Pocket Garden ~今日の一冊~

大人も読みたい、大人こそ読みたい、大人のための児童文学の世界へご案内

その一瞬に全人生を詰め込む

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『飛び込み台の女王』(2016年)マルティナ・ヴィルトナー著 森川弘子訳 岩波書店

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今日は更新遅くなってしまいました。

いやあ、夏休みはなかなか時間通りに書けません(苦笑)。

 

さて、今日の一冊は、スポーツに興味のない人にも響く、スポーツがテーマの物語。

 

私は、スポーツが苦手です。小さい頃からずーっと。

運動会なんてなければいいのに、って思って育ってきました。

 

だから、オリンピックに対しても興味はゼロ!

ましてや、オリンピックにまつわる諸々は吐き気がするくらい嫌で。

 

だけど、オリンピック期間って、普段は報道されないような、選手発信のほっこりエピソードもたくさん報道されて、それは素敵だなあ、って思います。

 

そんなこともどこか心にあったのか、今回なぜか惹かれたのがこちらのタイトル、『飛び込み台の女王』。ほっっっんとにスポーツに興味がないので、こちらを読むまで、お恥ずかしながら、飛び込みだけで競技があることすら知りませんでした。

 

『飛び込み台の女王』あらすじ

 

「飛び込み台の女王」カルラは,ナージャの親友にしてあこがれの選手だった.たった一度の失敗が,すべてを変えてしまうまでは――.激しい変貌をとげる十代,エリート選手として飛込競技に打ち込む二人の少女は,周囲からの期待とプレッシャーにさらされながら,かけがえのない友情を育んでいく.

ドイツ児童文学賞受賞作(出版社HPより転載)

 

 

いやあ、物語の力ってすごい。

これだけ、興味のない私をも引き込んでしまうんですから!

そんな競技の世界、ライバルとの微妙な心理の世界に身を置いたこともないはずなのに、なぜか“ああ、この気持ち知ってる”となる。

 

主人公は、女王カルラではなく、ナージャのほう。カルラは寡黙で、友だちとしては付き合いづらいけれど、ナージャとだけは親友ともちょっと違う絆で結ばれているんです。共依存ともちょっと違う。でも、お互いにとって、お互いが必要で。すごく不思議な関係。

 

そんな飛び込みの圧倒的女王カルラがね、飛び込む一瞬に全人生を詰め込む、って言うんです。ああ、そうか、才能がある人ってこういう感じなんだな。才能のある人の世界を垣間見させてもらいました!今この瞬間に全力集中。いや、集中なんて言葉じゃ足りないくらいで。まさに、”いま”、”ここ”、この瞬間を全力で生きる。

 

他を寄せ付けず、圧倒的才能があるカルラでしたが、ある日飛び込みを辞めてしまいます。そして、才能というリュックを背負うのをやめ、それをナージャに渡すんです。リュックというのは、比喩というかカルラの夢なのですが、これが現実以上に真実に迫っていて、なんだかとても納得がいってしまった。

 

派手な展開はないものの、出合えてよかったなあと思える物語でした。