Pocket Garden ~今日の一冊~

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この夏、あなたも川のとりこになる

『ほとばしる夏』(2008年)J.L.コンリー作 尾崎愛子訳 福音館書店

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今日の一冊は夏に読みたいコチラ!

なんか、夏っぽいものが読みたい、そう思ってあらすじとかも全く知らないまま借りてみたら、思いのほかよかった。思いのほかよかったときって、なんてラッキーなんだろう!って嬉しくなる。

 

『ほとばしる夏』あらすじ

ある日突然、父親が失踪してしまったアレン家の母子は、噂話から逃れ、母親がより良い収入を得るために、田舎から都市部へと引っ越す。しかし、ベットタウンに馴染めない姉弟は、偶然見つけた渓谷の丸木小屋でひと夏を過ごすことに。なぞの森林管理官との出会いを通じて、ますます川の魅力のとりこになった姉弟は、かけがえのない夏を過ごす。

 

これは、“家族の崩壊”物語でもあり、少女少年の“成長物語”でもあり、“自然賛歌”でもあり……さまざまなテーマが入り組んでいる物語。一つのテーマに絞りきれないこういう物語が好き。だって、実際の人生は一つのテーマになんて絞り切れないから。読む人によって、響くところが違うような物語が好きなんだなあ。

 

不穏な始まり方で、最初はちょっとわけが分からず、読みづらいです。でも、途中から一気に引き込まれます。姉弟の心情に、大人たちの事情に、自然の豊かさに。

 

子どもが読めば、純粋に自然の中での遊びが羨ましいと思うかもしれない。あるいは、思春期の複雑な心情に共感するのかも。

大人読むとですね、さまざまなところが刺さるんだなあ、これが。

 

経済的余裕や経済的自立ってやっぱり大事よね、とか、田舎と都会の教育格差とか、いくつになっても夢を追いかけることの大切さとわがままの違いとか。個人的には、いくつになっても遅すぎるということはないし、夢は追いかけたいと思っています。でも、これだけ子どもたちを傷つけるのならば、そのやり方はやっぱり制限されるよなあ、と。だからこそ!!!!若いうちから自分の望みを押し込めることなく、好きなように生きることの大切さも感じます。

 

もう一つ、大人が読むとなんだかグッときてしまうのが、不器用な生き方しかできなかった森林管理官(レンジャー)のヘンリーなんです。偏屈で、人嫌いで、自然しか愛せないとにかく不器用な人物。「マスを食うと野生が乗り移る」「川が、骨の髄までしみ通るんだ」という言葉は印象的だったなあ。

 

ヘンリーはカヌーの名手で、川で死にそうな目にあったとき、これからは人にやさしく生きると誓い、一年くらいトライしてみるんですね。でも、きつくて人への思いをあきらめてしまうのです。優しくしたくても、どうしたら優しくなれるのかがもはや分からない。そんな偏屈ヘンリーでも、誰かに受け継ぎたかったんだなあ。川への愛情だけは人一倍だったヘンリーのこと、子どもってよく見ています。かといって、変に彼をあがめるでもなく、人としてダメなところは冷静に見ている主人公のシャーナも好き。ああ、人間ってなんて愛おしいんだろう、醜い部分も含めて、ってしみじみ思う。

 

そして、アルゴンキン族。彼らの足跡しか登場しないのになんたる存在感!

人生には何度か、贈り物のような瞬間がある、とシャーナの祖父が言っていたのだけれど、ホントそう。そして、それらは持ち帰れないものなんですよね。シャーナにとっては、蜘蛛の巣にびっしりとついた美しい朝露だったり、ヘンリーが見せてくれたマスの思い出だったり。私にもあるけれど、内緒。この物語を通じて、リアナ川の神聖なものを垣間見させてもらって、体験させてもらって、もはやリアナ川は私にとっても思い入れの深いものとなってしまいました。思わず、古書をポチっ。

 

何のこっちゃあ、分からない???

ふふ、読んでのお楽しみですよ。

ラストの川下りの場面は圧倒されますよ!

いやあ、母親目線で読むと、心配でいてもたってもいられない夏ですけどね。嘘ついて信頼は裏切るし、身体的にも危険極まりないし......でも、こういうリスクと隣り合わせでしかできない成長ってあるからなあ。

 

実際に自然の中へ出かけられたらそれが一番だけれど、そうも行かない方には読書で追体験がおすすめ。この夏の一冊にいかがでしょう?