Pocket Garden ~今日の一冊~

大人も読みたい、大人こそ読みたい、大人のための児童文学の世界へご案内

疲れているときこそ、ただただ楽しい物語を!

『ふくろ小路一番地』(1957年)イーヴ・ガーネット作 石井桃子訳 岩波少年文庫

ここのところ、どよーんとするようなやらなければいけないことが立て込んでまして。それは今週、来週も続くので、ともすると気分も体調も落ちがち。

 

心がくさくさしてきて、飲まなきゃやってらんない!と飲む量が増えていき……なーんて、やってらんないを言い訳にただ単に飲みたいだけ説もありますが(笑)。物理的にそう忙しいわけでもないのに、気持ち的に追い詰められ常に疲れている、そんな日々を送っています。

 

そんなときは、考えさせられるような重いテーマではなく、ただただ楽しくて幸せな気分に浸れる本が読みたいんですよね。

 

というわけで、今日の一冊はTHE☆児童文学王道の『ふくろ小路一番地』!

ずっと目にはしていたけれど、なんとなく後回しにして読んでいなかった本。こちらの中島京子さんのブックガイドを読んで手に取りました。↓

jidobungaku.hatenablog.com

大家族もの、大好きです。

ラッグルス一家の子どもは7人!お父さんは、ゴミ回収のお仕事。お母さんは洗濯屋さんで大忙し。貧しいのに全く悲壮感がないのがいいんですよねえ。なんと、まあ、みんなイキイキとしてること。いろいろ小さな事件は起こるけれど、ドタバタで楽しい!

 

この本以前には、イギリスの労働者階級を描いた物語がなかったこともあり、当初は物議を醸しだしたそうです。でも、出してみたら大人気(そりゃ、そうでしょう。だって面白いもの)。当時のイギリスでは、身分が下層の子どもたちが主人公で描かれてることは画期的。自分たちもお話の主人公になれるんだ!とどれだけ多くの子どもたちに光を灯したことでしょう。

 

労働者階級なので、決してしゃべり方に品があるわけでも、教養があるわけでもありません。下町の肝っ玉母ちゃんですから。例えば、長女のリリー・ローズがガールスカウトの一日一善をしようとお金持ちのビーズリーおくさまの人絹(ってなんだ?と思ったらレーヨンのことでした)ペチコートにアイロンをかけて、縮ませてしまったときのこと。“あなたは、一善しようとしたのよね”のように、母ちゃんは子どもの心に寄り添うことなんて一切なくて、こてんぱあにわめいて叱る。

 

結構ヒドイけれど、ここ読んでホッとする母たちも多いのではないでしょうか(笑)。たとえ善意からでも、人さまに迷惑をかけてしまったときは、親はこれくらいでもいいのかもしれません。親がこれくらいカンカンだからこそ、ビーズリーおくさまも寛大でいられるというもの。今の親は「うちの子は悪くありません」が多いですもんね。叱る人、寄り添ってくれる人、色んな大人がいてそれぞれの役割がある。このバランスがいいんだなあ。

 

貧しいからかわいそう?お金持ちは貧しい人に偏見がある?いいえ。この物語はそんなところがないから、おおらかで読んでいて気持ちがいい!

 

ラッグルズ氏が大金を拾っても警察に届け、お礼がきたら当たり前のようにゴミ回収の相方にも分けようとする話もよかったなあ。こういうエピソードは、権利主張があふれてる今の世の中ではなかなかないこと。貧しくても、教養がなくても、言葉遣いに品がなくても、人として真正直なんです。

 

下町の活気に元気をもらいたいとき、小さな日常の冒険に心躍らせたいとき、子どもにはもちろん疲れている大人にもおススメの一冊です。