Pocket Garden ~今日の一冊~

大人も読みたい、大人こそ読みたい、大人のための児童文学の世界へご案内

家族を忘れるほど追求したいもの

 

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『夢を追う子』(1972年)W・H・ハドソン作 西田実訳 福音館書店

 

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今日の一冊は、親の目から見たら「行方不明になったまま戻ってこなかった子どもの物語」、子どもの目から見たら「ある少年の壮大な冒険物語」です。

 

『夢を追う子』あらすじ

雨の多いイギリスの地域から、人里離れた大平原へと引っ越しをしたマーチンの家族。マーチンは動植物を遊び相手に、友だちがいなくても飽きることなく暮らしていた。ところが、ある日、美しい蜃気楼に惹かれ追いかけていくと......。美しくて優しい山の精に守られつつも、海への憧れを捨てきれないマーチンの旅は続く。少年の心の中の“あこがれ”追求と、自然の神秘とのふれ合いを幻想的に描いた作品。

 

 

駒井哲郎さんの版画が素晴らしいです!

 

時々森の中で迷子になり、数日後に奇跡的に見つかった子どものニュースを目にします。不思議なのが、その子たちがどうやって生き延びていたのかということ。

 

海外のある子どもは、熊さんが一緒にいてくれたと語ったり。

よく覚えていなかったり、言語化できない子も多い。大人はトラウマを心配しますが、子どもたち自身はあまり怖がっていなくて(ただし自然の中での行方不明に限る)、不思議な感覚にとらわれます。大人には見えない何かが一緒にいて守ってくれていたとしか思えないな、って。そう、この物語のように。

 

現実で行方不明のまま見つからない子たちも、どうかどうかその子たちを待ち受けていたのが、辛く残酷な現実ではなく、このファンタジーのようでありますように、と願ってしまいます。

 

■子ども時代は読書より自然の中へ!

さて、この物語が幻想的でありながら、どこか現実感もあるのは、舞台が異世界ではなくこの地球上の自然の中だから。子どもの目から見た自然の神秘。

 

正直言うと、私自身は、なかなか物語に入りこむことができませんでした。子どもの目から見た自然というのが私にはワカラナイのかも(悲しい)。私の場合は、本経由(『大草原の小さな家』シリーズとか)で自然への憧れを抱いたタイプなので、実際に野山で駆けずり回ってた子ども時代じゃないんです。それなりに、草っ原で遊んでたりはしたけれど、足りない。実際の自然に触れたのは、大人になってからかなあ。

 

子ども時代は、本読むよりも、五感を使って野山で駆けずり回り、自然の中で思いっきり遊んでいたほうがいい!!!と強く思います!

 

もちろん読書は素敵だし、想像力は大事。

けれど、手足も使って自分で体感したり、自分で発見することはもっと大事。

時間的制約があって、なかなかそれができないお年頃から読書というものはいいのかも。だけどなあ、今の子は時間的制約が習いごとなどでありすぎるし、自然も身近になかったりするからなあ......そのときは読書をおススメしたい。

 

■作者自身もよく分かってない物語が良い

そんな物語にいまいち入りこめなかった私としては、巻末にあった作者『ハドソンの手紙』がとても興味深かったです。

 

ハドソンは、自分が読んできた子どもの本たちは、

「自然そのものの与えてくれる、人をぞくぞくさせるようなものが欠けていた」

というんです。その欠けていたものとは、

「こわいながらも同時にひきつけられるような、自然の驚異と不思議」

そこで、幼い頃の自分の気持ちに合うような物語で、自分の幼い心に浮かんだ想像や冒険をもとにして生まれたのがこの物語というんです。でも、本当に自分が描いたんだろうか、どんなつもりで書いたのかも思い出せない、とも。

 

こういう物語は、個人的には信頼できるなあって思うんです。作者の明確な意図なしに書かれたというか、あやしい言い方だけど、人ではない大いなる存在に書かされてしまった物語。こういう物語には、物語自身に力がある気がするんです。

 

私自身はこの物語にイマイチ入りこめなかった。ところがですよ!読み終えた後に、ジワジワと不思議な余韻が......。これが、物語自身が持っている力。

 

 

余談ですが、ハドソン自身がマーチンのことを「野生に近い魂」と書いているとおり、なんて自由なんだ、マーチン。浦島太郎ですら故郷を思い出したというのに君は......。子どもが夢中になっているときって、そんなものなのかもしれない。

児童文学の鉄板“行きて帰りし物語”に読み慣れていると、「おいおい、(家に)戻らないんかーい」と最後はツッコミを入れたくなります(笑)。

 

【今日の一冊からもらった問い】

 

自分にとって、 家族のことを忘れてしまうほど追求したい憧れって?