Pocket Garden ~今日の一冊~

大人も読みたい、大人こそ読みたい、大人のための児童文学の世界へご案内

苦労させたくない親心ってダメなの?

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『兄の名は、ジェシカ』(2020年)ジョン・ボイン著 原田勝訳 あすなろ書房

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今日の一冊はコチラ。

 

兄なのにジェシカ?ジェシカって女の子の名前では?

と、タイトルからも推察できるように、今日の一冊は、トランスジェンダーに悩む兄を弟の視点で綴った物語。

 

とっても読みやすく、これが自分の家族に起こったことだったら……と考えさせられます。とはいえ、手渡すタイプの物語で、自分からは手に取らない内容かもしれないですね……。と思っていたら、今年の、読書感想文課題図書高校の部に選出されたそうです!やった!

 

でも、私自身は、なぜこんなにもマイノリティと呼ばれる人たちの物語に惹かれるんだろう?

 

純粋に知らない世界を知るのが、楽しい(といったら語弊があるかもだけど)というのと、前にも書きましたが、身近にいたゲイの友だちを、ゲイだと知らされていなかったときに知らず知らずのうちに傷つけていた体験があったからかな、やっぱり。

無知でいると、悪気なく傷付けちゃうことあるんですよね。だから、知りたい。

 

重い内容といえば重いですが、設定が面白くて軽快さもあります。主人公でもある難読症のぼくサムは10歳で、そのせいか友だちもいないけれど、人気者の兄を誇りに思っているせいか、それほど悲壮感もない。

そして、両親の設定がなかなかユニークな設定でして。なんと、ママは有名人、首相の座を狙う閣僚で、パパはママの秘書。普通の家じゃない(笑)。

 

そういうおうちなので、”世間体”は当たり前に大事なのです。

この両親がね、意外とリアリティがあるかなー、と思ったのは子どもに対する言動なんですよね。一見毒親チックなんだけど、それって愛情注いでる自信があるからの発言なのかな、とか。

 

世間体も気にするし、なんなら、カミングアウトされたとき、めっちゃヒドイ発言ばかりしてたけれど、それでも子どもが信頼したがってたことから、それなりにいい親だったんだろうなあ、とも感じられる。親だって、揺れ動きますよね。未熟がゆえにしてはいけない発言、時にはしちゃいますよね(←え、うちだけ!?)

 

それにしても、カミングアウトしたときの家族の反応はヒドかった。

一番苦しんでいるのは当事者のジェイソンなのに、自分たちに及ぶ被害ばかり考えて。ここは読むのが苦しかった。

どんな思いでカミングアウトしたんだと思ってるんだ!?なかったことにしよう、忘れよう、って……おいおいっ。挙句の果てに思春期の問題、または精神病扱いして、電気ショック療法とか言い出す両親。ひどすぎる……。でもね、実際家族にも被害があるんですよね、だからここも現実的なんだろうな、って……。

 

特に、弟のサムはもともといじめられっ子気質だったこともあって、兄のことが知れ渡ってしまうと、まあ、ひどいことをされるんです。きれいごとじゃ済まない。なんでカミングアウトしたんだよー!と思うのも当然。さらにね、驚くのがこれが昔の話じゃなくて、いまの話なんですよ。エド・シーランやメーガン妃が出てくる現代。

 

ずいぶんとヒドイ捉え方をした両親。ですが、あまりにもジェイソンの話を聞かないので、カウンセラーの先生からジェイソンと二人にしてほしいと言われたとき、こういうんです。

 

「ジェイソンはわたしたちの息子です。ですから、わたしたちがどう思っているかは別にして、この件にかかわっていたいのです。わかりますか?かかわっていなくてはならないんです」P109

 

さらに、カウンセリングに弟のサムも同席させたのは、彼も家族の一員だから、と。ジェイソンはそれを聞いて喜ぶんです、一人じゃ乗り越えられないから嬉しい、と。そんなすぐには受け止められないし、反応も間違ってるかもしれないけれど、でも少なくともこの母親はかかわろうとしている。もがいてる。

 

とはいえ、なかなか受け入れられない家族。家庭内での居場所をなくしたジェイソンは家を出ていきます。

 

うーん、難しい!

以前読んだこちらもトランスジェンダーに関するもので、とってもよかったので、ぜひあわせてお読みいただければ↓

blog.goo.ne.jp

 

が、今回の物語が『ジョージと秘密のメリッサ』よりもすんなりいかないんです。読者もなかなか受け入れがたいのは、きっとね、ジェイソンがサッカーが得意で学校一美人の彼女もいて、誰もが憧れるような”男らしさ”全開の人気者だったから。

ジョージの場合は、内気で年齢も小学4年生だったし、なんとなく周りもすんなり受け入れやすいんですよね。でも、ジェイソンは……あえて性別変えて苦労しなくてもいいのでは?と思う親心も痛いほど分かる。憧れだった兄を失う弟の気持ちも。いや、でも本当の自分でいられないジェイソン自身が一番苦しいということを、私たちは忘れちゃいけない。いやあ、難しい。

 

そんな中、親としてこうありたい!という動画を、先日偶然見つけました。 

こちらは、ゲイであることを父親にカミングアウトした人の動画なのですが、この父親の返答が素晴らしくて。お前が一番いままでしんどい思いしとったはずや、って。ああ、私こういう風に言えるかな、って。お父さん、めっちゃ早口マシンガントークなのもスゴイ(笑)。

 

ゲイとトランスジェンダーは全然違うということは分かっているのですが、カミングアウトの大変さという共通点から、この素晴らしいご両親の反応をご紹介させてください。ちなみに、このおうち、母親の反応も妹の反応も自然体で素晴らしいの。↓

www.youtube.com

 

途中、読んでいて苦しくなる場面もあるのですが、最後はうまくいきすぎじゃ!?と思うくらいの大団円で、後味がよい物語なので、ぜひ。

 

こんな時期だからこそ思い出したいこと

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センス・オブ・ワンダー』(1996年)レイチェル・カーソン著 上遠恵子訳 新潮社

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今日の一冊は、こんなコロナ禍だからこそ、子どもというよりも大人自身、そして子どもに関わる全ての大人に、いま一度おすすめしたい本。

 

とても、有名な本なので、読んだことはなくてもタイトルくらいは聞いたことがあるという人も多いのでは?

 

最近はなんだか、ワクチンワクチンでね……我先にと殺到し、抜け駆けした人を罵倒する人たち……芥川龍之介蜘蛛の糸を連想してしまうのは私だけ?

 

こんなにも二極化した世界を見るのも初体験で。同じ状況下にいるとは思えない。親族も、考え方が正反対真っ二つな感じ。

 

何が正しいとか言えないし、真実も人それぞれだと思うのですが、一つだけ言いたいとすれば、今日の一冊にある言葉、

 

「知る」ことは「感じる」ことの半分も重要ではない

 

ということ。

 

ここでいう、「感じる」は、恐怖や不安のことではなくて、自然の神秘に驚く、「センス・オブ・ワンダー=神秘さや不思議さに目を見張る感性」。

これを見失わなければね、どんな状況下でも、豊かに生きることができる気がするんです。

 

著者のレイチェル・カーソンは、1962年に出版した『沈黙の春』という本で、いちはやく農薬などによる環境被害を訴えたことで有名な人。『沈黙の春』は、昔私も読みましたが、正直……小声で言いますと、こちらは読み返したいとは思わなかった。

その当時私はオーガニック業界で働いていたので、危機感は既に持っていたし、もっともっと持たねばとは思っていた。でもね、この手の本から警鐘を鳴らされるのは、気づくきっかけはもらえるけれど、気持ち的にはその後疲れてきちゃうのです、私は。

 

でも、この『センス・オブ・ワンダー』は、ひたすら自然のすばらしさについて新鮮な驚きをもって書かれていて、幸せな気持ちになるんです。短いエッセイなので、大人なら30分もかからないで読めちゃいます。

 

著者と小さな甥っ子ロジャーがメインの森や海を探索する様子は、それはそれは美しくて。

 

でもなあ、そんな自然の中、そうそう出かけられないしなあ……と思うでしょう?

ところが、著者は都会でもいい、って言ってくれるんです。

空を見上げれば、そこには夜明けや黄昏の美しさがあり、流れる雲、夜空にまたたく星がある、と。たとえアパートの角でも風のコーラスに耳を傾けることもできるし、雨に打たれながら、ひとつぶの水の長い旅路に重いを巡らせることもできる。台所の窓辺の小さな植木鉢を見ていたって、植物の神秘について、じっくりと考えらえる。

 

身近な小さな自然に目を向け、その不思議さに驚けば、ステイホームだろうがなんだろうが豊かに過ごせるんだなあ。

 

空は、誰の上にも平等に広がってますしね!

 

不安になったり、異なる考えに批判的な思いを抱くよりも、自然の神秘さや不思議さに目を見張ろう(←自分に言い聞かせてます)。その先に広がっているのは、きっと素敵な世界。

現代っ子にも通じる良質児童文学

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『ゆかいなホーマーくん』(2000年)ロバート・マックロスキー作 石井桃子訳 岩波書店

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今日の一冊は、THE☆児童文学のコチラ!

 

きっかけは突然に……。

 

我が家の息子たちは、残念ながら誰も読書が好きではありません(いまは、まだ←希望をこめて)。我が家の子どもたちの読書体力はこんな感じ↓

 

◆高1長男:見ていてかわいそうになるくらい、とにかく文字が苦手。真面目なので、学校の課題図書は読むけれど、内容が入っているとは到底思えない。生きづらそうな彼を見てると、本が味方になってくれるのにな、という思いもついつい持ってしまう。けれど、彼は彼なりに本なしでも学び成長していくのでしょう。

 

◆中1次男:読めるけど読まない人(今は漫画のほうに夢中)。読んでる冊数こそ少ない(1年に2~3冊)けれど、彼の読解力はすごい(←親バカ)。私なんかよりよっぽど深く読み込み、内容を受け止められる人。大人になったら本好きになりそう。

 

◆小3三男:おちゃらけボーイは、本を読むのなんて大っキライ。漫画を眺めてるのは好き(字はあまり読まない)。でも、読み聞かせてもらうのは大好き。

 

さて、今日はそんな三男のお話。

もうね、自分で図書室から借りてくる本がゾロリだったり、おしり探偵系統しかないので、私的には内心ガッカリなわけですよ(本人には言いませんよ?)。

 

そんな長男が、今日の一冊に夢中になったんです!

私からすると、もう奇跡!はじめて自分で読んだ長めの本が、岩波少年文庫だったことに感動(←親のエゴかもですが)。私的には岩波少年文庫で、石井桃子訳となればもうハズレなしなのですが、本を読まない子にとっては敷居が高いかなと思ってたんです。

 

きっかけはね、“超能力”だったんです。

ふぇっ!?って感じですよね(笑)。

 

ある日、なぜか知らないけれど、超能力が使えるようになりたい!と鼻息荒く帰宅してきた三男。

うちのじいじは気功をやっていることもあり、スプーン曲げ程度ならできるのですが、三男が求めているのは瞬間移動とかもっとハイレベルで(笑)。

どうすればできるようになるのか聞かれたので、まずは“集中力”を鍛えることだね、って話になったんです。

 

で、どうすれば集中力を鍛えられるのか。

よく観察して絵を描く、工作など何かを創り出す、あとは読書とかかなあ……

って話したんです。本は嫌いなので、絵を描くのが一番いいかな、と思っていたら手近にあったから本にする、って。

私としては意外だったんです。読書だけは選択しないと思っていたので。押しつけがましくなく、最後にサラリと言ったのがよかったのか!?

手近にあること大事!!!思い立ったら、身近に良書があること、大事!!!

 

で、超能力のために、はじめて三男は3時間くらい通しでめちゃめちゃ集中して読書をしました!いままで10分も続けて読めなかったのに、いきなり3時間。恐るべし、超能力の魅力(笑)。

 

ただ、私的には不安もあったんです。果たして、1940年代に書かれた古き良き児童文学の王道であるホーマーくんが、現代っ子に受け入れられるのか。

ユーモラスとはいえど、このユーモラスさが昭和世代以降の現代っ子に通用するのか。

 

通用しました!

いままで読んだ中(っていままで読んでないじゃーん、というのは置いておき)で、一番面白かったそうです。

 

嬉しかったなあ。

主人公のホーマーくんはアメリカの田舎に住んでいて、機械いじりが大好き(←男子はこれだけで惹かれますよね!)

強盗が出てきたり、ドーナッツが山ほど出てきたり。楽しい、楽しい。

どこか飄々としているホーマーくんは、男子ウケいいこと間違いなし。 

どちらかというと絵本のほうが有名なマックロスキーの挿絵も、もう素敵で。                                                                                                              

ああ、こういう本を楽しいと思ってくれたことが、たまらなく嬉しい!

あきらめず、さっと差し出せるようにやっぱり、種まき続けていきたいな、と思いました。

タイトルに裏切られ......た?

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スマホを捨てたい子どもたち 野生に学ぶ「未知の時代」の生き方』(2020年)山極寿一著 ポプラ新書

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今日の一冊はこちら!

タイトルに惹かれまして。

ええ、うちの長男(高1)もね、見ていてイライラするくらいスマホしか触ってないのです。が、さんざスマホ漬けになってるのに、寝る前に「あー、スマホなんかなきゃいいのに!なければ依存しないのに!」って時々叫ぶんです。え、楽しんでないの?じゃあ、やめればいいのに、と思うのにやめられない。そこで、この本が目についたというわけです。

 

こ・れ・は!!!

いい意味で裏切られる内容でしたー!

 

どう裏切られたかって!?

 

スマホ依存、SNS疲れ……思春期のお子さんお持ちの親御さんの多くがお悩みだと思われるこちらのテーマ。タイトルに惹かれて読み始めたら、中身ほとんどゴリラの話じゃないですか(笑)。最高っ!

 

確かに、副題に“野生に学ぶ”とあったけれど、メインタイトルの印象が強すぎて、副題が印象に残ってなかったんですよね。

 

でもね、もしこれが『ゴリラに学ぶ生き方』だったら、手に取らなかったと思うんです。だから、ある種のひっかけのようなタイトルに騙されてよかった(笑)。

いや、騙してはいないんですけどね、ちゃんと最初と最後はスマホにつなげてるんですけどね、でも大半がゴリラの話。で、ゴリラの話になったとたんイキイキしている山極氏が目に浮かぶようなんですよ、これが。もう、ワックワクしながら読んじゃいました。副題にある「未知の時代」とは、AIなどが人間の能力を越えつつある社会のことですが、私にとっては、ゴリラのほうが未知の世界だった(笑)。フィールドワーク最高だな、もっと読みたい。

 

さて、ゴリラ研究者で京都大学総長の山極氏は、まえがきでこんな風に述べてます。

 

ぼくらが人間のどんな性質を見直すべきなのか、それは現代の人間だけを眺めていてもよくわからない。情報機器はもちろん、言葉すらもたない動物世界がどういうつながりをつくっているか見てみることで、人間的なつながりも見えてくる

 

そうそう、人間関係だけを見ていても、見えてこないし、モヤモヤがつのるんですよね。こちらに出てくる養老孟司さんの話を思い出しました↓

blog.goo.ne.jp

 

と思ったら、山極さんと養老さん、こんな対談を出しているではないですか!↓

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『虫とゴリラ』(2020年)養老孟司・山極寿一著 毎日新聞出版

 

なんと、まあ、直球なタイトル(笑)。 

今日の一冊を読む前だったら惹かれなかったけれど、次はこれを読む気満々。

 

人間は言葉があるから距離を保ってつながれる。

「持ち運び可能」な言葉が物語を生んだ

そして、身体より言葉を信じるようになった人間

 

……など、今回この本を通じて、“言葉”についても、改めて色々と考えさせられました。

もうね、一章一章感想を書きたいくらい。

 

そんなゴリラの話のあとに聞く、山極氏の言葉には説得力がありました。

最後のほうで、山極氏はこんな風に述べています。今のデジタル社会は、0か1かという発想で作られていて、その中間も、「どちらも」という考え方も許されない、と。

 

仲間でありつつ仲間でないという発想がなぜできないのか。どちらにも属するかもしれないし、どちらにも属さないかもしれないという「間」の発想が世間一般に広がれば、もっと色々なことが楽になるはずです。(P.184)

 

世界は本来、「実は正解がいくつもある」というものに満ちています。

たった一つの正解に至らなくても、決定的に不正解に陥らなければ、

戦争も起きないし、命も失われません。(P.174)

 

 うん、一つの正解にこだわらなければ、違いを認めつつ共存できる。

 

学術的だったり、難しい言葉は使っておらず、とても読みやすかったです。

余談ですが、ここに出てくるゴリラの父親が理想すぎて、これは夫に読んでもらわねばっ!と意気込んですすめてみました。面白いと一気読みしつつも、ゴリラの父親に関するところに対しては、夫無反応……チーン。

 

気を取り直して。最後に、ゴリラが出てくる児童文学をご紹介しますね↓

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『グリーンノウのお客さま』(2008年)ルーシー・M・ボストン著 亀井俊介訳 評論社

グリーンノウシリーズの4巻目にあたるこちらは、カーネギー賞を受賞。

ゴリラの魅力を知った今なら、より楽しめそう。これも読み直してみよう。
 

 

 

コロナ禍で、生きる力を育む物語7選

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新緑が楽しみな季節がやってきた!

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今日のテーマは、『生きる力を育む物語 7選』!

 

某紙の5月号で『生きる力を育む物語7選』を選書させていただいたのですが、いやあー、これ、めちゃめちゃ悩みました。コロナ禍で、落ち込んでいる人が多いので、このテーマでと言われたのですが……

 

だって……良い児童文学って、どれもこれも生きる力を育むんですものー!

どこが響くかは人それぞれなので、どの本も生きる力を育むことにつながるといえるかもしれませんが、やっぱり特に児童文学は生きる力を育くむと思うんですよねえ。ただただ純粋に楽しいだけの物語だって、見えないところで生きる力を育むし。

 

児童文学は、基本最後には“希望”があるんですよね。大人の文学には、あえてそこを欠けさせて印象深くさせてるものもあって、それはそれで自分が余裕があるときはいいと思うんです。でも、生きる力を育めるか、っていうとそこは疑問で。

 

というわけで、児童文学というくくりだと、生きる力を育くむ本がありすぎて悩みましたが、今回は紙面上の字数にも限りがあることと、読者層が高年齢なこともあり、こんな感じにしてみました。

 

①『モモ』

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『モモ』(2001年)ミヒャエル・エンデ著 大島かおり訳 岩波書店

 まず一番最初に持ってきたのは、”時間”とは何かを問う名作であるこちら。

豊かに生きるために、大切にすべきことは何なのか。効率ばかりを重視することの危険性に、コロナ禍で気づいた人も多いと聞きます。

聞き上手のモモから学ぶものは大きい!そして、時間泥棒って、もしかしてスマホ?なんていう人も。大人こそいま一度読みたいものとして、最初にあげてみました。

 

②『ゲド戦記Ⅰ 影との戦い

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ゲド戦記Ⅰ 影との戦い』(2009年)U.K.ル=グウィン著 清水真砂子訳 岩波書店

良質なファンタジーって、非現実的というよりも、ある種の〈真実〉をもって我々に迫ってくるんですよね。果たして、〈影〉とは戦うべきものなのか。ゲドと一緒に読者も成長し、どう影と対峙すればよいのかを学べるのですが、大人にも響く。思春期に出合っていたかった一冊です。

 

③『怪物はささやく

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怪物はささやく』(2017年)パトリック・ネス著 シヴォン・ダウド原作 池田真紀子訳 創元推理文庫

ゲド戦記』とセットで紹介したかったのがコチラ。こちらも児童文学で、主人公も少年ですが、でもね、大人にもすすめたかった。だって、大人になればなるほど、日頃我々は自分の感情にフタをして生きてしまっていると思うんです。大人だから、感情を抑え込める、って。それが”負”の感情ともなればなおさら。

 

でも、この物語が教えてくれるのは、感情には善も悪もなく、大切なのは自分の真実の感情と向き合うこと。東洋的な考えでびっくりしたー。

 

寓話を通じて、怪物が問いかけることは何なのか。なぜ、怪物は少年自身に最後の物語を話させようとしたのか。暗い物語ですが、おススメ。

 

④『第九軍団のワシ』

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『第九軍団のワシ』(2007年)ローズマリ・サトクリフ著 猪熊葉子訳 岩波書店

もうね、サトクリフの物語はどれもこれも紹介したかったので、迷ったのですが、やっぱりコレ。軍人生命を絶たれたローマ軍団百人体調のマーカスが、行方不明になった父の軍団とその象徴の〈ワシ〉を求め、旅に出るというストーリーなのですが……。あらすじだけ聞いても、全然惹かれないでしょう?いや、私だけ(笑)?

 

これがねえ、一種のロードムービー的でもあり、読み終えたあとは深い感動があるのですよ。主人公の挫折、内面の葛藤は、時空を超えて共感を呼びます。組織の中で働く世代にも響く。本をあまり読まなかったうちの夫にも響いた!

 

 ⑤『ジョン万次郎 海を渡ったサムライ魂』

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『ジョン万次郎 海を渡ったサムライ魂』(2018年)マーギー・プロイス著 金原瑞人訳 集英社

コロナ禍でね、制限が多く落ち込んでる人も多いと聞きます。そんなとき、これ読んでみてほしいんです。自然災害、疫病、権力組織や時代の制約など、その壁が大きければ大きいほど、自分ではどうにもならないと無力感を覚えてしまいますよね。

ジョン万次郎の生き方は、そんな我々に大きな励ましと生きるヒントを与えてくれます。うちの本が苦手な次男も、本が苦手(&当時読めない漢字も多かった)なのにこの物語は大好きで、友だちにすすめまくってました!

 

⑥『走れ、走って逃げろ』

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『走れ、走って逃げろ』(2015年)ウーリー・オルレブ著 母袋夏生訳 岩波書店

第二次世界大戦下、ナチス・ドイツの迫害の中で、ゲットーを抜け出した8歳のユダヤ人少年の過酷なサバイバル物語。......と聞くと、重くなりそうで敬遠しがちかもしれません(私がそうだった)。

 

でもね!これ、生命力あふれる物語なんです!過酷な中にもどこか明るさがあって。

不条理な運命を変える力はなくとも、それに対して”どうありたいか”は自分で決めることができるんだよなあ。そういうことを教えてくれます。驚きの実話。

 

⑦『ピーティ』

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『ピーティ』(2010年)ベン・マイケルセン著 千葉茂樹訳 鈴木出版

最後に持ってくる本はこれ、と決めてました。ことあるごとに、隙あらば、このブログで何回も紹介してるこちら(笑)。

 

いやあ、だってね、乗り越えるとかがんばるとか、そういうのもいいんですけど、それだけじゃない。何かを成し遂げなければということにとらわれてる人って、多いと思うんですよね。そういう人にとっては、ピーティは衝撃かもしれません。

 

だって、ピーティは何もできないんですもの(ある意味)。人生の大半を施設で過ごす。それでもね、自分の受け止め方一つで、ただ存在するだけ(←ここを伝えたかった!)でも、輝いた人生を送ることができるんです。それをピーティは教えてくれます。もし、いまの状況で落ち込んでる人がいるとしたら、ぜひピーティに出会ってもらいたい。

 

みなさまにとっての”生きる力を育む物語も、ぜひ教えてください。

何てことをしてしまったんだろう!(久々の猛省中)

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ただいま猛省中…

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※ 今日の一冊紹介は、文中にあります

 

ああ、なんてことだろう。

いま、自分自身に衝撃を受けています。

 

私、疑り深いほうなんです。

それ本当?

それ自分で確かめた?ソース(情報源)は?

 

噂話は信じないというか、関わりを持たないようにしているし、マスコミの報道は鵜呑みどころか、基本疑ってかかっている。情報は切り取ったものであり、点で判断しないようにと気を付けてる(つもりだった……)。

子どもたちにも、特にネット記事とか鵜呑みにしないよう言い続けています。

 

だから、自分は大丈夫だと思っていました。

 

が!!!!ですよ。

先日ある出来事があって、信頼できる人からの話なので、それを“そうなんだ”と思ってしまったんですね。思うだけで、自分の心にしまっておけばよかったのですが、それを人に言ってしまった。

 

自分としては、善意から伝えたつもりが、受け取るほうがちょっとずつ違う解釈をしていって、あやうくとんでもないことになるところでした。

(結果的にはならなかったのですが、びっくりしたし焦りました)

え?私が噂話の源???ショックでした。猛省。

 

そこで、思い出したのが、今日の一冊です。

短い児童書なのですが、えん罪テーマで、これは侮れません。

昔(2016年)書いたものなので、いま以上に軽い文体が読み返していて恥ずかしいのですが、でも、伝えたいことは今でも変わらないので転載↓

blog.goo.ne.jp

 

ちょっと違うけど、自分はオレオレ詐欺には引っかからないと思ってる人ほど、引っかかるってこういうことかあ、とも思ってしまった。

 

また、まだ自分自身は未読なのですが、お友だちからはこちらの大人向け絵本も教えてもらいました↓

 

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『二番目の悪者』(2014年)林木林作 庄野ナホコ絵 小さい書房

 

噂は一人歩きします。自分の思いもよらない方向に。

よかれと思って伝えたことも、途中で曲がって伝わってしまうことも。

今回、私はそれが噂になるという自覚もなかった。

 

自分の目で見たこと、耳で聞いたことだけ信じること。

そして、直観力を磨くこと。

もう自分は大丈夫だと思わず、いつまでも学び続けること。

大事だなあ、と改めて思った一日でした。

 

 

この熱量を伝えたい!!!

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『ベルリン1919 赤い水兵』(2020年)クラウス・コルドン作 酒寄進一訳 岩波書店

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児童書専門店クーベルチップさん主催の“翻訳家・酒寄進一さんと『ベルリン三部作』を読む”に参加してきました!

 

コルドンのベルリン三部作とは、

 

第一部:第一次世界大戦終結させた十一月革命とその後の顛末を13歳の少年ヘレの視点で

 

第二部:ナチが政権を奪取するまでのわずか数か月間を、15歳のハンス(ヘレの弟)の視点で

 

第三部:1945年冬、敗戦の過程を生きのびる人々を、12歳の少女エンネ(ヘレの娘)の視点で

 

 

で描いたもの。

 

 

申し込んだ時点では、実はこちら未読で……それでも、速攻申し込んだのは、読書眼で信頼している周りの読む人読む人、大絶賛だったからなんです。

 

いやあ、酒寄さんの熱量もすごかったです!!

ネタバレしないように一生懸命気を付けて話してくださったのですが、ベルリンの地図をたどりながら、まさに一緒に読む感覚。

 

実は、というかいつもブログにも書いているのですが、私は戦争文学が苦手。

暴力的な描写もダメだし、人の心が暴徒化していくのも読むに耐えなくて……。

まだ2部の途中までしか読めていませんが、この物語に出合えて本当によかった!!!

 

興味深いお話をたくさん伺えたのですが、中でも個人的に印象的だったのは、質疑応答のときにお話しされた、リヒターとコルドンの違いです。

リヒターというのはこちらを書いた人↓

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『あの頃はフリードリヒがいた』(2000年)ハンス・ペーター・リヒター作 上田真而子訳 岩波書店

 フリードリヒはナチスの過ちを繰り返さないためには必読書なのかもしれないけれど、私は打ちのめされてしまったんです。

もうねえ、あまりにも大きな壁を前に無力感。希望がなくて、どうしようもなく落ち込んでしまって……正直、これを子どもに手渡したいとは思えなかったんです。子どもがもっと現実を知りたいと言ってきたら、渡したいかもしれないけれど、最初の1冊としては避けたいかも。落ち込んじゃうから。何冊か読んだ後だな。

 

でも、コルドンのベルリン三部作は、どうにかしてでも手渡したい!!!と思った。

そこには、どんなに過酷な状況でも”希望”があったから。

 

酒寄先生によると、リヒターとコルドンは書かれた時代背景に違いがあるとのこと。

リヒターは渦中でナチスを経験した人。実は、敗戦後10年くらいは、ドイツの人たちは『アンネの日記』も誇張だと主張したくらい、自分たちがユダヤ人に対して、そんな非人道的なことをしたはずはないという空気だったんだそうです。敗戦国だから、色々言われてしまうんだ、くらいな感じ。だからこそ、リヒターには残酷な現実をつきつける使命のようなものがあった。

 

一方で、コルドン自身には戦争の記憶はほとんどない。

でも、祖父母の代まで遡って自分のルーツを知らないと、生きていけない。コルドンがこの物語を80年代に書いたことにも意味があって、80年代にはどこか虚無感が漂っていたそうです。

 

コルドンが驚いたのは、第一部に描かれている第一次世界大戦終結させた十一月革命は、ドイツの生徒はもちろんのこと、先生たちですら知らなかったこと。まさに、忘れ去られた冬だった。ここを理解しないと、なぜ人々がナチスに流れて行ったのかが理解できない。

 

一方で、その後のドイツは平和教育もしっかりし、ナチスの反省をしっかりと叩き込みすぎたこともあり、子どもたちは自分の国が嫌になってきてるという傾向にもあったそう。これ、分かるなあ。戦時中の日本のした卑劣な行い知れば知るほど、私自身も日本が嫌いで嫌いでほこりをもてなかった時期あったから。

 

だからこそ、コルドンはどこか希望がある物語を書いた、と。

そして、コルドンは、精神的に強い人だけでなく、迷える人々、歴史に翻弄された人間の典型でもある流される人々のことも丁寧にすくいあげたんです。歴史的な知識ではなく、その向こう側にある真実、当時のリアルな空気感を描いた。

 

やっぱりねえ、希望って大事!!!

 

さて、では、なぜ今、日本にいる私たちがこの物語を読みたいのか?

いま読みたい理由、それを酒寄先生は次のようにお話しされていました。

ここに描かれてるのは各個人個人が何を考え、どう決断して、どう行動したか。

今は戦時中ではないけれど、コロナという未曽有の状況の中で、自分のモデルはどれ?と問いながら読む価値もありだ、と。

 

酒寄先生が、この物語を日本に紹介したいと思ってから実現するのに、実に20年もかかっているんですって。最初は理論社さんから出版され、そちらは原書と同じ表紙や雰囲気だったそうなのですが、今回の岩波版はもうちょっと入り口をソフトにしたいと西村ツチカさんにカバー画を頼んだそうです。コルドンさん本人もイメージ通り!ととっても気に入っているのだとか。

 

政党の対立など、政治的な内容は少々理解するのに難しく、確かに中学生でこれ理解できるのかな?という思いもあるのですが、それぞれの心情や暮らしぶりのところは、とても読みやすい。ぐいぐい物語に引き込んでくれるような訳で、本好きな子なら小学校高学年でもおすすめしたくなる内容です。

 

物語自体の感想についてはまた別途!

家族全員で読みたい、そして、語り合いたい。そんな物語です。