Pocket Garden ~今日の一冊~

大人も読みたい、大人こそ読みたい、大人のための児童文学の世界へご案内

歴史小説を読む意味

f:id:matushino:20190822072444j:plain

『太陽と月の大地』(2017年)コンチャロ・ロペス⁼ナルバエス作 宇野和美訳 松本里美画 福音館書店

 

今日の一冊は、スペインで読みつがれてきた名作。

昨年2018年の課題図書にもなっていました。

 

毎年課題図書はいいのないなあ、と思っているのですが(←何様!?)、昨年は当たり年だったなあ。

 

さて、この物語も私の中では“児童文学あるある”でした。

どう、“あるある”かというと、あらすじだけ読んでもそんなに興味を持てないんですね。特に歴史物は個人的にあまり得意ではなくて……。

が!!!読んでみたら、いい意味で裏切られるのです。

 

本当にいつも思うのですが、児童文学においては、あらすじにまどわされないこと。

何が描かれているかというよりも、どう描かれているかだから、あらすじに興味なくても引き込まれていることがほーんと多いんです。

 

さて、そんな私が興味をあまり持てないあらすじ(笑)はどういうものかというと……

 

《『太陽と月の大地』あらすじ》

 

舞台は16世紀のグラナダ

1429年にスペイン後はカトリック両王と呼ばれたイザベル女王とフェルナンド王が、それまでイスラム王朝が支配していたグラナダを制圧し、スペインを一つの王国として治めます。数年の間は、宗教や民族の違いを超えて、同じ土地で共に平穏に暮らしていたのですが、やがてキリスト教が強引で無理解な態度を取るようになると、イスラム教徒たちは1500年に反乱し、ついには1611年までにはイスラム教徒たちは完全に国がちに追放されることに。キリスト教徒のアルベーニャ伯爵一家と、そこに仕えるイスラム教徒のエルナンドの一家は、身分の違いを超え、深い友情で結ばれていましたが、両家もやがて宗教の対立に巻き込まれていきます。友情と怨恨、裏切りと中世が入り乱れた苦難の時代を描く。

 

 

 

まずですね、人物相関図や地図があって嬉しい。スペインの文学はあまり馴染みがないので、名前も覚えづらいので、最初に登場人物一覧があるのも、ありがたい!

 

 ■ 人が人でなくなるのが戦争

 

ところで、私たち日本人は、キリスト教に対してはあまり悪いイメージは持っていないのではないでしょうか?何となく反乱を起こすのはイスラム教徒のイメージ。

だって、歴史上イスラムの反乱とは言われても、キリスト教徒による虐殺、とはあまり書かれないですもんね。そういう意味でも、こちらはバランスの取れた物語。

この物語を読むと、この時代のキリスト教徒がいかに不寛容で残虐かが分かります。

 

ただ、それだけではない。いつの時代も、どちらの側にも戦いを利用して、ただただ攻め込みたい“好戦好き”がいることも描かれています。そして、分かるのは、どんな理由や正義があったにせよ、いったん戦争が始まってしまったら、人は人でなくなり、兵士でない犠牲者が続出するという理不尽な現実。

 

 ■ 人は違いを超えて共存できる

 

どうしても悲劇のほうに目がいきがちですが、私は争いが起こる前の平穏な時代に感心しました。なんだ、共存できるじゃない、って。

 

北風より太陽なんだなあ、やっぱり。北風は反乱を呼び覚ます。こういう歴史小説を読むとそれがよく分かります。甘やかしたら国を乗っ取られる?

いえいえ!!やっぱり、憎しみや恨みは何も良い結果を生まない。

 

個人的にはエルナンドの祖父とマリアの祖父の友情物語に、とても感動しました。

森での出会い。本気のケンカの後の認め合い、夜明けに人気のない山頂まで登ったこと。気づいたら私も一緒に登っていました。そこで見た景色、私も忘れない。こういう思い出は一生自分を助けてくれますよね。

 

人けのない頂の美しかったこと!城も塔も家もはるかかなたにある。

人がつぶのように小さく見える。遠くから見れば、キリスト教徒もモリスコも区別がつかない。みんなただ、人間というだけだ。(P.113)

 

 

愚かな歴史は繰り返さないよう、私たちは学びたい。

大人の文学だと、感情をゆさぶろうという作者の意図が強すぎたり、変に美化されていたり、もしくは反戦の主張を強く押しつけがち。

 

児童文学は淡々としていて、一見物足りなく感じるかもしれませんが、自分で物語の中から何かを感じ取り、つかみ取る、より能動的だからこそ、じわじわと自分のものになっていく気がします。

 

今の世の中どうなっていっちゃうの?と不安に思ったとき、歴史小説を読むとどうすべきかが分かる。教科書の歴史からは本当の姿は見えない。当時の人々の様子を伝えてくれる物語の力を、改めて感じました。