Pocket Garden ~今日の一冊~

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環境問題を考えるきっかけに

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『白いイルカの浜辺』(2015年)ジル・ルイス作 さくまゆみこ訳 評論社

 

表紙のふんわりとしたイメージから、優しいファンタジーを想像する人も少なくないようで、そういう人たちは予想以上にハードな内容にやられるようです。

 

ジル・ルイスの物語の日本版の表紙は平澤朋子さんが手掛けることが多くて、私は好きなんですけどね。確かにメインで描かれてる内容を連想するなら、もうちょっとダークな表紙があってるのかもしれないけれど……、その後の希望やこうあってほしい姿を描いたと思えば、ぴったりに思えます。

 

『白いイルカの浜辺』あらすじ

カラの母さんは、野生のイルカの調査中に、行方不明になり、父さんはディスレクシア難読症)ゆえなかなか稼げる仕事につけない。カラ自身もディスレクシアで、学校生活もうまくいかず、居候している伯母の家では肩身が狭くなっていく。そんなカラの楽しみはモアナ号で海に出ることだが、お金に困った父さんはモアナ号を売ろうとして…。そんな時、ロンドンから引っ越して来た脳性麻痺の少年フィリクスと出会い、イルカを助けたことから、カラは「海を守りたい」という思いを強くしていく。

 

2016年度中学校の部での課題図書でした。それもあってか、色んなテーマ(環境問題、親子問題、いじめ、障がい、友情etc.etc.)が盛り込まれ過ぎてて、これじゃあ感想が書きにくい!という文句がまま見られます(笑)。

 

でも、現実って一つのテーマで進んで行かない。さまざまなことが重なり合ってるんじゃないかな。

課題図書があることによって、自らは手に取ることのない物語に出会えるのはいいと思うんです。でも、その先の感想はいらないな~。だって、感想文攻略みたいなのがたくさん出ていて、うんざりしてしまう → 一周回ってそれも面白く感じてきましたが(笑)。ただ、私が思春期だったら、自分が感動したものを、そう簡単には知らない人にまで知らせたくはないかな。今でこそ、これ素晴らしい!みんな読んで!!!と言いまくって、こんなブログまで立ち上げちゃっていますが(笑)。

 

そんな色んなテーマもりもりの作者ジル・ルイスのどの物語にも共通するのは、弱者に目を向けていること。

弱者っていう響きが、個人的には好きじゃないんですけどね。でも、ジル・ルイスの場合は、社会から見落とされがちな彼らの物語を書いているんであって、そこに「かわいそう」とか安っぽい同情はないように、私は思います。それどころか、日本に住んでいる私から見れば、どんなに貧しくても自分たちのヨットで沖へ出れるなんて、なんて素敵‘贅沢な、って思っちゃう。

 

主人公のカラがねえ、なかなか可愛げがなくて共感しづらいかもしれません。後に友情を結ぶフィリクスもなーんか人をカチンとさせるもの持ってるし。あ、こんなこと感想文に書いたら受けませんね(笑)。

 

だからこそ、この好感度の高くない二人がタッグを組んで、前を向いて行くあたりは素晴らしいです。やっぱり一人じゃあきらめちゃったりするんです。背中を押してくれる周りの存在って大切!!!そして、スイッチ入ったときの子どもの成長すさまじさよ!!!

 

後半、この二人が闘うことになるのは、底引き網を使ったホタテ貝漁。海底を掘り返し、サンゴ礁が失われ、海底が不毛の荒野になってしまうのです。一頭のイルカを守りたいから、町全体に関わる環境問題へと守りたい対象が広がっていきます。

 

とはいえ、大人の事情も悲しいかな、少し分かると思ってしまう自分がいました。去っていく観光客とは違い、町の住民には食べて行かなければいけない暮らしがある、町の心臓ともいえるのが漁業、と言われれば、一瞬それもそうかなと思ってしまうんですよねえ。でも、待って!!!

 

「私たちが海を守らないかぎり、あれはてた不毛の地しか残りません。私たちは海の農夫ではないのです。種をまかずに刈りとるだけなのですから」(P210)

 

 

これは、カラのお母さんの言葉。種をまかずに刈りとるだけ……ガツーンと殴られた気分です。お母さんはニュージランドの出身で、マオリ語を大切にしていることろを見ると、書かれてはいないけれどマオリ(NZの先住民族)なのでしょう。私は大学時代にNZに一年留学していましたが、白人のNZ人だったらこういう興味はまず抱きません。

 

‟海を刈りとる”こと、目先の暮らしだけを考えていたら、やっちゃえー、かもしれませんが、三世代先にどんな地球を残したいのか。私たちはそれを常に念頭に置かなければ。三世代先まで考える、それは世界中の先住民族と呼ばれる人たちが当たり前に大事にしてたこと。個人的には、もうちょっと踏み込んでお母さんのバックグラウンドを書いてもらえたら嬉しかったなあ。

 

現実を受け入れて行くラストもよかったのですが、個人的には金のふちどりがしてあるうすい紙(聖書)をビリビリと破き、空に飛ばしていく最初の場面が、何とも言えない光景で一番印象に残りました。

 

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jidobungaku.hatenablog.com