Pocket Garden ~今日の一冊~

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残酷で健気な子どもたち

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『夏の丘、石のことば』(1996年)ケヴィン・ヘンクス作 多賀京子訳 徳間書店

※毎週月曜・金曜の19時(ちょっと遅れることもあり💦)更新中!

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またまたひと夏の物語から一つご紹介。

 

自分より相手のほうが不幸だと思うことで、何とか自分の状況はマシだと思い込もうとすることって、大人でもありますよね。それが、子どもだと良くも悪くもストレートに出て、時にびっくりするくらい残酷なことを考え出してしまうことも。子どもって残酷で、傷つきやすくて、素直で、学び(成長)も早い。傷ついた子どもたちが友情を得ることで変わっていく物語です。

 

『夏の丘、石のことば』あらすじ

ある夏の日に、丘の上に突然現われた石のことばのせいで、ますます自分の世界に閉じこもってしまうブレイズ。けれども、丘のむこうの家にやってきたジョゼルという風変わりな女の子と知り合いになってから、ブレイズの生活はジョゼルを中心にまわりはじめた。丘の上での印象的な出会い、そしてお互いにかけがえのない存在となったふたり。ところがやがてうそがばれ…。心の傷を癒し、豊かさをとりもどす少年と少女の繊細さをみずみずしく描いた児童文学。小学校中・高学年~。(BOOKデーターベースより転載) 

 

残念ながら絶版なので、図書館か中古で探してみてください。

 

幼い頃に母を病死で亡くしているブレイズは、その後も火事に巻き込まれたトラウマに悩まされたり、イマジナリーフレンド(想像上の友だち)を作り出すことで、何とか日々を生き抜いているんですね。

 

ところが、ある日その傷をえぐるような言葉が丘の上に石を並べて作られていた。

一体誰が!?何のために!?!?

 

その言葉がどれだけ彼を苦しめるかを知って、あえて並べたのが丘の向こうの家にやってきたジョゼル。自由奔放な母親に見捨てられたと感じているジョゼルは、自分よりも不幸な子(ブレイズ)がいると思うことで、何とか自分のみじめさから抜け出そうとするんです。これがねえ、本当にゾッとするほど意地が悪いのですが、ゾッとするのはその気持ちも分かるから。

 

ところが、ところが、子どもって素直なんです。出会った二人はあっという間に仲良しに。この時間がもう楽しい!すると、今度はブレイズに嘘をついたことがジョゼルを苦しめていくんですね。それでも、自分に言い訳をして、「これが最後だから」とブレイズの大切にしてるものも盗んでしまう。いや、盗むという感覚ではなくて、本人の中ではちゃんとした理由があるんですけど、これ大人には理解できないだろうなあ。状況は全然違うけれど、この感覚、なんだか分かる。

 

途中、すっかりブレイズの家族が気に入ってしまったジョゼルは、想像の中で自分も彼らの家族の一員だと思おうとしたりね、もうね、けなげで愛おしい。破天荒なジョゼルをぎゅっと抱きしめてあげたい。

 

ああ、子どもって、残酷さと健気さが混在しているんだよなあ。そして、キラキラとした時間。そういうことを思い出させてくれる物語でした。