Pocket Garden ~今日の一冊~

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苦労させたくない親心ってダメなの?

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『兄の名は、ジェシカ』(2020年)ジョン・ボイン著 原田勝訳 あすなろ書房

※毎週月曜・金曜の19時~21時の間に更新中!

(できるだけ19時ジャスト更新!ムリだったら、21時までに更新笑)

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今日の一冊はコチラ。

 

兄なのにジェシカ?ジェシカって女の子の名前では?

と、タイトルからも推察できるように、今日の一冊は、トランスジェンダーに悩む兄を弟の視点で綴った物語。

 

とっても読みやすく、これが自分の家族に起こったことだったら……と考えさせられます。とはいえ、手渡すタイプの物語で、自分からは手に取らない内容かもしれないですね……。と思っていたら、今年の、読書感想文課題図書高校の部に選出されたそうです!やった!

 

でも、私自身は、なぜこんなにもマイノリティと呼ばれる人たちの物語に惹かれるんだろう?

 

純粋に知らない世界を知るのが、楽しい(といったら語弊があるかもだけど)というのと、前にも書きましたが、身近にいたゲイの友だちを、ゲイだと知らされていなかったときに知らず知らずのうちに傷つけていた体験があったからかな、やっぱり。

無知でいると、悪気なく傷付けちゃうことあるんですよね。だから、知りたい。

 

重い内容といえば重いですが、設定が面白くて軽快さもあります。主人公でもある難読症のぼくサムは10歳で、そのせいか友だちもいないけれど、人気者の兄を誇りに思っているせいか、それほど悲壮感もない。

そして、両親の設定がなかなかユニークな設定でして。なんと、ママは有名人、首相の座を狙う閣僚で、パパはママの秘書。普通の家じゃない(笑)。

 

そういうおうちなので、”世間体”は当たり前に大事なのです。

この両親がね、意外とリアリティがあるかなー、と思ったのは子どもに対する言動なんですよね。一見毒親チックなんだけど、それって愛情注いでる自信があるからの発言なのかな、とか。

 

世間体も気にするし、なんなら、カミングアウトされたとき、めっちゃヒドイ発言ばかりしてたけれど、それでも子どもが信頼したがってたことから、それなりにいい親だったんだろうなあ、とも感じられる。親だって、揺れ動きますよね。未熟がゆえにしてはいけない発言、時にはしちゃいますよね(←え、うちだけ!?)

 

それにしても、カミングアウトしたときの家族の反応はヒドかった。

一番苦しんでいるのは当事者のジェイソンなのに、自分たちに及ぶ被害ばかり考えて。ここは読むのが苦しかった。

どんな思いでカミングアウトしたんだと思ってるんだ!?なかったことにしよう、忘れよう、って……おいおいっ。挙句の果てに思春期の問題、または精神病扱いして、電気ショック療法とか言い出す両親。ひどすぎる……。でもね、実際家族にも被害があるんですよね、だからここも現実的なんだろうな、って……。

 

特に、弟のサムはもともといじめられっ子気質だったこともあって、兄のことが知れ渡ってしまうと、まあ、ひどいことをされるんです。きれいごとじゃ済まない。なんでカミングアウトしたんだよー!と思うのも当然。さらにね、驚くのがこれが昔の話じゃなくて、いまの話なんですよ。エド・シーランやメーガン妃が出てくる現代。

 

ずいぶんとヒドイ捉え方をした両親。ですが、あまりにもジェイソンの話を聞かないので、カウンセラーの先生からジェイソンと二人にしてほしいと言われたとき、こういうんです。

 

「ジェイソンはわたしたちの息子です。ですから、わたしたちがどう思っているかは別にして、この件にかかわっていたいのです。わかりますか?かかわっていなくてはならないんです」P109

 

さらに、カウンセリングに弟のサムも同席させたのは、彼も家族の一員だから、と。ジェイソンはそれを聞いて喜ぶんです、一人じゃ乗り越えられないから嬉しい、と。そんなすぐには受け止められないし、反応も間違ってるかもしれないけれど、でも少なくともこの母親はかかわろうとしている。もがいてる。

 

とはいえ、なかなか受け入れられない家族。家庭内での居場所をなくしたジェイソンは家を出ていきます。

 

うーん、難しい!

以前読んだこちらもトランスジェンダーに関するもので、とってもよかったので、ぜひあわせてお読みいただければ↓

blog.goo.ne.jp

 

が、今回の物語が『ジョージと秘密のメリッサ』よりもすんなりいかないんです。読者もなかなか受け入れがたいのは、きっとね、ジェイソンがサッカーが得意で学校一美人の彼女もいて、誰もが憧れるような”男らしさ”全開の人気者だったから。

ジョージの場合は、内気で年齢も小学4年生だったし、なんとなく周りもすんなり受け入れやすいんですよね。でも、ジェイソンは……あえて性別変えて苦労しなくてもいいのでは?と思う親心も痛いほど分かる。憧れだった兄を失う弟の気持ちも。いや、でも本当の自分でいられないジェイソン自身が一番苦しいということを、私たちは忘れちゃいけない。いやあ、難しい。

 

そんな中、親としてこうありたい!という動画を、先日偶然見つけました。 

こちらは、ゲイであることを父親にカミングアウトした人の動画なのですが、この父親の返答が素晴らしくて。お前が一番いままでしんどい思いしとったはずや、って。ああ、私こういう風に言えるかな、って。お父さん、めっちゃ早口マシンガントークなのもスゴイ(笑)。

 

ゲイとトランスジェンダーは全然違うということは分かっているのですが、カミングアウトの大変さという共通点から、この素晴らしいご両親の反応をご紹介させてください。ちなみに、このおうち、母親の反応も妹の反応も自然体で素晴らしいの。↓

www.youtube.com

 

途中、読んでいて苦しくなる場面もあるのですが、最後はうまくいきすぎじゃ!?と思うくらいの大団円で、後味がよい物語なので、ぜひ。