”自体は悪くないと思っていて。人は時として孤独にならないと見えてこない景色出会いがある。孤独にならないと、感じられないこと、自分自身を見つめなおせないことがある。ギンドロも複雑な家庭事情があり、孤独を感じていたけれど、友だちとワイワイしてたらこの冒険には出ていなかったと思うんです。

 

その他にも、虚言壁のあったトリカの成長も見どころ(?)ですし、何より食べ物が美味しそう!(←重要笑)

 

疲れている方、ヤービたちの優しい世界へ行ってみませんか?