Pocket Garden ~今日の一冊~

大人も読みたい、大人こそ読みたい、大人のための児童文学の世界へご案内

世界は素敵、と思い直す

f:id:matushino:20210808121017j:plain

『指ぬきの夏』(2009年)エリザベス・エンライト著 谷口由美子訳 岩波少年文庫

※毎週月曜・金曜の19時~21時の間に更新中!

(できるだけ19時ジャスト更新!ムリだったら、21時までに更新笑)

 Facebook『大人の児童文学』ページもよかったら♪

 

今日の一冊は、思春期母・暗黒期モードに陥りそうになった私を浮上させてくれたコチラ!

 

暗黒期モードのきっかけは、高1長男と中1次男の取っ組み合いのケンカ(涙)。

我が家では、いままで長男が暴君として君臨していて、次男が長男がこわくて反抗できなかったんです。ところが、もう次男も中学生。黙ってはいない。今回は次男が抵抗して、兄へ蹴りを入れたことからの、取っ組み合い。

 

び、びっくりした。この夏は、特に兄弟仲が良かったから。青天の霹靂って感じでした。長男は冷静で、殴ったりしてたわけではなく、実は暴れる次男を抑え込んだだけ(あ、でも言葉ではかなりお互いを煽ってた)だったのだけれど、長男が荒れに荒れていた過去の時期のトラウマがよみがえって、こわくなってしまったんです。身体も私よりももう大きいし。多分、次男も同じで、悔しさと恐怖から過呼吸になってしまい、痙攣し始めたから、もう心配で泣いた。その後、二人はケロっとしてたけど、私はまた悪夢の日々が始まるのでは……という心配モードに陥りそうになったんですね。心が疑心暗鬼一直線になりかけてた。

 

そんな、私を浮上させてくれたのが、今日の一冊です。

 

あーん、もうほっとする世界。THE☆児童文学の良書。

そうよ、そうよ、世界って悪くない、世界は素敵、っていう思いがこみあげてきて、私も普通モードに戻れました。なんか特に理由はないけど、幸せ。人生、楽しまなくっちゃモードへリセット。

 

先日、いい物語って?というテーマでも書いたのですが、こういうとき、自分を救ってくれる物語って、必ずしも直接的に自分の問題と重なってたり、答えをくれるようなものじゃないことも↓

jidobungaku.hatenablog.com

 

他の思春期男子に悩んでる母たちに、この物語が“効く”とは思えませんが、私にとっては、すっと自分を素敵な世界に連れ戻してくれた、魔法のような物語でした。再読だったけれど、このタイミングで読み返していたのも、何かの縁かと。

 

古き良きアメリカの田舎の物語です。

善人しか出てこなくてほっとするー。

 

主人公のガーネットが、川で銀の指ぬきを見つけたことから、魔法のような日々が始まるのですが、いわゆるファンタジー的な魔法じゃないんです。日常の中のちょっとしたキラメキ、でもよく考えると奇跡のようなことの連続。派手な展開に慣れてる子には、地味にうつるかもしれません。でも、私はワクワクがとまらなかった!

 

例えばね、友だちのシトロネーラの家の台所には、ケーキいれにチョコレートケーキがあり、陶器のつぼには糖蜜クッキーがいつだってあるんです。美味しいものは、必須。それだけで、ワクワクがとまらない(笑)!

 

そんなシトロネーラは、ひいおばあちゃんの昔の話を聞くのが大好きなのです。もう、同じ話を何回も聞いていて、結末だって知ってるのに、はなしてとねだる。そして、ガーネットにしみじみとこう言うのです。「ひいおばあちゃんって、すてきだよ」いっぱい話をしてくれる、と。いや、シトロネーラ、素敵なのは、あなたもだってば。ほわーんと、あたたかいものが心の中に流れてきて、すさみそうになった、私の心が、なんか浄化されていきました。

 

好きな場面もいっぱい。

ずっと日照り続きで、農家の両親は頭を抱え込んでいるのですが、あるとき大雨が降るんですね(そう、あの魔法の指ぬきを見つけた後に)。そのとき、ガーネットと兄のエリックは、ワァワァわめきちらしながら、動物みたいに庭じゅうを走り回るんです。坂をかけおり、菜園を走り回り、すべってころんで、キャベツを飛び越え……。コマンチ・インディアンの雨のダンスをまねながら。

心だけで喜ぶんじゃなくて、全身で喜ぶ。すると、不思議。私の中にも、大雨によってできた濁流のように、喜びが流れ込んでくるんです。喜びと濁流は似つかわしくない?でも、そんな感じ。

 

また、母として、こうありたいなあというところも。

ある日、突然現れた流れ者の少年エリックが、手伝い要員として、家族の一員になることになったんですね。いきなり見知らぬ少年を家族が連れ帰ってきて、当然お母さんはその子が誰なのかを聞きます。そこからの会話をご覧ください↓

 

「新しい家族のひとりなの。名前はエリック。きのう真夜中にあらわれたの」

 

こんなことではびくつきもしない三人の子持ちの母さん。

 

「おはいりなさい。朝食はホットケーキよ。食べてるあいだに、いろいろ話を聞かせてね」

 

ガーネットはこう思うのです。

「すてきな母さん。うちの家族って、すてき」

こんなすてきな家族のひとりだと思うと、それだけで安心して、あったかい気もちになりました。(P.100)

 

いきなり、”新しい家族のひとりなの”って(笑)。それでも、びくつきもしないお母さん。私もこんなお母さんになりたい。

 

いやいや、人生ってそんなきれいごとばかりじゃないよ、って思うかもしれません。

ガーネットがすねて、プチ家出をしたり、エリックがきてから今まで自分と仲の良かった兄のジェイがよそよそしくなったり、そんなことも描かれます。でも、基本なんていうのか、世界に対する大きな信頼が根底に流れているんですよね。疑心暗鬼になりそうになってた私には、まさにこういう物語が必要でした。だから、児童文学って好き。

 

兄弟間の物語だったら、同じ作者のこちらもおススメです!↓

f:id:matushino:20210808121522j:plain

『土曜日はお楽しみ』(2010年)エリザベス・エンライト著 谷口由美子訳 岩波少年文庫