Pocket Garden ~今日の一冊~

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柔らかい気持ちになりたいときに

 

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『イルカの家』(2005年)ローズマリ・サトクリフ著 乾 侑美子訳 評論社  

※ 今後は、毎週月曜・金曜の19時に記事をアップすることにします。

よろしくお願いします♪

 

今日の一冊は、心が温まる安心して読める物語ですよ~。

そう!長引く自粛生活で、ピリピリしがちなこの時期に、“柔らかい気持ちになりたい”、そんなあなた(つまり私)にお届けしたい物語。

 

サトクリフといえば、ローマ・ブリテン時代の骨太歴史小説の名手なのですが、この『イルカの家』と以前紹介した『ほこりまみれの兄弟』だけは、ちょっと雰囲気が違い、穏やかで優しい空気に包まれています。

 

 

《『イルカの家』あらすじ》

十六世紀、大航海時代のイギリス。孤児となった少女タムシンは、ロンドンのおじさんの家に引き取られる。船乗りになって大海へ出たいという叶わぬ夢と、自分の居場所を失った悲しみとを胸に秘めて…。にぎやかなロンドンの下町で、日々のささやかな喜びと充足を糧に生きる、多彩な人々。その姿を温かな共感とユーモアを交えて綴った本書には、サトクリフその人が、色濃く映し出されている。(BOOKデータベースより転載)

 

ああ、この物語大好き!!!

 

物語は一章一章季節のエピソードで出来ているのですが、これがどれもいいんだなあ。まるで、彩とりどりの色んな種類の素敵なお菓子(エピソード)を詰め合わせたアソートボックスみたいな物語なんです。

 

16世紀のロンドンの活気ある生活、大航海時代の異国の地への憧れ、孤独な少女が居場所を見つけていく過程、たくさんの魔法が詰まっています!どんなアソートかというと......

 

〈魅力1:食べ物〉

え?そこから!?ええ、食いしん坊なので、まずここが重要なんです(笑)。

ピクニックに出かけるときの食べ物も気合が入ってます!

びっくりするほど大きなミートパイ、煮たサクランボ入りの焼き菓子、香草のいい香りのするピンクと白のハム、黄色いマジパン、ショウガパンの人形たち。イギリスは美味しくないなんて、誰が言った!?

 

〈魅力2:ハーブのある生活〉

アリソン・アトリーの名作『時の旅人』と同じ時期だから当たり前なのですが、同じようにハーブを取り入れた生活が素敵。といっても、それは普段テームズ川に近く潮が引くと泥のにおいがヒドイからなのですが(笑)。でも、ファ○リー○をシュッシュより個人的には惹かれるんです。町に買い物に出かけるときも、匂いが気になるので、香草の小さな束を持ち歩くんですって。ちょっと楽しい。

 

ピクニック時には、床に敷くための黄色いアイリスの葉を集めます。葦やカミツレ、ヤナギハッカ、赤ハッカも使うけど、床には黄色いアイリスが一番なんだそう。ほう、メモメモ。

 

途中迷い込んだ、知らないおばあさんのハーブガーデンも素晴らしい!ああ、白魔女ってこういう植物と共に生きている人のこと言うんだなあ。私は植物育てられない類なのですが、こういう魔女とその庭には心から憧れます!

 

〈魅力3:孤独の贈り物〉

孤独って悪いことのように受け止められがちですが、実は時には必要だと思うんですよね(孤立と孤独は別)。孤独なときにしか出会えない風景があるんです。

 

引き取られた当初は、タムシンは家族になじめません(すごくいい家族なのだけれど)。その家族同士が仲が良いだけに、自分の居場所がないように感じて、ホームシックで毎晩枕を涙でぬらすのです。

 

でも、その孤独を感じたからこそ、チビちゃんをこんなにも愛おしく思える。ピアズと心が通じ合えたときの喜びが大きい。

 

そして、私が何よりも好きな場面は、タムシンがまだ家族からの疎外感を感じていたピクニックのの最中に、一人家族の元を離れて、世界中で自分のだめだけにあるような空間に出会うところ。孤独でなかったら、こういうのには気づきにくいんですよね。その秘密の空間は、妖精たちの舞踏会場としか思えなくて、タムシンは動けなくなるまで踊るのです。

 

自然の中にいると、タムシンはちっともさびしいと感じない。寂しいのはむしろ仲間だと思えない人たちの中にいるとき。自然は特に、孤独になったときにプレゼントをくれるような気がしています。

 

〈魅力4:想像の翼に乗る楽しみ〉 

さて、主人公のタムシン9歳と、ピアズ14歳は共に船への憧れが強いことで、秘密の絆があります。この二人が、屋根裏で航海に出るごっこ遊びをするのですが、このワクワクすること!読者も一緒に想像の航海へと連れて行ってくれるのです。ごっこ遊びはいつの時代にも共通のワクワクですよね。

 

そして、当時の船の造形のなんとまあ美しいこと!ピアズの持っている絵図の美しいこと!それだけで、もう物語があふれ出てくるかのよう。現代っ子が夢中になる電子機器は楽しいけれど、そこからは受け取る一方(→消費者となる)で、そこから物語があふれ出てくるという感覚はないなあ。

 

 

その他にも、キャサリン王妃を追いやってその座についたため、民衆からの支持が得られないアン・ブリン王妃を見たときのエピソードも好きです。誰がなんと言おうと、タムシンはアン・ブリン王妃を気に入って、好きでいるのです。自分軸があるって、なんて清々しいんでしょう。こちらまで心洗われます。

 

そして、ラストのクリスマスの奇跡。はあああ、素直に感動し、涙。なんて幸せな気持ちにさせてくれるんでしょう。憧れがあるって、人生を豊かにしてくれるな、ということも思い出させてくれました。

 

みなさんの憧れは何ですか?

 

『ほこりまみれの兄弟』もぜひ。過去記事はこちら↓

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