Pocket Garden ~今日の一冊~

大人も読みたい、大人こそ読みたい、大人のための児童文学の世界へご案内

鎌倉土産に本はいかが?

 

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鎌倉長谷にできたTurn the Pageさんという小さな古本屋さんにやっと行けました!

わりと近くに住んでいるのに、なかなか行けなかったのは、いつも自転車移動してることが多くて、長谷近辺は自転車停められる場所がなかったから。

不定期営業なので、毎月インスタをチェックしてみてくださいね。

 

江ノ電長谷駅から徒歩1分とあったし、この辺は土地勘あるから余裕!

......と思ってたら、超絶方向音痴な私、しっかりと迷いました……我ながらアリエナイ。

 

そんな私みたいな方に道案内です。江ノ電長谷駅改札(タリーズがある大きい方)を出たら右!海と反対方向、長谷寺方面へ歩いてください。

道路向かいに子どもたちがずいぶんとお世話になった鉱物が並ぶ善ストーンさん(ちなみにここ、最高です!)を過ぎ、隣に収玄寺が見えたら、はい!この道路向かい。

 

ここ入る

お店は奥なのですが、お出迎えしてくれているぬいぐるみと本が目印!そこにあったのね……。

 

お出迎えしてくれるのは、この子

こじんまりとした店内には、お話ししやすい素敵な店主さんのこだわりがぎゅぎゅっと詰まっていました。店主さんは、普段は非常勤で高校の国語の先生をしていらっしゃるとのことで、文豪の本が多かったような気がします。鎌倉という土地が喜びそうな本がずらり!

 

 

 

インスタでも1冊ずつ丁寧に本の紹介をしてくれているので、それを見るとついついほしくなっちゃう。インスタも要チェックです。

www.instagram.com

 

ちなみに今回私が連れ帰ったのはこちら↓

 

実は、私、文豪コンプレックスがあるんですよねえ。

そんなに読んできていないのは、読んでもそれほど心に残らなかったから。

名作といわれるもの読んでも、私にはピンとこなかったんです。だから、そういう名作を読んでこなかった私は「本が好き」と言ってはいけないような気がいつもしていました(今もしてる)。

 

ただ、留学中、日本語の活字に飢えていた時期に、大学の図書館に日本の文豪作品が並んでいるのを見たときは嬉しかったし、なんだか誇らしかったなあ。だって、英訳ではなく日本語の本でちゃんと置いてあったんです。原文で読みたい!という学生がいるのだろうな、と。

 

そんな文豪コンプレックスがある私ですが、聞き専でよいなら、いつかTurn the Pageさんでやっていらっしゃる読書会に参加してみたいな。店主さんは、大学院で川端康成を研究していらっしゃったそうで、熱量高いトークを聞いてみたい。

 

長谷へお越しの際は、ぜひ寄ってみてください。

鎌倉土産は、鎌倉で見つけた本、というのはいかがでしょう?

SNS時代の自分探し

『さみしい夜にはペンを持て』(2023年)古賀史健著 ポプラ社

今日の一冊は、書くのが苦手な身近なある人の顔を思い浮かべて手に取った一冊。

今年の7月に出て、もう6刷りって、売れてるんだなあ。

 

“この夜は明ける。書けば、必ず”

 

帯に書かれていた印象的な言葉です。

 

作者は、『嫌われる勇気』で有名な古賀史健さん。“書くこと=言葉にすること”“自分との人間関係の築き方”をタコジローとあやしいヤドカリおじさんの物語に乗せて教えてくれるので、本が苦手な子でも読みやすい!文章が苦手という人ほど読んでもらいたいなあ。主人公も中学生で、中学生向きに書かれていますが、もちろん大人にもおススメ。

 

ただ、帯で糸井重里さんが「長編詩であり、冒険絵本であり……」と書いていて、物語として期待して読んでしまうと、ちょっとひっかかってしまう人もいるかもしれません(はい、私です)。特に、児童文学的なものを期待してしまうと、内容は漫画的に感じるかも。登場人物のキャラ立ちしすぎてるから。逆に、自己啓発(ともちょっと違うのだけれど)を物語形式で書いたもの、と思って読むと、素直に入ってきました(私の場合)。

 

さて、“書く”ということ。

前々から、書くって自分と向き合うことだよなあ、とは思ってました。答えが分からないとき、書くと答えが“降って”くることも多くて。

なので、私自身は、悩み迷ったとき、ツライときなどは割と日記を書くことで乗り越えてきたこともあり、悩んでる人見かけると、「書くといいよ!」とすすめてみたりもしてきました。が、どう書いていいか分からない人もいるんですよね。

 

いや、ススメてる私だって、文章力があるわけじゃないんです。だから、文が上手い下手とか気にせず、ただただ、思うがまま書けばいいんじゃない?とすすめてみても、何から書いていいか分からない。気づくと、起こった出来事をただただ時系列に並べて書き連ねるだけで、そこにどう感じたかなどを書けない。そういうタイプの人もいるということを知りました(我が子たちから)。主人公のタコジローと重なる!

 

表現できないだけで、誰もが、内には素晴らしいものを持っているのになあ。もったいないなあ。言葉が全てではないけれど、でも、言葉で表現できたらスッキリすることってありますよね。

 

数ある書くことの良さを伝えてる本と比べて、この本は、もう一歩踏み込んだところまで書かれているのが、興味深かったです。

 

なぜ誰かとのおしゃべりではなく、ひとりになる必要があるのか。

なぜその方が考えが深まり、自分と向き合うことにつながるのか。

 

その考えを深める方法の一つが、日記を書くことなんですね。(ちなみに、おしゃべりにはおしゃべりの良さもあって、そのこともちゃあんと書かれています。SNS上のおしゃべりとの違いも)

 

ただ、日記あるあるなのが、悩んでるときに書くことが多いから、ついついネガティブなことを書きがち問題。自分の感情を吐き出すだけのものになりがち。

 

わーかーるー!!!ああ、思い出す。子育て暗黒期時代の日記、ネガティブすぎて読み返せないもの笑。そんな風に、相手への悪口や自分を責める言葉ばかり出てきたら、どうしたらよいのか。

 

そんなときは、沸き上がったネガティブな感情を過去のものにしちゃえばいい。悩みごとには、どんなに考えても答えの出ない『心配ごと』と、答えを出せるかもしれない『考えごと』に分ける。などなど、そういう具体的な方法をヤドカリおじさんが教えてくれるんです。とても具体的で、実践的。だから、書いてみようかなっていう気になるんです!

ああ、子育て暗黒期時代に知りたかったな。

 

そして、最後。

では、なぜ私たちは書くのか。

 

私たちが書く理由......

それは......”わかってほしい”から。

 

誰に?

 

何を?

 

何をそんなにわかってほしいと思ってるのか。

 

これを読んでくださってるみなさんは、もう答え分かってますよね。

 

そう、自分自身。

一番自分のことをわかってほしいと思っていた相手は、自分自身だったんです。

 

書くって、自分を探しに行くことなんだなあ。

まさに、

 

探しにいくよ

内なる花を

(by 藤井風)

 

ですね。 

 

急にこの曲が聞きたくなりました(急ではない、いつも聞いてる笑)。

それでは、最後によかったら聞いてください。藤井風で『花』↓

 

 www.youtube.com

 

 

 

業界経験ゼロからの本屋開業記に励まされる

『新聞記者、本屋になる』(2021年)落合博著 光文社新書

 

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とにかく本屋さんが好き。服を買いに行ったはずなのに、気付いたら本屋さんにいて、そのまま帰宅、なんてこともしょっちゅうです(買い物自体があまり好きじゃないということもありますが)。

 

いわゆる活字中毒というわけでもなく、え?そんな本も読んでないの?と思われるくらい色々と読んでいないし、産後以来、もはや難解な本は情けないくらい読めなくなっている。けど、あの本に囲まれた空間自体がたまらなく好きなのです。背表紙見てるだけで、色んなインスピレーションもらえるんですよねえ。

 

さて、今回訪問したのは、田原町にあるReadin' Writin'さん。やっと、やっと行けたー!

田原町に馴染みがなさすぎて(都内の土地勘なさ過ぎて)、行くのにハードルが高かったんです。超絶方向音痴なので。

 

店主の落合博さんは、数年前のJPIC読書アドバイザー講座の講師として登壇されていた方。お話が面白くてとっても印象に残ってたんです。

 

私、仕事モードだと饒舌なのですが、プライベートだとなぜかものすごく人見知りで。

なので、少ししかお話しできなかったけれど、アドバイザー講座の頃と印象変わらず、とても気持ちの良い方でした!気持ちの良い方ですが、いわゆる商売上手の感じのよさというのではなく、自分に嘘偽りなく生きてる方の気持ちの良さというか。自分を必要以上に大きく見せようとしない気持ちの良さ。芯があって、裏表がないのが、上記の著書読んでもよく分かります。

 

外観のこの落ち着いた色味好き...!

中2階ってワクワクする!

写真は許可取って撮らせていただきました。帰宅後買った著書読んだら、写真だけ撮って何も買わずに帰ったお客さんにキレそうって書いていて、ですよねー、ってなりました。

 

ちなみに、上記の落合さんの本以外に買ったのは、コチラ↓

『本にまつわる世界のことば』(2019年)創元社

あと、長男が小さい頃仲良しだった(と私のほうでは思ってる)元ママ友が書いた本を見つけたので、ちょっと迷ったけど連れ帰りました。迷った理由は、表紙が過激で、我が家の思春期男子たちに刺激が強すぎるかなー、と思ったから笑(ここに書影掲載するの控えます)。出版したのは知っていたけれど、買うならオンラインじゃなくて書店で買いたいと思ってたから、ここで見つけて嬉しかったなあ。

 

彼女は、世界的に有名なバーレスクダンサーなんです。ママ友にならなければ、出会うことのなかった世界の人。私、彼女の書く文章が大好きで。辻仁成さんが編集長をしているWebマガジンにも連載していたのですが、辻さんも彼女の文章に嫉妬するとまで書いてました↓

www.designstoriesinc.com

 

Reaidin’ Writin’さんの書籍は、フェミニズム系が充実していました。

イベントもたくさんされていて、一番多かったときで、オンラインも含めて300名近くにもなったんだそう!それは、本当にすごい。私自身も何度もイベント企画したことあるけれど、集客って本当に大変なんです。興味がある人でも、日程が合わなかったり。ドタキャンされたり。

 

でもね、落合さんはオンラインは例えたくさん集客できても、本棚を見てもらえないからあんまり、なんだそうです。みなさん某オンライン書店で買っちゃいますもんね、と言ったら、「それでも、いいんですけどね。本が売れてくれれば」っておっしゃったことに、ビックリしました。だって、たいていの書店の人は、某オンライン書店を目の敵にしてるから。自分のところじゃなくてもいい、本が売れるならば、という考え。本当に本好きじゃないと出てこない言葉!

 

ところが、この著書を読むと、そんな本が好きなわけでもないと書いてあるから、またまたびっくり笑。

 

次回はイベントにも参加してみたいなあ。

ここで買いたい、と思わせてくれるような素敵な本屋さんでした。

 

お金を稼ぐことは悪なのか?

『起業家フェリックスは12歳』(2023年)アンドリュー・ノリス作 千葉茂樹訳 あすなろ書房

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今日の一冊は、児童文学には珍しい起業がテーマ!?おっ、訳が千葉茂樹さん!じゃあ、面白いに違いない、そう予感して手に取った1冊。

 

小学校高学年から楽しめそうで、将来何者かになりたがっている(大成したい)小5三男にもすすめてみようっと。起業に必要なことが具体的に書かれているので、起業に憧れてはいるけれど、実際よく分かってないとい大人にもおススメ。

 

時代設定は、インターネットが広がり始めた頃。常に何かちょっとした起業のまねごとをしては失敗していたフェリックスが、親友モーが描いたオリジナルのバースデーカードを販売し、やがてオンラインショップまで手掛けるようになって大成功する物語。先駆けだったから成功したっていうのもありますが、リアリティがあって、面白いです!

 

他に出ている子ども向けお金の本との違いは、こちらは教科書的ではなく、ちゃんと物語として成立していて、面白いこと。友情、家族、本当に大切なものは何かを考えさせてくれる物語でもあるのです。そこが、いい。

 

この物語の中にも出てくるのですが、なぜか大人たちは子どもが稼ぐことには顔をしかめる。“ビジネスにまつわる不思議な反応”とこの物語の中では称しているのですが、学校の先生たちはフェリックスたちの成功を知っても不自然なほど完全無視するような態度を取るというのです。これまで、生徒たちが何か立派な成果をあげたときには、全生徒に知れ渡るように発表してほめたたえるのに。スポーツでも美術でも、音楽でもいい成績をおさめると、かならずしっかり祝福されるのに。

 

うんうん、ありますよね。お金にまつわることは忌み嫌うという傾向。実際には、音楽でもスポーツでもそのお金をじゅうぶんにかけられた子が成功しがち、という一面もあるのに。部活は別として、そのさらに上の世界は、いかにお金をかけられたかということにかかってる。お金は自分の夢を実現させることの助けになってくれる。だから、お金は大事なはずなのに、この矛盾なぜ?

 

教頭のローリングズ先生は、フェリックスの成功にはっきりと不快感を示し、ビジネスをする行為によって学業がおろそかになるようなことがあったら厳格に対処すると言い渡してくる始末。スポーツで活躍してる子は、暗黙の了解で学業免除されるのにね。

ただ、救いだったのは、社会科で経済とビジネス楽を教えてるヒューズ先生だけは感心してくれて、先生の授業内で生徒の前で話す機会をくれたこと。

 

かくいう私も、お金なんて……、と思っていたくちでした。清貧の思想?稼ぐことが何となくよくないことのように思い込んでいた。そんなわけで、NPONGOなんかに憧れてた時期がありました。ただ、そんな中であれ?って思うことが多くなってきたんです。無償ボランティアに頼りきることへの疑問。本当に価値ある仕事であるならば、正当に評価され、正当なお金をもらってしかるべきではないかと。だから、みな疲弊して、疑問感じてやめていく......。やりがい搾取ってやつですね。

 

誤解しないでほしいのは、決して今の資本主義のあり方がいいと思っているわけではないんです。だけど、やりがいという名のもとに、例えば保育士、先生、介護職など本当に素晴らしい大変な仕事をしている人たちが、正当に稼げず、やめざるをえない世界はそろそろ終わりにしたい。お金稼ぐことに後ろめたさ感じさせるような教育してる(orお金の正しい教育をしてない)から、そういう人間力が必要な職業の人ほど、稼げないことを受け入れてしまう、そうさせられてる状況になっている気がするんです。彼らの優しさにつけこんでる気がして。

 

だからこそ、子どもの頃からフェリックスのように起業する子がどんどん増えてほしいなあ、って思うんです。だって、自分の心からやりたいことに純粋な子どもたちのアイディアや視点は新鮮で、地球に優しい新しい経済を見せてくれるような気がしてならないから。子どもが余計なお金を手にしたらおかしくなっちゃう?いやいや。それこそ、お金に使われるんじゃなく、使い方を教えるのが大人の役目というものではないでしょうか。

 

最後にこの物語で、一番印象的だったこと。

それは、“べつの物語を自分に語ることもできる”、という話。誰かに裏切られたと思ったとき、ずっと恨んだままその物語を抱えて生きていくのか、それとも別の物語を自分に語るのか。自分の捉え方を変えることで、人生を良い方向に変えることができる。そんな大事なこともこの物語は教えてくれます。ぜひ。

 



ぶつかって、そして家族になってゆく

『海を見た日』(2021年)M.G.ヘネシー 杉田七重訳 鈴木出版

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今日の一冊は、2022年中学生の部での読書感想文コンクール課題図書だったコチラ。

まず、表紙の美しさに目を奪われます。ああ、好きだなあ、この浜辺の美しさ。初めて見る海に、この物語に出てくる子どもたちはどれだけ感動したことだろう。じんとします。

 

内容は、ロサンゼルスの里親制度の問題点を描きたかったそう。そうかー。日本と比べると欧米は里親制度が発達していて、日本ほど血縁にこだわらないし、問題点がそんなにあるとは意外でした。でも、確かに短期留学のホームステイとかでも、お金のために受け入れて、家事を留学生にさせる家も少なくないと聞くので、あるあるなのかな。

 

物語はそれぞれの子どもたちの視点で描かれます。表面には出てこない、それぞれの心情が分かるから、端から見てるのと本人の心のうちにずいぶんとズレがあることが手に取るように分かるのがいい。自分は表面だけ見て判断してないかな?とハッとさせられます。

 

さて、物語に登場する子どもは4人。それぞれ個性的。

長女的なポジションのナヴェイアは、賢く大学に行きたいという野望を持って日々勉強をがんばりたいのですが、ヤングケアラー状態。ヴィックはADHDで妄想の中で生きてるし、小さなマーラースペイン語しか理解できない模様でとにかくおとなしい。そこへ、アスペルガーでなかなか難しいクエンティンが新たに里子として来たのだから、その大変さといったら。

 

養母さんがしっかりしていたらいいのですが、これまたヒドイ人ではないけれど、どうにも頼りなくて。夫を亡くし、鬱気味で仕事に追われてるから、結局見るに見かねて、ナヴェイアが色々と家事から子どもたちの世話からすることになってしまうのです。でも、いわゆる悪い人ではないから難しいんです。悪いんじゃなくて、どうにもこうにも疲れた人、悲しんでいる人なんです。

 

さて、そんな子どもたち4人がクエンティンの母探しの冒険の旅に出ることになるのですが、ときとして日常を飛び出すことは大事なんだなあ。日常が続くと、なかなか視点を変えられないけれど、旅に出て、ぶつかり合って、傷つけあって、逃げ場がなくて、向き合うしかない状態の中で、彼らは少しずつお互いに向き合っていくのです。そして、家族になっていく。向き合うって、痛みを伴いますよね。

 

家族って何だろう。そんなことを考えさせられます。

 

うーん、これはぜひ大人に読んでもらいたい物語。

とっても、いい物語でした!

 

里親テーマでは、以下もおススメです↓

jidobungaku.hatenablog.com

 

blog.goo.ne.jp

 

三百年前の世界へいざ!

『十三階の海賊たち』(1997年)シド・フライシュマン作 谷口由美子訳 偕成社

今日の一冊は、本が苦手な人でも楽しめそうなコチラ!

 

日本では4という数字が「死」を連想させるから駐車場などに使われなかったりしますが、欧米では13が不吉な数字で、13番地や13階はないそうです。

 

そういえば、私13日生まれなんですけど、ちょうど『13日の金曜日』というホラー映画が有名だった時期の13日に金曜日が当たってしまって、小学生の頃、からかわれて泣いた覚えがあります。いまでは、13は私が生まれた日にちの数字なんだからラッキーナンバー☆と思うくらい、メンタル図太くなりました笑。

 

さて、今回の物語は、そんな存在するはずのない13階に謎の人物から呼び出されるというタイムトラベルもの。

 

両親を事故で亡くした主人公のバディは年の離れた姉と2人暮らしなのですが、両親の残した借金で家を売り出しに出すほどの状況。姉は大学を卒業したての新米弁護士で、敏腕なのですが弱者の味方なので、お金にはならないんです。

 

そんなある日、バディは自分の先祖に紅海の財宝を隠し持った海賊クラックストーン船長がいると知るのです。

 

そして、謎の人物から呼び出されたとある建物の13階のエレベーターの扉を開けると、なんとそこは三百年前の世界。もうコレ、間違いなくワクワクしますよね。自分の先祖に海賊!宝!いざ冒険の旅へー!

 

コメディというほどではないのですが、どこかコミカルでユーモアがあって、そこが安心して読めるんですよね。危険がいっぱいで暴力的な要素のある冒険ものは、実は個人的には苦手。ですが、この物語は軽さがあったので、よかったなあ。物語の世界へこちらも一緒にトラベルできちゃう。

 

ところで、三百年前なので、当然ですが、時代違えば常識も違う。安息日には法律でキスしちゃいけないとか、走っちゃいけないとか、今では考えられないようなことが法律で定められていて、そんなことで逮捕されちゃう時代なんです。コミカルに描かれてるから笑っちゃうけど、いや、ホントこの時代に生まれてなくてよかった。

 

魔女裁判も史実に基づいて描かれています。みな誰かを先に悪者にすることで、自分は助かろうとする……同調圧力のある現代も、形は違えどこういうのあるんじゃないか、ってハッとさせられます。単純にエンターテイメントとしても楽しく読めるけれど、それだけに終わらない何かがある。

 

ラストも、ふふふ、となりますよ。

ああ、面白かった!そんな満足感が得られる物語です。

 

シド・フライシュマンは『かかし』という絵本も秀逸なので、ぜひ。絵本なのに、これは文学だ!って感動した一冊です。ちなみに息子のポール・フライシュマンも児童文学作家。息子の方もこれまたいい物語がたくさんです。

 

スッキリなはずのラストに、なぜかモヤモヤ

『逆ソクラテス』(2020年)伊坂幸太郎作 集英社

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伊坂幸太郎が珍しく小学生たちが主人公の短編集を書いた、とのことで、読んでみました。痛快で、とても面白かったです!さすがの構成力だなあ、って思う。

 

でも、ちょっぴりモヤるのはなぜなんだろう......それを考え続けています。

 

メッセージ性が強すぎるから?

 

会話での説明が多すぎるから?

 

ああ、痛快だった!で、終わらせていいのだろうか。そんなことを考えてしまうんです。なので、純粋に楽しまれた方は、この先は読まないでくださいね。

 

いや、とてもいい内容なんですよ?ものごとを決めつけがちな大人は、ハッとさせられる場面も多い。わが身に振り返って、自分の思い込みや先入観を反省させられる。

また、まっすぐな子どもたちの姿に、きっと勇気をもらう子ども、大人もたくさんいると思うんです。特に、第一話の『逆ソクラテス』に出てくる、

 

「僕はそう思わない」

 

は自分を守ってくれる、お守りになるようなマジックワード。例え口に出せなくても、心の中で思うだけでも、いい。相手の偏見や理不尽な決めつけを受け入れない。これは大事なことだなあ、って。

 

うーん、なのに、なぜモヤるんだろう。純粋にエンタメ小説としても面白いのに。いじめだったり学校特有の閉塞感があるから苦しいのかな。似たような体験をした人はトラウマがよみがえるかもしれません。子どもの世界って、思ってる以上に残酷ですからね。

 

悪役の登場人物に、ぎゃふんと言わせるラストなので、この小説を読んで、理不尽な思いをした過去の自分が慰められたような気持ちになる人もいるんでしょう。だから、痛快。子どもたちに教えたいことも詰まってる。

 

でもでも......。

痛快さは残るけど、それは“希望”とはちょっと違う気がして。帯に「最高の読後感」とあるけれど、我が子がこれを最高の読後感と感じたら、私はちょっと複雑かも。論破の気持ちよさと、どこか似通った空気がある気がして。

 

あ、そうか。きっと、私は悪役の登場人物たちにも、“背景”があることをもっと感じたかったのかもしれないです。児童文学では、そう感じれるものが多いから。そこが、児童文学に慣れてしまっている自分には、モヤっとしたのかもしれません。

 

色々考えるきっかけをもらえたので、読んでよかったです!