Pocket Garden ~今日の一冊~

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怪異がある方が健全!?

『博物館の少女 怪異研究事始め』(2021年)富安陽子著 偕成社

『博物館の少女 騒がしい幽霊』(2023年)富安陽子著 偕成社

 

基本、毎週月曜日の19時~21時頃に投稿しています♪

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今日の一冊ならぬ二冊は、いますぐ上野に飛んでいきたくなるコチラ!

 

続編とともにワクワクと一気読み。ああ、これは第3巻、4巻とどんどん続きを出していただきたいなあ。アニメ化できそう。

 

富安陽子さんといえば、絵本の『まゆとおに』のやまんばシリーズが大好きだったのですが、実は長編はほとんど読んだことがなかったのです。児童文学好きの間で好評だったので、手に取ってみたところ、うんうん、面白かったです!

 

時代は、文明開化の明治16年の東京。着物メインのところに、ときどき洋装の人がいるような時代。

 

なんだろう、この時代特有のワクワクするようなエネルギーは。新しい時代の幕開けのエネルギーなんでしょうか。この時代といえば、大和和紀の『ヨコハマ物語』という漫画も私大好きで。人々がイキイキとしていて、町全体に活気があるような、そんな空気が伝わってくるんです。

 

主人公は、大阪で古物商を営む家に生まれた花岡イカル13歳。両親を亡くし、親戚のいる上野へと上京してくるところから物語は始まります。上京した先の夫婦は厳格で、静かな生活を強いられるから、まだ若くてエネルギーに満ち溢れてる関西人のイカルにはたまったもんじゃあない。ある日、用事を言いつけられて博物館を訪れたイカルは目利きの才を見込まれて、博物館の古蔵にある怪異研究所の手伝いをすることになるのです。そこで不思議な事件が起こり……。

 

博物館の館長や、怪異研究所の所長、イカルの親戚という設定の天才絵師河鍋暁斎とその娘でイカルと仲良しになるトヨ(暁辰)、山川捨松など実在の人物たちが多数登場することもあってか、とてもリアリティがあるんです。この物語をきっかけに、この時代のこと、この時代の人々のことをもっと知りたくなりました!なんなら、博物館もあまり興味なかったのに、いますぐにでも行きたいです。この物語をきっかけに、色んな興味が広がっていく。そこが、いいんですよねえ。

 

ところで、イカルがお世話になる先の厳しい夫妻(こちらは架空)、妻の登勢(とせ)は、厳しい態度は変えられないけれど、言動のところどころにイカルを思いやる気持ちがときどき(本当にときどきだけど笑)垣間見られ、『赤毛のアン』のマリラや、『えんの松原』の伴内侍を彷彿させる。好き。

 

そして、怪異なので当然ミステリー要素も満載。実は、私ミステリーものが大の大の苦手で、安心して読むために結論から先に読むくらいな人だったので、この手の物語は避ける傾向に。が、富安さんの物語は大好きでした。主人公の花岡イカルの関西人らしい明るさ、屈託のなさがいいんですよねえ。だから、怪異に包まれていても、全体的に物語が明るい。それに、全てが怪異なわけじゃなくて、そこには怪異現象と見せかけた詐欺もあるわけで。そこもイカルは見抜くわけです。本人的には見抜くってほど大げさなものではなくて、ただ観察眼がすぐれているから気づくっていう感じなのだけれど。

 

怪異現象が当たり前に存在する世界。なんだか、そのほうが健康的な気がするのです。『えんの松原』にも書かれていたなあ。怨霊が忘れらた世界のほうがこわい、って。

そして、こうやって物語に描いてもらうこと、誰かに思い出してもらう、知ってもらうことで、そういう霊たちは成仏?できるような気がしてくるのです。

 

何か面白いもの読みたいなと思って手に取ったら、なんだか前向きになる気持ちまでもらえちゃった。そんな物語でした。健全な(笑)怪異。逆に怪異が当たり前にあることが、世の中を健全にする?

どんどん続編出していってもらいたいです。