Pocket Garden ~今日の一冊~

大人も読みたい、大人こそ読みたい、大人のための児童文学の世界へご案内

人間の弱さ、愚かさ、そして希望

『嘘の木』(2017年)フランシス・ハーディング著 児玉敦子訳 東京創元社

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今日の一冊は、タイトルに惹かれたコチラ。

うわぁ、こ・れ・は!!!秀逸な物語でした!今年読んだ中でベスト5に入る勢い!(今年まだ半分しかたってないけど、そんな予感。そのくらい好き)

 

いわゆるダークファンタジーという類らしい。個人的にはダークファンタジーって好みじゃないので、自分からは手に取らないんですよね。ところが、ところが。私、実はダークファンタジー好きなのかもしれない。いや、フランシス・ハーディングのもものが好きなだけかもしれないけれど、とにかく引き込まれて一気読み!ページをめくる手が止まらない。それでいて、読み終わってしまうのがモッタイナイ気がして、残りページ数の分厚さを確かめながら読み進めるという。これよこれ、Kindleでは絶対に味わえない感覚。あとどのくらい残ってるか厚さ確認しながら読む、これが醍醐味なのですー!

 

『嘘の木』あらすじ

世紀の大発見、翼のある人類の化石が捏造だとの噂が流れ、発見者であるサンダリー博士一家は世間の目を逃れるように島へ移住する。そんななか博士が謎の死を遂げ、父の死因に疑問を抱いた娘のフェイスは事件を密かに調べ始める。父が遺した奇妙な手記、嘘を養分に育ち真実を見せる実をつけるという奇怪な木……。19世紀イギリスを舞台に時代の枷に反発し真実を追い求める少女を描いた、コスタ賞大賞・児童書部門ダブル受賞の傑作。

 

ほう、これも児童文学なのか。やっぱりすごいわ、児童文学。

謎解き要素も満載なので、子どもの頃に読んだら、それはそれで夢中になっていたと思う。でも、大人になって読んだからこそ響く場面がたくさん。物語に厚みを感じるのは、時代を生きた女たちの物語が詰め込まれているからなんだろうなあ。女性が読むと特に感じ入るものが多い気がします。

 

冷静に振り返ってみると、個人的には女性であることが原因で悔しい思いをしたりということも、取り立ててなく。もちろん、多少はあるけれど、でも、男性だって性別の枠で色々な思いするから五分五分よね、と思うわけです。なのに、なぜだろう。私の中に眠るフェミニスト(笑)が、敏感に反応しちゃう。この時代の女性の息苦しさ、開き直って一歩上手をいって図太く生き抜くさま。謎解き要素もあるので、あまり内容に触れられないのが残念ですが、母娘の最後のほうの会話が、もう……ねえ。読んで!!!としか言えない(笑)。

 

とついつい、女性に関するところに感じ入るところが多いのですが、大きなテーマは“嘘”。そして、“知りたい”という人間の欲求とでもいいましょうか。嘘を養分として育ち、真実を教えてくれるという架空の木が出てくるから、紛れもなくファンタジーなのですが、なんともまあリアリティに富んでいることよ。

 

良質なファンタジーは、事実よりも“真実”に迫っている、ホントそう。

 

嘘の木が真実を見せてくれている場面は、お父さんがラリってる姿は、LSDとかの世界に似通ってる気がしました。だからなのか、リアリティがすごい(あ、私自身はLSDやってことありませんよ?念のため笑)。純粋な動機だったはずが、欲望にいつの間にかすり替わっていくさま。ミュージシャンたちをはじめとするアーティストたちが薬に手を出してしまうケースも、こういう感覚なのかな、って。ああ、人間の弱さ、愚かさよ。嘘について、考えさせられます。

 

その他にも、誰が犯人なのかという点においては、自分が思ってた人物たちの印象が読み進めるうちに何度も変わり、ヒヤッとしました。自分の感覚もあまりたいしたことないな、と。いかに自分も表面的なものに踊らされているか、などなど反省ひとしきり。この物語に出合えてよかった!

 

あまりにも面白かったので、すぐに同じ作者の『カッコーの歌』も読みました!そちらの感想はまた後日。