Pocket Garden ~今日の一冊~

大人も読みたい、大人こそ読みたい、大人のための児童文学の世界へご案内

あなたはどんな結末にする?

『わたしの名前はオクトーバー』(2024年)カチャ・ベーレン作 こだまともこ訳 評論社

基本、毎週月曜日の19時~21時頃に投稿しています♪

Facebook『大人の児童文学』ページもよかったら

きまぐれ更新Instagramでは、児童文学以外の本などを紹介中

 

明日から10月ですね。え!?今年ももうあと3ヶ月!?!?

昨年はほぼ秋を感じないまま、夏から冬になってしまったので、今年は秋の訪れを少しずつ感じられてホッとしています。一年の中で秋が一番好きなんです。

 

というわけで、今日の一冊は、タイトルにOctober(10月)がつくコチラ。

 

父親と二人、森の中で半分自給自足の生活をしてきた少女オクトーバー。自分たちが「野生」であることに誇りを持ち、巣から落ちたメンフクロウの赤ちゃんを大切に育てていた。が、11歳の誕生日に転機が訪れる。父親が大怪我を負って入院し、「母親とかいうひと」と都会で暮らすことになったのだ。フクロウも保護センターに預けなければならない。都会の暮らしに全力で反抗するオクトーバー。その中で、友だちと呼べる子に出会ったり、ロンドンでも「自然」を感じられるテムズ川に癒されたり、徐々に心がほどけていく。揺れる少女の心理が詩のような文章で繊細につづられる、2022年のカーネギー賞受賞作。(出版社HPより転載)

 

もうね森の中で暮らしている、っていうだけで森の物語好きなので飛びつきました(笑)。

物語は、主人公の一人称語りで進んでいくのですが、個人的には詩のような文章が最初は少し読みづらかったです。さらに、この少女オクトーバーが、なかなか強烈な子なものだから、感情移入や共感はできなくて。ただ、だんだんと、“ほう、オクトーバーには世界がこう見えるのか”ということが興味深くなってくるんです。オクトーバー自身の語りで綴られているせいもあり、両親側が何を考えているのかもいまいちよく見えてこない。でも、ああ、こういう風にオクトーバーには遠くで会話しているように聞こえるのか、など彼女の世界を見せてもらえて、不思議な感覚に包まれる新鮮な読書体験でした。

 

詩のような文章とは、例えばこんな感じ

 

フクロウに名前をつけるとき、色々考えてもストン、ストンと名前は落ち続ける。

スティッグ、という名前を思いついたとき、名前がひらりと舞い上がる。 

 

ところで、素敵なのは、オクトーバーはたくさんの物語を読んで育っていて、自分自身も物語を作り出せるというところなんです。石や指輪を拾っては、その物語を編み出す。私もそういう拾いもの見つけると、そのものが辿ってきた物語に思いを馳せるので、ここはすごく親近感。

 

一方でオクトーバーはとっても癇癪持ちでもあり、言葉で表現できないと暴れたり、破壊行動に出る。とてもやっかいなんです。でも、母親とかいう人は娘を置いて過去に出て行った自責の念もあるのか、叫んだりもせず落ち着いているんですね。このお母さん、私はなかなか好きでした。

 

“ここには、生きているものが、なんにもない”

 

都会暮らしをそう感じて、まさに都会生活で夢遊病になったアルプスの少女ハイジ状態のオクーバーでしたが、やっと息ができる場所に出会います。それがテムズ川。そこで小さい頃のように宝物を探す。そうすると迷路のような町にいたら失くしてしまう野生と自由を手に入れることができる、とオクトーバーはイキイキとしてくるんです。

 

見つけてもらうのをじっと待っている宝物たち。話してもらいたいと待っている物語。

 

このようにテムズ川で宝探しをする子どもたちを“泥ヒバリ”といって、それになるには許可書が必要なんだそう。そして、見つけたものが歴史的な重要なものだったらロンドンのものになるんだそうです。当然、オクトーバーは納得がいきませんが、泥ヒバリ協会児童部の係の人ケイトさんの説明が素敵。

 

テムズ川は、波に乗せて秘密を運んできます。

テムズ川は、波に乗せて秘密を運びさっていきます。

満ち潮も引き潮も、そのたびにちがう物語を話してくれます。

一日に二回テムズ川の潮は引いて、なにか新しいものを見せてくれます。(P192)

 

納得のいかない都会暮らしで、全力抵抗のオクトーバーでしたが、友情や色んな人との出会いを通してじょじょに成長していき、自分を客観的に見れるようになってきます。しかし、最後のほうで、ケイトさんが見つけた宝物に対して、衝動的にひどいことをしてしまうのです。なぜそんなことをしたのか、と叱り飛ばす前にちゃんとオクトーバーのあふれる思いを聞いてくれるケイトさんが、大人として素敵。そして、思いを聞いたあとに、ケイトさんがオクトーバーにかける言葉が素晴らしいかったなあ。

 

なにもかも、ちゃんとした場所にあるとはかぎらない。それに、どんなお話も完璧な終わりかたをするとはかぎらないよね。だけど、どんな結末になるかは、あなたにまかされてるって思わない?(P.226

 

うーん、この言葉だけ読んでも、“まあ、そうですよね”、としか感じないかもしれません。でもね、200ページ以上オクトーバーの言葉で、彼女の思いを追体験してからこの言葉を読むとグっとくるのです。あらすじや抜き出した言葉だけで伝わらるなら、物語いらないですもんね(笑)。

 

人間だけの世界は息苦しい。都会生活はどこかゆがんでいるのは確かだし、自然は色んなことを教えてくれる。それでもね、やっぱり人は人と出会ってこそ変わり、成長していくんだなあ、と痛感しました。”野生”についても考えさせてくれる物語です。

よかったら。