Pocket Garden ~今日の一冊~

大人も読みたい、大人こそ読みたい、大人のための児童文学の世界へご案内

知ればほら、世界が広がる

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『夜間中学へようこそ』(2016年) 山本悦子作 岩崎書店

 

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夜間高校は知っていたけれど、夜間中学について知ったのは、お恥ずかしながら最近のことです。自主夜間中学をされていた方の講演を聞く機会があって、それ以来気になっていました。

 

まるで、ドラマを見ているかのようで一気読み。面白かったです!

 

 

【『夜間中学へようこそ』あらすじ】

ある日おばあちゃんが、「私も学校へ行く」と宣言。孫の優菜と同じ中学1年生になるという。おばあちゃんが読み書きができないと知らなかった家族はびっくり。戦後の大変な時期で小学校も低学年のことしか行ってなかったというおばあちゃん。今まではおじいちゃんが助けてくれていたけれど、そのおじいちゃんが亡くなった今、もう一度学び直したい。渋る息子であるお父さんをなんとか説き伏せて、イキイキと通い始めたおばあちゃんでしたが、転んでしまって......。おばあちゃんの付き添いで一緒に通うことになった孫の優菜の前に、個性的なおばあちゃんのクラスメイトが次々現れ、新しい世界が広がる。

 

 

【学びって何だろう】

 

ああ、多様性。

なんて、なんて、魅力的なんでしょう!

 

おばあちゃんのように戦後学校へ行けなかった人もいれば、不登校だった10代の子たち、日本で働く外国人たちもいて、これぞ多様性。雰囲気がねえ、とってもいいんです。

 

なぜって?だって、みんな学びたいという意欲を持った人たちの集まりだから。学校に“行かされてる”感の普通の学生たちとの違いたるや。いや、普通の学生たちのやる気のなさがダメって言ってるのではなくてね、そう感じさせてしまう環境のほうに疑問。

 

学校って、学びって何なんだろうと考えさせられてしまいます。

人は誰しも成長したいもの。でも、「学びたい!」という意欲が生まれる前に、外側から強要されてしまう。成長するスピードや方向性まで、他人に決められがち。個人のスピードよりも重視されるのは、カリキュラム通りにスケジュール内で終わらせること。もちろん、やりたいことを応援してくれる大人もいるけれど、植物に水やりすぎて根腐れするように水やりすぎ傾向にあるように感じることも多いのです。

 

 

【人を傷つけないためにも知る!】

 

テンポよく、とても読みやすく書かれているけれど、学校以外のことも色々と考えさせてくれる物語です。

 

例えば、優菜は最初はおばあちゃんが学校へ行くことを応援していて、恥ずかしいと思うお父さんのほうが信じられなかったのです。けれど、「いい歳して簡単な感じも書けないのって、かっこ悪いよねえ」という友だちとの何気ない会話にショックを受けてしまうんですね。夜間中学がいかに楽しいか友だちに話したかったのに、言えなくなってしまう。友だちのほうも悪気ないだけに、こういうことって、実は日常の中でいっぱいあるんだろうなあ、って。

 

ちょっと違うのですが、自分の学生時代のことを思い出しました。

留学していたとき、大学の寮長の人がとってもかっこよかったんです。ところが、彼がゲイと聞いて、どうも私はガッカリしたような発言をしたらしいんですね、憶えてないけど。それがきっかけで、当時仲良しだった留学生仲間が私に自分もゲイだということを告白できず、苦しませてしまったという経験があるんです。

 

彼女が私に自分のことを伝えるまでに、実に3年もかからせてしまいました。なんとなく気づいていたし、既に仲のいい友だちだったので、彼女のことそれでキライになるなんてことないのに。聞いたからとて関係性が変わるわけでもないので、そんなに身構えなくていいのに、とこちらは思うけれど、憶えてないくらいの会話で彼女を苦しめてた。同じく、優菜のおばあちゃんも、家族に学校に行きたいと言い出すまでに何年もかかっていたんです。

 

その他にも、日本で労働している外国人の人たちのことや満州引き上げ時の苦労話も盛り込まれています。

 

個人的には、夜間中学の中で一人不機嫌で異質な存在のカズマという子に対する夜間中学の先生の対応も印象に残りました。優菜がカズマを傷つけてしまったときの先生の対応。厳しい......でも、そこまでのことなんだよなあ、って。

 

あらためて、世界を知らなければなと思いました。

知らないと、自分の気づかないところで人を傷つけていることがあるから。

そういう意味でも、知らない世界を学ぶ大切さも痛感。

 

漫画版もあるようなのです↓

 

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アクションコミック『夜間中学へようこそ』(2020年)沢音千尋漫画 山本悦子著 双葉社