Pocket Garden ~今日の一冊~

大人も読みたい、大人こそ読みたい、大人のための児童文学の世界へご案内

飛び出せ!環境を変えよう!

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『はみだしインディアンのホントにホントの物語』(2010年)シャーマン・アレクシー作 さくまゆみこ訳 小学館

※毎週月曜・金曜の19時~21時の間に更新中!

(できるだけ19時ジャスト更新!ムリだったら、21時までに更新笑)

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今日の一冊は、ずっと読みたいリストに入れてあって、やーっと読めたコチラ!さくまゆみこさんの訳されるものも、ハズレなし!です。

 

ああ、これはもう思春期男子たちに差し出したい!もちろん女子にもなのですが、下ネタがちょいちょい入ってて男子が喜びそう(←そこ!?笑)だし、さくさく読めちゃうから、本好きじゃない子でも読めそう。

 

 

■深刻な状況でも軽やかに生きられる

 

内容は、ざっくりいうと、北米先住民スポケーン族の保留地に住む14歳の少年アーノルド(ジュニア)が、先生のすすめもあり、エリートの白人だらけのリアダン校に転校することによって、さまざまな発見と成長をする物語です。保留地でも、もともとイジメられていたのが、ますます孤独感や疎外感を感じていくことに……。

 

わ、重たい!と思うでしょう?

ええ、内容はすごく重たいし、びっくりするくらい悲惨なことが次々に起こります。両親はアル中だし、お姉ちゃんは引きこもり、親友は親から虐待されてるし、自分自身のイジメに加え、次々と起こる死……。

 

ところが、ですよ。主人公の一人称語りの文体がものすごく軽くてユーモラスなんです。挿絵もポップで、現代っ子たちが好きそうな感じ。もし、私が主人公と同じ状況にいたら、絶対誰かを恨んじゃう(断言)。誰かを恨んで当然のような仕打ちばかり受けているのに、この主人公は実に軽やかなんです。

 

もちろん、何も感じてないわけじゃないんです。怒るし、つらいときは号泣します。でも、悲劇のヒーローに陥ってない。運命にチャレンジしつつも、変えられないと思うところは受け入れているんだなあ。

 

ちょっと変わった物語。

 

日本の現代っこたちとは、あまりにも違う環境なのですが、それでも彼の悩みは普遍的なんです。だから、もう共感しまくりで、力をもらえる。作者の自伝的要素満載(78%が事実だそう)で、主人公が等身大で語っているから、説教臭くないのもいい(←ココ重要)。

 

■ブーイングが出た理由とは

 

ところで、この物語、実は賛否両論だったようです。

インディアン保留地(居留地)と聞いたら、みなさんは、どんなイメージを持ちますか?今でこそ、自治権を認められていたりする地域もあるけれど、彼らが入れられた当初は、白人同化政策が取られていました。まさに負の歴史。

 

白人が彼らから奪ったものとは???

単に土地だけじゃないんです。故郷、文化、アイデンティティ、世界観、誇り、希望、すべてを奪った。白人にとっては、単なる土地だったかもしれないけれど、彼らにとっては母なる大地。それを切り売りするなんて考えられなかった。

 

そして、悲しいかな、いまも彼らのほとんどがアル中です。いつだって暴力沙汰を起こしているか、もしくは怠け者のレッテルを貼られています。保留地での暮らしは、問題だらけ。でも、なぜそうなってしまったのか、そこが大事で。これ、白人同化政策を取られた、世界中の先住民族に共通しているんですよね。

 

そんなわけで?この物語は、一部からブーイングが出ています。

なんと!全米図書館協会が過去10年(2010年~2019年)に抗議が多かった本トップ100を集計して発表した中で、こちらが堂々の1位だったというではありませんか↓

https://www.ala.org/advocacy/bbooks/frequentlychallengedbooks/decade2019

 

え、なんで!?!?抗議してる人たち、ちゃんと読んだ???

最初は驚きましたが、まさにこの結果が、いまだ彼らがきちんと理解されてないことをあらわしているような気がしてなりません。

抗議側の理由としては、性的な話やアルコール依存、暴力描写が出てくるから子どもにふさわしくない、という主張らしいのですが。いやいや、世の中もっとひどいものであふれてますよ?この物語の中では、確かにそういったものも出てくるけれど、それらはさらっと書かれていて、これでもかこれでもかとえぐるような表現はないのになあ。それに保留地の話はアルコール依存とは切っても切り離せない現実。現実見なくてどうするんだ。

 

主人公の両親もアルコール依存症です。でもね、しらふの時は素敵だし、彼らなりに子どもたちをしっかり愛してる。ダメな大人たちもたくさん出てくるけれど、みんな愛おしい。

 

■環境を変えろ!飛び出せ!

 

読めば、きっとそれぞれに響く箇所があることでしょう。書き留めておきたい言葉もいっぱい。印象的なところはたくさんあるけれど、この物語が一番伝えてくれていることは、痛みは伴うかもしれないけれど、希望が見えなかったら飛び出せ!ってことなんだと私は思いました。

 

主人公はホントに辛かったと思う。どっちつかずなんですよ。白人社会にもなじめず、保留地のみなからは裏切り者とみなされ。原題はThe Absolutely True Diary of a Part-Time Indianですからね。フルタイムじゃなく、パートタイムのインディアン……。

 

一番最初に、主人公に環境を飛び出すことをすすめてくれたP先生との会話は泣きました。

 

「きみは、いい子だよ。世界を手に入れて当然なんだ」(P.64)

 

これはね、もうすべての子どもに聞かせたい言葉。

あきらめちゃいけない。

 

でも、希望が見えなかったら……?

環境を変えたらいい。

裏切り者と思われるかもしれない。新天地でも孤独になるかもしれないし、もっとつらい思いをするかもしない。でも、いまいる場所で希望が見えなかったら、やっぱり飛び出して、何か一歩でも踏み出してみるしかないんだ。

 

で、ふと思ったんです。不登校の子たちもそうなのかもな、って。

希望が見えなくて、学校へ行くことをやめてみた。けど、やめた世界も決して楽園ではなくて。これでよかったのかな?って迷うかもしれない。でも、一歩踏み出した。飛び出した。すぐには道は開けないかもしれないけれど、もう元に戻ることは考えなくていいんじゃないかな、って。だって、そこには希望がないわけだから。

そして、外に出たからこそ、外から見るからこそ見えてくる元いた場所の良さも分かってくる。かといって、戻りはしないのだけれど。

 

原書買っちゃおうかな、と迷うくらい好きな物語となりました。