Pocket Garden ~今日の一冊~

大人も読みたい、大人こそ読みたい、大人のための児童文学の世界へご案内

ちょっと引いてしまった物語......その理由は

『鐘は歌う』(2018年)アンナ・スメイル著 山田順子訳 東京創元社

 

※ 毎週月曜と金曜の週2回更新 → 月曜日の週1更新に変更

 Facebook『大人の児童文学』ページもよかったら♪

ひっそりInstagramも気まぐれ更新

 

今日の一冊はコチラ。

映画の予告編を見ると、次々と他の映画も観たくなるように、本も後のほうに同じ出版社から出ている他の物語の紹介が書かれてることってありますよね。あれ見ると次々と読みたくなっちゃう。というわけで、そんな予告編を見てしまったがために読んでみた『鐘は歌う』。

 

『鐘は歌う』あらすじ

ロンドン塔からレイヴンが消え、橋という橋は落ち、ロンドンは瓦礫の街と化した。文字による記録は失われ、新たな支配者〈オーダー〉は鐘の音で人々を支配している。両親を亡くした少年サイモンは、母が遺したひとつの名前と、ひとつのメロディを胸に、住み慣れた農場を離れ、ロンドンに向かった。そこで彼は、奇妙な白い眼を持つ少年リューシャンに出会う。世界幻想文学賞賞受賞、ブッカー賞候補にも挙がった幻想文学の名作登場!(出版社HPより転載)

 

おお、なんとも興味深いあらすじではないですか。表紙絵も好き。さらに賞も受賞しているのね、ふむふむ。これは、期待大!

 

読みながら、そして読み終えての感想……「長かったー!」(笑)。

これは、ディストピア小説っていうのかしら。ちょっと苦手......かも。

 

訳者の方もあとがきに書かれていますが、色々と事態を理解していない主人公の一人称ですすむので、読者にも「はてな?」がいっぱい。分からないまま、読み進めるのって、こんなにモヤモヤするものなのですねー。その「はてな?」の期間が長すぎるのですよ(笑)。でも、よくまあ、こんな世界観創り出したなあ、とそこは感心ひとしきり。

 

ここから先はネタバレも含むので、内容分かっても別に構わないという方だけ、お読みください。いわゆる謎解きとはちょっと違うけれど、自分で謎が解けていくさまを体験したい方はここまでで。

 

さらに、ちょっとネガティブな内容になるかもしれないので、あんまりそういうの読みたくないわー、という方もここまでで。

 

********

 

 

文字による記録が失われ、音による支配というのは面白いなあ、と思いました。美しいんです。邪悪というよりも、調和の世界。調和であろうとなんであろうと、それをもって「支配」しようとすると何かがおかしくなっていくんでしょうね。

 

個人的に苦手だったのは、突如のBL(ボーイズラブ)展開の部分。なぜ?急に???

いやね、LGBT関連が出てくる児童文学でいままで、なんか嫌と感じることってなかったのですよ。児童文学じゃないけれど、『昨日、何食べた』とかも大好きだし、知り合いにも何人かいるし。でも、今回はなんか引いてしまったのです。なんでだろう?

あ、思い出しました!実はこのときも嫌悪感覚えました↓

jidobungaku.hatenablog.com

 

こちらは児童文学ではなかったので、ま、そういうのもあるよね、と流せたのですが、今回は児童文学だと思って読んだから違和感だったのか?

 

美少年同士の美しい恋、なんだか鑑賞物のように消費されてしまった感じがしてしまったのです。別にそんな細かな描写があるわけじゃなかったけれど、そんな風に感じてしまった。作者にはそんな意図はなかったと思いたいけれど。作者は詩人と知って、ちょっと納得。

 

もう一つ。

生まれながらに才能を期待された兄とは違い、両親から期待されずに育った妹。この妹が犠牲になるのが美談のようになるのが、もうそういう時代じゃないのになあ、って思ってしまった。誰かが犠牲になって、世界が救われることが、もういいとは私は思えない。しかも、残るのは愛され才能のある方。なんだかなあ。でも、逆に才能があるほうが犠牲になったらなったで、やっぱりモヤモヤするから、誰が犠牲になるのもいやってことなんだな。そういう意味では、アニメだけど新海誠監督の『天気の子』は新しかったなあ。

 

あ、そっか。これは児童文学じゃなかったんだ。ジャンル分けなんてナンセンス、と思うことも多いけれど、児童文学じゃないと思ったら、ちょっと納得がいきました。

 

とにかく長く感じたし、じゃあ、読まなきゃよかった?と問われると、そんなこともなく。“記憶”や“言葉”について考えさせられる、良いきっかけとなりました。長いの平気、という方はぜひ。