Pocket Garden ~今日の一冊~

大人も読みたい、大人こそ読みたい、大人のための児童文学の世界へご案内

望まない宿命と向き合う

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『祈祷師の娘』(2004年)中脇初枝著 福音館書店

 

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先日ご紹介したこちら↓

 

jidobungaku.hatenablog.com

の作者、中脇初枝さんだったら『祈祷師の娘』がいい、ときょうこさんから教えていただいて、読んでみました。

 

ああ、これもね、読めてよかった。教えてもらえてよかった。

最初は正直、地味な表紙だなあ、これだと子どもたちは手に取らないだろうなあ、って思ったんです。でもね、読み終えた後には、もうこの卯月みゆきさんによる版画の表紙絵と挿絵がぴったりで、もうこれしか考えられない!(←児童文学あるある)

 

ちなみに、ポプラ文庫からも出ています↓

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『祈祷師の娘』(2012年)中脇初枝著 ポプラ文庫

 

物語の舞台は祈祷師の家。

主人公春永(名字みたいな名前だなー)はお父さん、お母さんとも血がつながっていないというちょっと複雑な家庭なんですね。お父さんが実の母の別れた再婚相手、お母さんと呼ばれてる人とお父さんは兄妹。お姉さんにあたる和花ちゃんはお母さんの実の娘(お父さんと呼ばれてるのは伯父にあたる)。祈祷師になりたがっていない姉の和花ちゃんには霊能力があり、祈祷師をつげることに家族とのつながりを見出したい春永は、自分には霊能力がないことを悩んでいます。

 

祈祷師になる大変さが印象的ですが、ああ、これは自分が自分を、そして周りもあるがのままのその人のことを認め、受け入れていく物語なんだぁ。

 

人は努力してなれるものとなれないことがある。そして、それぞれ自分のお役目も。

嫌であろうと、それを受け入れてはじめて前進できる。

そうまとめてしまうと、とても陳腐だけれど、それを納得するのに、私たちにはこれだけの長い追体験が必要なんだな。まあ、追体験としては、祈祷師の家という環境は、世間一般とはかけ離れているかもしれない。けれど、主人公春永が抱えている複雑な思いには、みな共感できると思う。うん。

 

ちなみに夫にも勧めてみたところ、一気読みでした。これ、子ども向けなんだってびっくりしていて、ドラマ見てるみたいって。←情景がありありと思い浮かべられる物語に対していつも夫が使うテンプレートほめ言葉(笑)。

 

ところで、お祓いといえば、実は私はこういったもの苦手で好きじゃないんです。

オカルト系?単純に怖いし、なんかおどろおどろしくて趣味じゃない(←趣味の問題?)。でも、長男が荒れて荒れて手がつけられなかった頃、ひょんなことからお祓い師の方と知り合いになって。

 

私が頼ろうとしないので見るに見かねて?長男があまりにもかわいそうだから、とご好意で祓ってくれたことがあるんです。祓ったのとは違うのかな?霊が出入りする窓の役割をしている肩甲骨を閉めたらしい。その話は書くと長くなるので割愛しますが、いやあ、こういう世界ってあるんだな、って。その日から長男が落ち着いたのには驚きました。

 

そのお祓い師の人も言ってました、“疲れる”って。だから、電車とかにも乗りたくない、って。特に鎌倉はウロウロしてる霊が多くて、電車とかで小さい子にもふと憑いてたりするの見えちゃったら放っておけないから、気づかれないように祓ってしまうそう。

 

こういう世界、苦手な私でしたが、伊藤遊さんの『えんの松原』(←隠れた名作!)読んだときに、こういう怨霊が忘れられた世界のほうがこわい、のようなことが書かれていて、ハッとしたんですよね。

 

目に見えるものしか、科学的に証明できるものしか信じない世界。

それは、分断されたひんやりとした世界。

 

春永のおばあちゃんはね、いない人たちのためにたくさん座布団を敷くんです。

霊が見えないのはみな同じ。けど、その人たちのこと忘れるのと忘れないのは大きな違いだ、と言って。見えないからいないことにされてしまって、忘れられてしまう、と。

 

「けどもだれかがときどき、ほんとにときどきでいんだよ。このひとらのことを思いだしたげてみ。たとえばいま、ここに、おれらがこのひとらのためにざぶとんひいたげんだろ。そしたらこのひとらはここでやすめんだよ。」P.220

 

苦手な世界でしたが、私もいまではおばあちゃんに賛成。

 

他にも、色んな見えないものが見えてしまう我が子を受け入れられないひかるちゃんの両親や、春永を見守る血のつながらないお母さんの存在など、大人が読むと、色々とハッとさせられるところが多いです。

 

子どもはもちろん、大人にぜひ出合ってもらいたいなと思う余韻のある物語でした。