今日の一冊は、児童文学ではなくノンフィクションから。
昨日は、国連が制定した「貧困撲滅のための国際デー」だったそうです。
今、日本の7人に1人の子どもが貧困と言われているのですが、個人的には正直なところあまり実感がわかなかったんです。周りにいないから。
7人に1人って......!!!どこか他人事のように思ってしまう自分がいるのも否めませんでした。いや、理解しなくちゃとは思うけれど、すぐに忘れてしまうというか。それが、所詮他人事ということなのかもしれませんが。
ブレイディみかこさんは、イギリス在住の保育士ライターさんなのですが、こんなに分かりやすい言葉で現場からの声を伝えてくれる人はいないんじゃないか、ってくらい分かりやすい!一人一人の登場人物がイキイキとしてるから、多くの人の心に響くんだろうなあ。ブレイディみかこさんの目を通してみた世、伝えてくれる世界を知ると他人事とは思えなくなるのです。
以前ご紹介したコチラもよかった↓
■政治の影響は社会の底辺に
政治が大事だとは子どもを産んでから、やっと思うようにはなりました。けれど、それでも政治と生活が結びついているという実感は、あまり持てなかったというのが正直なところ。それが日本人が今の政治に危機感を持たない理由でもある気がします。影響をあまり感じない。
でもね、この本読むと、政治がいかに生活に影響を及ぼしていくかが手にとるように分かるんです。21世紀の英国はブロークン・ブリテンと呼ばれたそうなのですが、2016年にはいきなりヴィクトリア朝時代になっていた。ええええ、逆行!?
政治の変化の影響は、社会の最も低いところを見るとよく分かる、と底辺託児所で働いていたとみかこさんは語ります。そして、今の日本がその英国の姿の後追いをしているようでゾッとするのです。英国のような未来が目に浮かんでしまう。
■貧困は自己責任なのか
さて、貧困。私は小学4年生のとき、新宿の高田馬場に住んでいたことがあるのですが、そこには日雇い所があったため浮浪者のおじさんたちでいっぱい。すれ違うときね、直視できないくらい垢だらけなんです。昼から駅構内に座り込んで飲んでるおじさんは、ビール缶投げつけてきたりも。
お金めぐんでくれと言ってくる人もいました。そのときね、ある人がこう言ったんです。
「あの人たちは、働けるのに働かないのよ。だから恵まなくてもいい」
って。自己責任。そうなのかな?でも、確かに昼からビール飲むお金はあるんだ、とは思った記憶。
今回の台風で、路上生活者の人たちが避難所に入ることを拒否されたというニュースには憤りを感じるとともに、でも自分には憤る権利あるのかな?ととても複雑な気持ちになりました。批判するのは簡単だけれど、それを解決するために果たして自分は何か行動しているのか。
酒浸りになるおじさんたちについては、ブレイディみかこさんが書いてくれたことがとてもしっくりきました。
イギリスではアンダークラスと呼ばれる人々がいて、彼らは政府から補助金がもらえるのにお酒やドラッグにおぼれていくんですね。そこで、みかこさんはサッチャーの犯した本当の罪は何なのかに気づくのです。
サッチャーの犯した罪は、経済の転換によって犠牲になる人々を敗者という名の無職者にし、金だけ与えて国畜として飼い続けたこと。
アンダークラスの人々を知った当初、「二十四時間自分の好きなように使えるのに、どうして彼らのライフスタイルには幅がないのだろう」と不思議に思ったものだった。しかし人間は「希望」というものをまったく与えられずに飯だけを与えられて飼われると、酒やドラッグに溺れたり、四六時中顔を突き合わせなければならない家族に暴力を振るったり、自分より弱い立場の人々(外国人とか)に八つ当たりを行ったりして、画一的に生きてしまうもののようだ。(P.30)
みかこさんの師匠のアニーの言葉を借りると、セルフ・リスペクトを失うとそうなってしまう。
日本の路上生活者で昼からお酒飲んでる人も同じなんだ。あのひとたちには「希望」が見えないんだ、とハッとしました。もちろん全員がそうなわけではなく、自らの意志で路上生活をしている人もいるけれど。みかこさんは続けます。
もう国は貴様らを飼えなくなったから自分の力で立ち上がれ、というのは無茶な話だ。「自分の力」主義というのは各人が自分の生き方の指針にすべき考え方であって、それを他人にまで強要するのはヒューマニティの放棄である。(P.36)
「希望」がなければ、全てはむなしい。
ヒューマニティ放棄したくない。
児童文学の大きな特徴は、「どこかに希望がある」こと。
最後にみかこさんの師匠のアニーの言葉を紹介しますね。
「大丈夫。空疎な言葉だけど、人はその気になればどんなことでも大丈夫にできるんです。人間の偉大さはそれに尽きる」(P.178)
みんなその偉大さをもった人間のはず。
一つ前の記事でも書いたけれど、命に優劣なんてないはず。
「希望」を伝える児童文学をこれからも紹介していきたいと思います。