Pocket Garden ~今日の一冊~

大人も読みたい、大人こそ読みたい、大人のための児童文学の世界へご案内

結果じゃない過程こそ!の希望の物語

f:id:matushino:20200821195801j:plain

『ハティのはてしない空』(2011年)カービー・ラーソン作 杉田七重訳 鈴木出版

※毎週月曜・金曜の19時(ちょっと遅れることもあり💦)更新中!

Facebook『大人の児童文学』ページもよかったら♪

 

 

鈴木出版の海外児童文学この地球を生きる子どもたちシリーズは、本当にいい物語ぞろい!

この物語も、前々から本友からすごくいいよ、と教えてもらっていて、やっと読めました。うん、とーってもよかった!読み終えた後、はてしない空と大草原が目の奥に広がり、胸がいっぱいになる、そういう物語。

 

大草原の小さな家に夢中になった人なら、好きなこと間違いなしです!

 

これは、根無し草だった子が居場所を見つける物語。結果じゃない、その過程においてたくさんのものを得ていく、希望の物語。

 

『ハティのはてしない空』あらすじ

時は20世紀初頭の第一次世界大戦時。16歳の孤児少女ハティは、いままで知らなかったおじから遺言をうけ、たったひとり、アメリカのアイオワから北西部のモンタナへ。自分の居場所を手に入れるために、過酷な土地の開拓に挑む。厳しい暮らしの中でも、新しい隣人たちと出会い、助け助けられ、ハティは成長していく。ニューベリー賞オナーブック。

 

 

16歳!16歳で家族も知り合いもなく、たった一人で(!!!)未開拓地へと乗り込むのです。おじの遺産といっても、まだ手に入ったわけではなく、手に入れるためには色々と期限付きの条件があるのですが、これが過酷。東京ドーム三つ半ほどの広さの土地に、480本の杭を打ち、土地を開墾して作物を収穫しなければいけない。自然との闘いです。隣人の人たちはみな親切で、大きな家族のような存在にまでなっていきますが、でもみな自分たちの生活で手一杯でもあるので、やはりハティは基本一人でやらなければならないのです。もうね、これだけでスゴイ。

 

そして、まあ、隣人たちのみな魅力的なこと。根無し草だったハティが、家族同然の付き合いになっていき居場所を見つけていくさまは、こちらまで嬉しくなってしまいます。だけど、そのあたたかな隣人たちと別れ、一人家に戻ると感じる孤独感......。とても、リアルです。

 

さて、そんな素敵な隣人たちも多いのですが、戦時下ですから、公然と差別も行われていきます。特に、ハティが親しくしていた家族の旦那さんはドイツ人なので、それだけで差別を受けていきます。人間のどうしようもなく黒い部分もしっかりと描かれている。ドイツは憎いけれど、その家族は大好き。ハティはとまどいます。そこもリアル。

 

素敵な隣人たちは、みんな大好きなのですが、でも、個人的に一番気になった人物は、ハティたちの敵側にいた大農場の息子トラフトでした。彼は、ハティに近づいていき、手伝ったり、ダンスに誘ったりするのです。実は、ハティの土地を手に入れたいという目的があったからなのですが、彼は純粋にハティに惹かれる部分もあったような気がしてならないのです。彼はそのようにしか生きられなかった。悪人にだって、背景あり。

 

印象に残ってるのはこんな場面。なぜ彼は戦地に行かないのか、とハティが問いただすんですね。それに対し、彼はまるでむちで打たれたかのような反応を示すのです。徴兵制を志願しても呼び出しがこない、その理由は実はトラフトが郡国防会議のメンバーに任命されて徴兵されないよう母親が州知事に頼んでいたんです。人には、国民の義務を!と声高に強要するのに、我が子かわいさ......。そして、そのときトラフトの顔に浮かんだ表情を見て、ハティは分かったのです。以前の自分と同じ表情。トラフトは怒っているのだ、と。自分の母親に対して、けれどもそれ以上に、人生の主導権を人にあずけている自分に怒りを抱いているに違いない、と。

 

これを読んだとき、ちょうど“なぜ今の子たちが生きづらさを感じているのか”、という問いが自分の中にあったので、答えをもらったような気がしました。そうか、人生の主導権を親や先生に預けているから生きづらく、それを黙認している自分に腹が立つのだ、と。

 

戦時下でおまけに日照りやスペイン風邪という打撃を受け、つらいことも続きます。が、物語全体を流れている空気は明るく、ワクワクと楽しい場面も多いのは、ハティのユーモアのなせるわざ。キルトにも感動しますよ。

 

きっと、この物語から生きる力をもらえる人は多いと思います!