Pocket Garden ~今日の一冊~

大人も読みたい、大人こそ読みたい、大人のための児童文学の世界へご案内

オオカミ特集:オオカミを知って人間&環境を見つめ直す

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気高きオオカミたち

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昨晩から今朝にかけてのウルフムーン、ご覧になれましたか?

 

私の住む地域はお天気がイマイチで……いや、それ以前にうちは谷戸に囲まれてて、家の中から満月が見える位置に来るのが真夜中なんです。だから、いつも寝ちゃうんですよね(笑)。当然子どもも学校から『月の観察』なんて宿題が出ても、夜更かししなきゃいけないので毎度できず(先生も了承済み)。見れた方、ラッキーですね!

 

さて、そんなわけで今日はオオカミ特集。

テーマ本読みは本当におススメ!一冊読んだだけでは、印象に残らなくても、何冊か読むと、実に発見が多い!ぜひやってみてくださいね。

 

写真集もノンフィクションもオオカミ関連は素敵なのがたくさんあるのですが、今回は物語に絞りますね。では、どうぞ!↓

 

 

①『太陽の戦士』ローズマリ・サトクリフ作

 まずは、骨太のこちら!なんと先史時代が舞台なのですが、イニシエーションとしてのオオカミ殺しの場面がいいんです。両者の間に流れている敬意のようなものにグッときます。主人公の挫折や葛藤も、現代人が呼んでも共感できるもの。

決して派手な語り口ではないのに、読み終えた後は、しばらくこの世界観から抜け出せない。生きてるうちに一度はサトクリフの物語に出合っていただきたいなあ。↓

 

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②『オオカミ族の少年』ミッシェル・ペイヴァー作 

こちらも大昔も大昔、日本でいうところの縄文時代にあたる時代の物語。もうねえ、アニミズム的世界観が最高なんです!文化人類学的にも面白い。こちらはオオカミと対峙するのではなく、旅のバディがオオカミ。切ないほどの絆。圧巻の世界観が堪能できます。↓

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 ③『オオカミは歌う』メルヴィン・バージェンス作

こちらは崇高なオオカミVS残虐なハンターの話。もうね、同じ人間であることが嫌になっちゃうくらいハンターがひどい。でも、オオカミって『赤ずきんちゃん』をはじめ、特に絵本なんかでは、ずる賢い象徴として描かれることが多いから、この崇高な真の姿をもっと多くの人に知ってもらいたい!↓

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④『オオカミを森へ』キャサリン・ランデル作

こちらは、1900年代初期のロシアが舞台で、いかにも物語といった世界観に浸れる物語。表紙絵、好きだなあ。“オオカミ預かり人”という架空の職業が出てくるのですが、これがリアリティがあって。ただ、子どもたちが主体となって革命を起こす後半は、好みが別れるかもしれません。↓

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⑤『ペーターという名のオオカミ』那須田淳

 ドイツ在住の作家那須田淳さんが書かれた、現代のドイツが舞台。東西ドイツの複雑な歴史など物語を通じて、勉強もできちゃう!?ロードムービー的な楽しさや逃亡劇なので、スリルもあり。↓ 

⑥『オオカミのようにやさしく』G・クロス作

こちらは、象徴としてのオオカミ。父親がIRA(アイルランド共和国)でテロ活動を行っているという、少女の物語。日本ではあまり報道されないので、北アイルランド紛争と聞いてもピンとこないかもしれませんが、とても興味深い物語。イギリスの社会事情が描かれているので、話題になったブレイディみかこさんの『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』とあわせて読むのもおススメ!↓

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 ⑧『オオカミとの旅』ロザンヌ・パリ―

こちらは先日ご紹介したもの。オオカミがどれだけの距離を旅するのか、まさにオオカミに自分がなった気分で一体化できます!↓

jidobungaku.hatenablog.com

 

⑨必見動画!生態系&地形を復活させるオオカミ

 え、しつこいって(笑)?

先日ご紹介したオオカミが生態系や地形を復活させた動画、ご覧いただけたでしょうか?今日も貼っちゃいますよー(笑)。

 

 

www.youtube.com

 

発見の多い一冊に出合えますように!

 

望まない宿命と向き合う

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『祈祷師の娘』(2004年)中脇初枝著 福音館書店

 

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先日ご紹介したこちら↓

 

jidobungaku.hatenablog.com

の作者、中脇初枝さんだったら『祈祷師の娘』がいい、ときょうこさんから教えていただいて、読んでみました。

 

ああ、これもね、読めてよかった。教えてもらえてよかった。

最初は正直、地味な表紙だなあ、これだと子どもたちは手に取らないだろうなあ、って思ったんです。でもね、読み終えた後には、もうこの卯月みゆきさんによる版画の表紙絵と挿絵がぴったりで、もうこれしか考えられない!(←児童文学あるある)

 

ちなみに、ポプラ文庫からも出ています↓

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『祈祷師の娘』(2012年)中脇初枝著 ポプラ文庫

 

物語の舞台は祈祷師の家。

主人公春永(名字みたいな名前だなー)はお父さん、お母さんとも血がつながっていないというちょっと複雑な家庭なんですね。お父さんが実の母の別れた再婚相手、お母さんと呼ばれてる人とお父さんは兄妹。お姉さんにあたる和花ちゃんはお母さんの実の娘(お父さんと呼ばれてるのは伯父にあたる)。祈祷師になりたがっていない姉の和花ちゃんには霊能力があり、祈祷師をつげることに家族とのつながりを見出したい春永は、自分には霊能力がないことを悩んでいます。

 

祈祷師になる大変さが印象的ですが、ああ、これは自分が自分を、そして周りもあるがのままのその人のことを認め、受け入れていく物語なんだぁ。

 

人は努力してなれるものとなれないことがある。そして、それぞれ自分のお役目も。

嫌であろうと、それを受け入れてはじめて前進できる。

そうまとめてしまうと、とても陳腐だけれど、それを納得するのに、私たちにはこれだけの長い追体験が必要なんだな。まあ、追体験としては、祈祷師の家という環境は、世間一般とはかけ離れているかもしれない。けれど、主人公春永が抱えている複雑な思いには、みな共感できると思う。うん。

 

ちなみに夫にも勧めてみたところ、一気読みでした。これ、子ども向けなんだってびっくりしていて、ドラマ見てるみたいって。←情景がありありと思い浮かべられる物語に対していつも夫が使うテンプレートほめ言葉(笑)。

 

ところで、お祓いといえば、実は私はこういったもの苦手で好きじゃないんです。

オカルト系?単純に怖いし、なんかおどろおどろしくて趣味じゃない(←趣味の問題?)。でも、長男が荒れて荒れて手がつけられなかった頃、ひょんなことからお祓い師の方と知り合いになって。

 

私が頼ろうとしないので見るに見かねて?長男があまりにもかわいそうだから、とご好意で祓ってくれたことがあるんです。祓ったのとは違うのかな?霊が出入りする窓の役割をしている肩甲骨を閉めたらしい。その話は書くと長くなるので割愛しますが、いやあ、こういう世界ってあるんだな、って。その日から長男が落ち着いたのには驚きました。

 

そのお祓い師の人も言ってました、“疲れる”って。だから、電車とかにも乗りたくない、って。特に鎌倉はウロウロしてる霊が多くて、電車とかで小さい子にもふと憑いてたりするの見えちゃったら放っておけないから、気づかれないように祓ってしまうそう。

 

こういう世界、苦手な私でしたが、伊藤遊さんの『えんの松原』(←隠れた名作!)読んだときに、こういう怨霊が忘れられた世界のほうがこわい、のようなことが書かれていて、ハッとしたんですよね。

 

目に見えるものしか、科学的に証明できるものしか信じない世界。

それは、分断されたひんやりとした世界。

 

春永のおばあちゃんはね、いない人たちのためにたくさん座布団を敷くんです。

霊が見えないのはみな同じ。けど、その人たちのこと忘れるのと忘れないのは大きな違いだ、と言って。見えないからいないことにされてしまって、忘れられてしまう、と。

 

「けどもだれかがときどき、ほんとにときどきでいんだよ。このひとらのことを思いだしたげてみ。たとえばいま、ここに、おれらがこのひとらのためにざぶとんひいたげんだろ。そしたらこのひとらはここでやすめんだよ。」P.220

 

苦手な世界でしたが、私もいまではおばあちゃんに賛成。

 

他にも、色んな見えないものが見えてしまう我が子を受け入れられないひかるちゃんの両親や、春永を見守る血のつながらないお母さんの存在など、大人が読むと、色々とハッとさせられるところが多いです。

 

子どもはもちろん、大人にぜひ出合ってもらいたいなと思う余韻のある物語でした。

 

 

 

 

 

野生の勘を取り戻そう!

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『オオカミの旅』(2020年)ロザンヌ・パリ―作 モニカ・アルミーニョ絵 伊達淳訳 あかね書房

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来週29日(金)はウルフムーン(1月の満月)だそう。

 ということで、1月は毎年オオカミの物語が読みたくなるんです。

 

オオカミは希望ですよね!

今日の一冊ご紹介の前に、まずは、4分にまとめられた、この奇跡の動画、ぜひぜひぜひご覧ください。

オオカミが生態系を復活させるだけでなく、地形まで復活させるだなんて。ただただ驚きと感動です。人間じゃないの、環境を救ったのは。たった14匹のオオカミが壮大な仕事を成し遂げたんです。もうね、あっぱれ!↓

www.youtube.com

 

 

さて、今日の一冊は、そんなオオカミの話。実際に発信機をつけて放たれたオオカミの話をもとに書かれていて、まさに私たちの野生の感覚を呼び覚ましてくれるような物語。主人公のオオカミ、スウィフトの視点、言葉で語られます。

 

動物がしゃべる物語って個人的には苦手なんです。

でも、これは、あれ?私って、前世オオカミだったのかな?と思うくらい、彼らの感覚が肌で感じられたんですよね。

 

はじめて食べるエルクの生肉の感触、美味しさ。カエルを食べたときのしょぼさと屈辱感 ← 私、ベジタリアン寄りなのに。

 

疾走する快感、どこまでも遠く遠くへ走り続けるこの感覚 ← 私、運動会毎年徒競走ビリで走るの大っ嫌いなのに。

 

風の感覚、森のにおい ← 私、嗅覚鈍いのに(笑)。

 

洞穴の中で、守られて兄弟たちとじゃれ合い、時に喧嘩をしあいながら母オオカミと父オオカミの帰りを待っていたときの気持ち。兄弟に勝ちたい気持ち。狩りの高揚感、カラスとのチーム感。どれも、どれも、とてもリアルに自分の体験として感じられた。

 

しかしね、オオカミ側から見る人間(特に狩猟者)は、生命への尊重が感じられず、なんと野蛮なことよ、とびっくりです。それに比べて、仲間を大事にし、誇り高きオオカミ。なんと尊いことか!前世がもしオオカミだったら光栄だわー、ってくらいです。

 

でもね、いままで読んできたオオカミの物語たちが私の中に入っていなかったら、果たしてこの感覚は感じられたかどうかはちょっと自信ないです。以前、児童文学ピクニックで『オオカミ』テーマをしたことがあって、そのときにたくさんオオカミに関連する本読んだのです。何冊も読むことで、自分の中にオオカミ魂(?)が浸透していったというか……だから、テーマ本読みはホントにおススメ!深く感じ入ることができるから。

 

次回は、他のオオカミ関連の物語も紹介しますね。

 

野生の勘を取り戻そう!

 

抱きしめたらホラ、世界が平和に

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『きみはいい子』の映画版をAmazon Primeで見ました。

すごーく、よかったです!!!

 

私、実は邦画って苦手なのが多いんですよ。独特の間合いがなんか不自然に感じちゃって。それに、原作が好きなもので、映画版で満足できることってあまりなくて。

でも、この映画、びっくりするほどリアリティがあった!映画版もよかった!池脇千鶴のおばちゃんっぷりが上手すぎた!

予告編はこちら↓

www.youtube.com

 

あ~、もう予告編見るだけでまた泣けてくる。

 

原作に出合ったのは、7年前くらいでしょうか。原作はこちら↓

 

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『きみはいい子』(2012年)中脇初枝著 ポプラ社

 

第28回坪田譲治文学賞作。

長男が荒れている時期で、“きみはいい子”って思えなかったんですよね。

なんなら、“きみは悪魔かっ”くらいに思ってた(笑)。

 

だから、この背表紙を見たとき、すごく惹きつけられたんです。呼ばれたなー、って。

で、一気読み。

 

児童文学のカテゴリーではなく、一般書です。でも、テーマは児童に関すること。

児童虐待やネグレクトがテーマなので、テーマは重いのですが、最後に爽やかな風が吹き抜ける、そんな物語でした。どこの町にでもありそうなストーリーで、胸がきゅっとなります。でも、希望もあるので、最後はあたたかい気持ちにもなれる。

 

短編集で、それぞれ独立した物語なのですが、どこかでつながっていて、それもとってもよかった。ああ、人生ってこうやって、自分たちが知らないだけで色んな人と色んなところでつながってるんだなあ、って。さらっと読めますが、感慨深くなります。

 

さて、映画版に話は戻りますが、もうね、実写だと荒れてる教室での子どもたちが、本で描かれている以上にかわいくないんです(笑)。見ていて、キーってなる。学級崩壊していくさま、先生をやりこめていくさまは決してオーバーではなく、実際の光景が容易に想像できてゾッとします。思わず、自分の子どもたちがこのクラスにいないことに感謝したくらい。

 

でもね、その子たちだって、ちょっとした環境がそうさせてるだけで、根は悪くない普通の子たちなんです。それが、ちゃんと映画からも伝わってきた。うちの子だって、このクラスにいたら、加害者にならない保証なんてないよなあ、って思ってしまった。そのくらい、どこにでもある話。

 

秀逸だったのは、「家族の誰かに抱きしめられてくること」という宿題が出された、その翌日の子どもたちの反応。この宿題ね、1/2成人式みたいに親を感動させるために”やらせている”ものではなく、この先生自身の経験からきてるから説得力があった。悩んでた先生が甥っ子に抱きしめられて、そのすごさを実感して子どもたちにも味わってもらいたいと思って出した宿題なんです。

 

そして、子どもたちの反応。

な、なにこれ?私いま教室にいる?これ授業参観!?!?

そんな錯覚に陥るほどのリアリティ!照れながら話す子どもたちの、愛おしいこと、愛おしいこと。一人ひとり、もうね、ぎゅーっとしたい!!!

え?ちょっと待って?これ演技!?!?

もはや演技とは思えない。子どもたちの素の表情や反応を引き出した制作チーム、すごいな。いやあ、とってもいいものを見させていただきました。これ見るだけでも価値があると思っちゃいました。

 

その他にも、障害のある子と認知症になりかけているおばあちゃんの交流は見ているだけでも美しくて、涙が出そうだし、どのエピソードもいいんですよね。みんながみんな何かを抱えている。過剰にセンチメンタルにすることなく、加害者になってしまう側の事情にも寄り添っているから、この物語は自然体であたたかい。テーマは重いけれど。

 

世界は救えないけど、誰かを救うことはきっとできる

 

 

その通りだなあ。本、映画版ともにおススメです。

 

ちなみに、中脇初枝さんといえば、満州での苦労を描いたこちらも素晴らしいので、ぜひ!私は中脇さんと同じ年なので、同い年で経験してない戦争のことをここまでリアルに描けることにびっくりしました。↓

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本を介した人間関係って楽しい!

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『図書室のキリギリス』(2013年)竹内真作 双葉社

今日の一冊は、松林堂さんから連れ帰ったコチラ!

いやあ、松林堂さん、書店時代よりも本の数は少ないのですが、面出し(表紙が見えるように置いてある)が多いためか、どの本からも“私、面白いよ!どう?”と問いかけられているような気がして、毎回出合いが楽しみなのです。ちなみに前回ご紹介した『みかづき』も松林堂さんから。町の書店からブック居酒屋に生まれ変わった松林さんはコチラ↓

jidobungaku.hatenablog.com

 

さて、今回の物語は高校の学校司書さんのお話。

ああ、私もなりたかったなあ学校司書(書類で落とされてます)。

そんなこともあり、余計に、最初主人公の詩織が興味もないのに学校司書になったことが面白くありませんでした。どうして、熱意のある人が落とされて、興味のない人が受かるのよー!って。まあ、それは読み進めるうちに、あら詩織いいじゃない(←上から目線)に変わっていくのですが。

 

そもそも私が学校司書に憧れを持ったのは、こちらの本を読んで↓

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『自分を育てる読書のために』(2011年)脇明子・小幡章子共著 岩波書店

 

こちらは物語ではなく、中学の学校司書だった小幡さんの実録なのですが、もうね読んで泣きましたもん。ああ、こんなにも本を手渡すのって素敵な仕事なんだ、って。熱い思いがこみあげてきて、絶対私も学校司書になるー!って思って司書の資格も取ってみた。でも、やってもいないけれど、どこかで理想と現実(組織的なこと、立場的なことなどなど)に悩み辞めていく彼らと未来の自分が重なったりもしていました(結局なれなかったけど、なれたとしても多分やめてたな、と)。

 

そんなわけで、理想に燃えていた詩織の前任者の司書さんが辞めちゃった気持ちが痛いほど分かった私(←繰り返しますが、学校司書になったことはないです笑)。ものすごく感情移入して読んでました(笑)。

 

色んなテーマが盛り盛りな内容で、本に興味がある人ならとっても楽しい一冊です、これ。ちょっと謎解きからめた本の紹介も多いので、ブックガイドとしてもいいし、本での町おこしが出てきたり、詩織の前任者の永田さんが始める古本屋も面白い。また、学校司書をしてる方だったら、実際にどう手渡すかもすごく参考になるし、翻訳の面白さにまで話は広がる。ね、盛り盛りでしょ(笑)?

 

ただ、ちょっとひっかかる人も多いようで。

それが、詩織の持っているちょっとした能力に関してなのですが、詩織は、モノに触ると、そこに残っている“残像思念”を読み取ることができるんです。 

 

“残像思念”とは、常に働く力ではなく、モノに強い思いが残ってる場合、しかも自分が集中しないと読み取れないというもの。本から詩織はいろんな思いを読み取る。逆に何も感じ取れなかったら、その本は誰の心も打たなかったということ。

 

ああ、これ、なんとなく分かる。本自体が、オーラというかエネルギーみたいなのを発してるというか。そして、そういう本に呼ばれることってあるんですよね。特に言語能力が発達してない年齢の子どもにその能力が高いみたいで。文字読めないのに、そのときにぴったりの本を背表紙だけで選んできたり、というのがうちの子にもあったなあ。

 

ってな感じで、私としては、とっても自然なこととして受け止めてたら、思いのほかこの能力に引っかかって読みづらかった人が多かった模様で(苦笑)。

そうかー。私は読み取れないけど、でも、作者の、編集者さんの、そして手渡す人の思いがこもった本はなんとなく分かる気がする。そうかー、ここに引っかかるのかあ。ちょっと個人的には意外でした。どちらかというと、私は夫との関係や、前任者の不倫話の方が余計だったかな。

 

さてさて、最後にこの本の中で取り上げられる本のリストをあげておきますが、星野道夫さんの話が核になっている時点で、個人的には“おおっ!”でした。詩織はネットから偽の星野道夫さんの最後の写真と言われている写真に興味を持った大隈くんという生徒に、自分の家から『旅する木』を持ってきて渡すのです。そして、この本の成り立ちに思いをはせ、こう思うのです↓

 

大隈くんは読書の習慣がないと言っていたけれど、そういう本の繋がりだけでも知ってほしかった。ネットのネガティブな噂より、現実世界でのポジティブな思いの連鎖に目を向けてほしい。自然の中で命が繋がっていくように、人の思いも脈々と繋がっていく。そうやって生まれた本があることを、図書館を通して伝えたかった。(P.188)

 

最初は、反応が薄かった大隈くんが、どう変わっていくのか見ものですよ!

本を介して、人と人が繋がっていく喜び、ワクワク。読書って個人活動ではあるけれど、思いが繋がっていくんだなあ。

 

続編もあるそうなので、楽しみです!

  

では、最後にこの本に出てくる本のリストをあげておきますね。

 

『モーフィー時計の午前零時』

ヒカルの碁

ハリーポッターと賢者の石』

『「ハリー・ポッター」vol.1が英語で楽しく読める本』

八犬伝

忍法八犬伝

『夜のくもざる』

パン屋再襲撃

『からすのパンやさん』

オカメインコに雨坊主』

『天国はまだ遠く』

『ジャンプ』

『小さな本の数奇な運命』

『極北の動物誌』

旅をする木

ゴールデンボーイ 恐怖の四季 春夏編』

『刑務所のリタ・ヘイワ―ス』

『2分間のミステリ』

『少年探偵ブラウン』

『こちらマガーク探偵団』

『見えない犬の謎』

『The Case of the Dragon in Distress』

『本屋夜話』

『アンのゆりかご』

『トリック交響曲

『黒板五郎の流儀「北の国から」エコロジカルライフ』

マボロシの島』

爆笑問題の日本原論』

『文明の子』

『絵本マボロシの島』

『ストーリーガールPart1』

『黄金の道 ストーリーガールPart2』

 

 

 

塾なんて、って言わないで

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みかづき』(2016年)森絵都作 集英社

 

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今日の一冊は年始のお休みのときに読んだこちら!

長編でぶ厚めでしたが、一気読みでしたよ~。

 

《『みかづき』あらすじ》

「私、学校教育が太陽だとしたら、塾は月のような存在になると思うんです」
昭和36年。人生を教えることに捧げた、塾教師たちの物語が始まる。胸を打つ確かな感動。著者5年ぶり、渾身の大長編。

小学校用務員の大島吾郎は、勉強を教えていた児童の母親、赤坂千明に誘われ、ともに学習塾を立ち上げる。
女手ひとつで娘を育てる千明と結婚し、家族になった吾郎。ベビーブームと経済成長を背景に、塾も順調に成長してゆくが、予期せぬ波瀾がふたりを襲い――。

(出版社HPより転載)

 

 

2017年の本屋大賞第2位を受賞し、NHKでドラマ化して話題になった本です。

話題本ってあまり手を出さないのですが(←ひねくれ者笑)、これはちょっと読んでみたかったんです。

 

なぜって?

 

塾の歴史の物語と聞いたから。

 

“塾なんか” “塾のせいで今の子たちは時間がない”

 

そんな言葉を聞くたび反論したかったから。そんなに塾って悪い?みな必死で親は行かせたがる割に、なぜか塾についてまわるイメージはあまりよろしくない。

ちなみに身近で言ってたのはうちの夫です~。彼は良い先生に出会えなかったようで。確かにお受験系の塾の中には、質問を許さないといった塾もありますが、でも熱意があるのは確か。ひとまとめにしないでほしい。

 

私が塾に通ったのは、小学校6年生の一年間と、高校2&3年の夏季講習とちょこっとくらい。ですが、行ってた期間が短いのに、そこで得た刺激は大きく、いまだに思い出すと感慨深いのです。社会のはみだし者的な先生が多くて、すっっっごく面白かった!魅力的だった!

高校のときにちょろっと行った予備校(全国区で大手)では、平和活動をしている強烈なS先生がいて、テクニック的なことだけでなく、教科書には載ってないエピソードや社会を見せてくれた。

 

小6のときに通った個人経営の塾では、さすがにそこまで社会を見せてくれるような授業ではなかったけれど、それでも子ども心に、どうして塾の先生はこんなにも学校の先生と違うんだろう?って感じてました。

 

授業は面白いし、何よりも雰囲気が違う。みなタバコ吸ってたのも印象的だった(笑)。うちの両親は塾なんて(←ね、なんてという言葉が出てくる)行かなくていい派で、偏差値教育に疑問を持ってる人たちだったので、頼んで頼んで入塾テストを受けさせてもらった記憶。

 

でも、行き始めてからは全然悪くは言いませんでしたけどね。多分、あまりにも私が楽しそうだったから。望むがまま中学受験コースに入れてくれました。

 

その塾は個人の先生が一人で始めたのですが、駅前にビル丸々全館その塾だけで使い、分校もあって、マイクロバスでの送迎もありました。

 

この『みかづき』を読むと、それがいかにスゴイことだったのかが分かって、またまた感動してしまうのです。当時、子ども心にも、先生たちの熱意がすごく伝わってきて、学校の先生からはなぜあまり熱意が伝わらないんだろう?と不思議だったんです(学校にもいい先生はいました)。カリキュラム通り進めなくては!という制限がないのがよかったのか、塾の先生からは自由を感じたんですよね。学びの広がりを。

 

この『みかづき』は三世代に渡る物語。

物語が始まるのは昭和36年、昭和生まれの私にとっては、「え?そんな最近のこと?」というくらいの時代(笑)。この期間の日本の急激な変化、教育の変化には読んで改めて驚きました。自分が生きてる間だけでも、こんなに変化があったんだなあ、って。

 

個人的には、あれだけ反骨精神があってポリシーを持っていた千明が、方向転換してしまったことが残念で残念でたまらなかった。“生き残り”に焦点が当たると、人ってぶれるんだな、と。千明の変化は、色々とドキッとさせられ、考えさせられます。自分もそうなってないかな?って、我が身を振り返る。

 

周りの母友でも多いんです。子どもが小さかった頃は、ユニークな教育を模索したり、本来の学びをしてほしいと願っていたのに、いつの間にか中学以上になったら「全然勉強しない。成績あがらない」とそんな発言ばかり。あれ?そういう人だったっけ?って。

 

物語の中で、個人的に一番注目したのは、孫の一郎の代です(さかれているページ数は一番少ないけれど)。塾に通うお金がなくて、勉強で困っている子たち、あぶれてしまっている子たちの居場所を作るんです。もう、これ希望!もうね、読みながら、がんばれー!がんばれー!ってエール送っちゃいましたよね。

 

余談ですが、今回、読み終えてそういえば小学校のときの塾は個人経営だったから、いまどうなってるんだろう?と思い、HPをのぞいてみたんです。駅前から姿消していたので、もしかして、つぶれちゃったかな?とも思いながら。そしたらですね、移転しただけであったんです。

 

私のときは授業料が半額になる特待生コースは成績が基準で、私もその恩恵に預かったのですが、今回見てみると基準が変わっていました。成績は一切関係なし。

 

父親など家計を担う者が亡くなった場合は、学費一切免除で卒業まで面倒をみる。す、すごくないですか!?ここ読んで泣きました。

他にも、母子家庭割引、兄弟割引、経済的理由がある家庭割引まであるじゃないですか(涙)。もうね、『みかづき』読んでるから、それがいかに大変なことかが分かって、ああ、やっぱりあの塾の先生たちは素晴らしい人たちだったんだな、って。

 

子どもたちの学びに力を入れない国に未来はない、と聞きますが、ホントそうだと思う。これから、日本の教育がどうなっていくのか。いままでの経緯を『みかづき』を読んで知るのもよいかも。まずは、“塾なんか”と言いがちな夫にすすめてみようかと思います!

 

 

 

この時期だからこそ大人も読みたい絵本

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『窓をひろげて考えよう 体験!メディアリテラシー』(2017年)下村健一作 かもがわ出版

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2021年もよろしくお願いいたします!

 

本年、最初にご紹介するのはコチラ!

 

メディアリテラシーを体験できる仕掛け絵本です(物語ではないです)。

正直ちょっとお高いなあと買うには躊躇するかもしれませんが、これ、必見ですよ~。

もうね、すべての小中高学校で教材として使ってもらいたい。教科書で紹介されてはいるらしいのですが、グループで話し合ってほしい!

コロナで大騒ぎのご時世だからこそ余計に。

 

そう、2020年は、コロナ一色でしたね(そして、また今も)。

同じ状況でも、これほどまでに人によって受け取り方が違うのか、受け取り方が違うとこうも世界の見え方は変わってくるのか、ということも実感した一年でもありました。

 

”ない”ではなく、”ある”に目を向け、何気ない日常の大切さを実感して、いろんな“気づき”を得た人。どんどん幸せに豊かになっていく様子が清々しかった!

 

一方で、不安で疑心暗鬼になって、文句ばかりいって眉間に皺が寄っていった人。どうも”ない”に目を向けると、誰かを責めたくなっていく傾向にあるようです。

 

いやね、状況がいまいち見えない当初こそ、私も不安になり、政府の危機感のなさに愕然としていました。が、途中から、

 

ん?あれ、何かおかしいぞ?

 

本当のところはどうなんだろう?

 

なぜこのような印象操作をするんだろう?

 

なぜ不安ばかり煽り、適切な予防策に言及しないんだろう?

 

マスコミや政府の流す情報は本当に正確?違う視点はない?

 

一体誰がこの騒動をどう利用しようとしているんだろう?

 

と思い始め、いままで以上に報道のあり方、世界のしくみ、心の内側などを考えさせられた一年でした。

 

不安視しない=楽観視?

うーん、それとはちょっと違います。ちゃんと免疫力あげ、予防対策しています。

でもね、不安になると見えなくなるものが多すぎるから、私たち一度冷静になったほうがいいんじゃないかな、って。

 

私自身は、メディアは誰かの明確な「こう見せたい」という意図のもと作られていると思っているので、もはやあまり見ないのです。が、それでも色んな情報が飛び込んできます。だからこそ、どんな情報をも鵜呑みにせず、自分で見て聞いて考えて判断したい。それが、メディアリテラシー

 

で、こちらの絵本がそれに役立つというわけです。

 

実はこの絵本、シリアの難民の子たちの間で教材として扱った女性がいるんです。

それが、松永晴子さんという方。

彼女を特集した『情熱大陸』自体は見ていないのですが、下記記事素晴らしいので、ぜひご一読を~↓

www.mbs.jp

 

私も以前、世界で困っている人たちの助けになりたいと志していた時期もあるので(これが、ことごとく玉砕)、彼女のいう「寄り添うという言葉が大嫌い」「物のバラ撒き支援が大嫌い」という言葉にもう共感しかなくて。

 

そんな彼女が教材として使ったこの絵本によって、荒れた子どもたちにナント変化があらわれ始めたというのです!

 

置かれた状況をどういう角度で受け止めるかで、同じ状況でも見え方が変わってくる。

 

“本当にそうなのかな?”

という問いを常に頭の片隅に置くと、違う角度から物事が見えてくる。こんな時期だからこそ、私たちも色々な角度から物事を見ていきたいと思います!