Pocket Garden ~今日の一冊~

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なんてことのない場面が忘れられない物語

『わたしのほんとの友だち』(2002年)エルス・ペルフロム作 野坂悦子訳 岩崎書店

※ 毎週月曜日の19時頃投稿しています♪

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スリナム共和国ってご存知ですか?

お恥ずかしながら、私は聞いたこともない国でした。スリナムは1975年にオランダの植民地から独立するのですが、この物語はその直前くらいのお話。かつては、オランダ領ギアナと呼ばれていたそう。ん!ギアナなら聞いたことある。ギアナ高地ギアナですね。

 

今日の一冊は、そんなスリナムからオランダに移民してきた一家と、母親が入院するため夏休みをおばの家で過ごすことになった女の子の友情物語。終盤、スリナム一家の子リカルドに盗みの疑いがかけられて、ハラハラもしますが、心が通じ合うって、いいな、と最後はじーんとする物語です。

 

最初読み始めたときはね、正直ちょっとだけちょっとだけですけどね、このまま読み続けるのはキツイかもなー、と実は思ったんです。

というのも、主人公のズワーンチェには空想のお友だちがいて、このまま空想のお友だちとの会話が続くのを読むには、私は大人になりすぎてしまっていたから。

 

が、途中からズワーンチェがスリナムから移住してきた一家と仲良くし始めるあたりから興味がわいてきました!高級住宅街と隣り合わせにある彼らの住宅は、高級住宅地の住民からすると警戒すべき対象。ズワーンチェも関わらないように、とおばから言い渡されますが、子どもは直感で生きてますからね!にぎやかな大家族であるスリナムの一家のおうちに興味津々。

 

大人の倫理観からするとね、その一家のリカルドという子は確かに軽い犯罪は犯しているんです。Tシャツ盗むのは、盗みには違いないんですから。でも、そうした行為をこの作者は大人の視点で裁いていないんですね。とたんに、この作者への信頼度が増しました!(←何目線?)

作者の方、オランダではとても有名な方で、『第八森の子どもたち』などを書かれています。気になりつつ未読なので、読んでみたい。

 

ところで、この物語の中で、とても印象的な場面があって。それは、野外の音楽堂で一人きりでいたリカルドにズワーンチェが出くわす場面。雨の中に並んで立って、雨粒を開いた口に受け止めて、今度は屋根のある軒下(かわいた場所)から雨を見る......そういう場面なんですけど、二人の心が通じ合う子の場面がまるで映画のように自分の中に迫ってきたんです。

 

なんてことのない場面といえば、なんてことのない場面。でも、とても感動してしまって。そうしたら、あとがき読んだら訳者の野坂悦子さんも同じ場面のこと書かれていて。“自分の思い出の一部になってしまったようで、読むたびに少し切なくなる”、って書かれていて、それーっ!私が言いたかったの、それ!って思いました。そう、自分の思い出の一部になってしまったんです。うまく説明できないんですけど、この場面に遭遇できただけでも、読めてよかったな、って思いました。

 

ラストのほうは、盗みの疑いをかけられたリカルドを救えるのかハラハラしますが、友情物語でもあり、ズワーンチェという一人の空想にこもりがちな女の子の成長物語としても、いい。よかったら。