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今日の一冊は、タイトルと帯にあった“ル=グウィン絶賛”と書かれていたのに惹かれて手に取った一冊。あのル=グウィンが絶賛ってどんな世界観なんだろう?と興味津々で。実は、『仮面の街』という物語の続編だったらしいのだけれど、それ知らずにこちらから読みました。読んでなくても、大丈夫でした!
物語の舞台は、ゾンベイ市という架空の都市で、中世を彷彿とさせる時代や街並み。
主人公はパン屋の娘カイルで、あるときゴブリンからもらった骨でできた笛を吹いたら自分の影を失くしてしまうのです。この町では、影を失くしたものは死者という扱いなので、カイルは家を出て行かなくてはいけなくなります。そんなとき町には大洪水が迫っていて......というストーリー。
個人的には、カイルの影が文句ばっかり言ってて好きになれなかったし、母親ですら娘を死者扱いすることがなんだかなあ、って。え、そこは姿変えてもムーミンであることを見抜いたムーミンママみたいになってよお、って思っちゃう。そんなわけで、正直、ウィリアム・アレグザンダーの描く世界観が好みかと問われれば、個人的には好みではありませんでした。不穏な空気流れる時代も苦手すぎるので......。でもね、好みかどうかは置いておいて、強烈な印象を残すんです。それって、それだけその世界観が完璧ってことですよね。
ところで、カイルの母親は目方をごまかした罪で(例えわざとじゃなくても、不合格だと)パン屋の檻というのに入れられてしまうのですが、これが中世には本当に実施されていたと知り、びっくりびっくり。そんなことで、檻に入れて水攻めにしちゃうの!?理不尽すぎない???
中世って個人的にはそんなに惹かれる時代じゃないのだけれど、それでも学生時代に読んだ『中世の星の下で』という本がとっても面白かったということだけは覚えていて。今回もう一度読みたくなって読み返してみました。こういう風に、文献的につながる本を読んでいけるところが、大人になってからの読書の楽しみですよね。
そうそう、このブリューゲルの絵の表紙も好きだったなあ。学芸文庫なのだけれど、タイトルはじめ、とても文学的というか阿部謹也の文章がシンプルに好き。中世の時代が、当時の人々が、イキイキと目の前でうつしだされていくのです。そこに鐘の話が出てきて。鐘がどれだけ人々をまとめる役割を担っていたかというところで、今回の物語とも少しリンクするなあと興味深かったです。
『影なき者の歌』の中では、鐘ではないのですが、大洪水を止めるために、橋の上で特別な楽師たちが特別な歌を奏でます。ふさわしい旋律を奏でることによって、どんなものもひとつにつなぎとめておくことができるーあるいは、ばらばらにすることができる、というのです。
そして、言葉が先か、音楽が先かについての口論のところでは、こんな風に語られます
「『どっちが先か』なんて、興味をひかれるような問いじゃない。遠い昔、言葉と音楽はまったく同じものだったからだ。『どうして、それが言葉と音楽に分かれたのか?』という問いのほうがもっと興味深いと思いよ。もっともその問いの答えは知らない。だが、船にたとえていうなら、航路図を読むために必要な羅針盤がある。つまり、言葉にはできないことを音楽で理解することができる、また、言葉を使って魔法やまじないをおこなうことができるのと同じように、音楽を奏でて世界をつくりなおすことができる」ということさ(P.127)
音楽を奏でて世界をつくりなおすことができる......!!!
説得力を感じたファンタジーでした。