Pocket Garden ~今日の一冊~

大人も読みたい、大人こそ読みたい、大人のための児童文学の世界へご案内

ほかにも選択肢はある、でも決めるのは自分

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『紅のトキの空』(2016年)ジル・ルイス作 さくまゆみこ訳 評論社

 

今日の一冊は、平澤朋子さんの表紙画がとおっても素敵なコチラ!

ジル・ルイスは『ミサゴのくる谷』もとても心に残る物語だったので、他の物語も読んでみたいと思っていたんです。でも、地元の図書館にはこちらの『紅のトキの空』は市内どこにも置いてありませんでした。

 

うーん。舞台も現代だし、読みやすいし、読んでもらいたい物語なのに、置いてない……棚に置ける数は限られてるとはいえ、置かなくてもよいのではという本も並んでるのを見ると複雑な気分です。

 

ミサゴもそうでしたが、こちらの物語も一気読みで、主人公のスカーレットと弟のレッドはすっかり私の心の中に住みついてしまいました。

 

《『紅のトキの空』あらすじ》 

スカーレットは12歳。鳥の羽を集めるのが大好きなアスペルガー自閉症スペクトラムの弟と保護能力のない母親の世話をしながら暮らしている。そんなスカーレットが警戒しているのは、ソーシャルワーカーのギデオンさん。私たちの暮らしを壊さないで!

でも、ある事件をきっかけに家族はバラバラに・・・。どうして離れ離れにならなければいけないの?

初めは新しい環境に抵抗していたスカーレットだったが、保護ファミリーの元で、新しい友だちに出会い、また周りからは魔女だと恐れられている老婆マダム・ポペスクと知り合うことで、だんだんと変わっていく。

 

 

うちの場合はショートステイだけだけれど、10年以上ホストファミリーをやってきたので、余計にこの手の物語には思い入れてしまうのかもしれません。

 

本当にね、困難な状況にある子どもたちって健気なんです。他人の目から見たら、どう見たって施設に入ったほうがいいと思える状況でも、家族でいたかったりする。どんなに毒親でも恨むどころか、その親を信じようとする。……そうでないと、自分の存在が否定されてしまう気がするからなんでしょうけれど。

 

私もつい、ソーシャルワーカーのギデオンさんと同じように「(状況はあなたが言うより)複雑なのよ」と言ってしまいそうです。こうやって、物語で俯瞰して読めると、もしかしたらそんなに複雑なことはなく、もっと単純なのかもしれないと思えるのだけれど。

 

ただただ家族で一緒にいたいと願ってる子どもたち。彼らを引き離すことが、本当に良いことなのかワカラナイ。

 

でも!ほかにも世界はあるんだよ、選択肢はあるんだよ、ということを知ることは大事で、それから自分で選び取ることが大事なんだなあ。

 

わたしがいどんだ戦い 1939年』でも同じでした。なぜ、保護された子が恩知らずとも思える言動をするのか。幸せになることに罪悪感を覚えるのか。そういうことを、私たち周りはもっと知っておきたい。

 

スカーレットの心からの叫びは、友だちの心を動かし、私の心をも動かしました。

ただ、マダム・ポペスクに関しては……神さまほかの終わり方を用意してください、とお願いしたかった。マダム・ポペスクの物語は、また別の物語。いつか描かれてほしいです。

 

ぜひ!