Pocket Garden ~今日の一冊~

大人も読みたい、大人こそ読みたい、大人のための児童文学の世界へご案内

幼心を取り戻そう

『丘はうたう』(1981年)マインダーと・ディヤング作 脇明子訳 福音館書店

基本、毎週月曜日の19時~21時頃に投稿しています♪

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今日の一冊は、臨床心理学者の故河合隼雄さんが何かの本の中でオススメしていたコチラ。とっても、よかったです!!!

 

いつか読みたいなと思いつつ、気付けば何年もたっていました......。先延ばしにしてた理由は、表紙絵が何となく不気味で苦手だったから。絵本『かいじゅうたちのいるところ』などで有名な、あのセンダックの絵で、センダックの絵本は好きなんですけどね。

 

物語の主人公は、まだ小学校にも通っていない小さな末っ子レイ。どこまでもどこまでも一面トウモロコシ畑が広がる田舎に、家族で引っ越してきます。学校へ行くお兄ちゃんお姉ちゃんはなんだか二人で秘密を持っていて楽しそうで、レイは仲間外れ。でも、レイだってお父さんと秘密を持ちます。日曜日に教会に行く前に川に空き缶船を浮かべたり、牛に追いかけられたり。あるとき、学校ごっこを一人でしていると、丘の上に年老いた馬を見つけ……。小っちゃなレイの小さいけれど大冒険の物語。

 

そうそう、小さい頃って、一日がとっても長く感じて退屈で。でも、ごっこ遊びや小さな秘密を持ったとたん、世界はキラキラと輝きだす。端から見ると小さな小さなことだけれど、本人にとってはドキドキワクワクの大冒険にあふれてたなあ。小さい頃の色んなワクワクやドキドキがよみがえってきました。楽しかったなあ。

 

小学生中学年向きなので、大人ならあっという間に読み終わってしまいます。が、忘れていた大切な“何か”を思い出させてくれて、心が満たされていく……そんな物語です。

私自身は、こんな自然豊かな環境で育っていないにも関わらず、“ああ、そうそう!そうだったよなあ”と不思議となつかしい気持ちになるのは、きっと幼心をよく描いているからなんだろうな。

 

これぞ、THE☆児童文学。大好きでした!ああ、私には、最近こういう物語を読むのに欠けていたのか。心洗われて、なんだか胸いっぱいです。いわゆる、泣ける話とは違うのに、じんわりと涙がでてきてしまうんです。レイが小さな胸で、いっぱいいっぱい不安になり、悲しみ、喜び、考えたのかと思うと、愛おしさで泣けてくる。

 

またねえ、お父さんとお母さんも素敵なんですよ、これが。

少年の心を持ったままのお父さん(このタイプはきっと妻泣かせ笑)。

普段は家事に忙しいけれど、かんじんなときは、ちゃあんと心に寄り添ってくれて、ほしい言葉をかけてくれるお母さん。

なんて、素敵なんだろう!余裕がなくて、いいお母さんじゃなかった私、子育てやり直したい(涙)。お母さんとのやりとりの中から、一つだけご紹介させてください。

 

とにかくネズミをこわがるお母さん(分かる、私はGがムリ)。そのお母さんに、あるときレイがクリッククロックの四角(結界のような、おまじないのようなもの)を地面に描いてあげるんですね。そこにいれば安心だから、と。でも、ただの四角ですから、危害を加える動物は入ってこれるし、当然お母さんはあまりクリッククロックをあてにしてほしくない、と心配になります。牛なんかが来たら、当然逃げるというレイの答えを聞いて、お母さんは安心してこう語りかけるんです。

 

あんたが安心だと思いこんで、すわってるようなことがないかどうか、ちゃんと知っておきたかったの。それに、どうやら母さんにもわかってきたわ。四角をかくっていうのは、その中に隠れるってことじゃないのね。逆にこわさをしめだすんだわ。四角の中へはいれないのは、こわさなのよ!そうじゃない? (P.95)

 

自分が言語化できなかったことを、お母さんが言ってくれてびっくりするレイ。そんなの迷信よ!と笑ったり、ただ心配するんじゃない。子どもに寄り添うからこそ見えてくる母の気付き。ああ、いいなあ。

 

人の善を信じたいとき

純粋な幼心にふれて、心洗われたいとき

あたたかい気持ちになりたいとき

 

『丘はうたう』をどうぞ。福音館書店の”世界傑作童話シリーズ”の一つ(残念ながら品切れ)で、ホントに隠れた傑作でした!