Pocket Garden ~今日の一冊~

大人も読みたい、大人こそ読みたい、大人のための児童文学の世界へご案内

一緒に考えさせてくれる本

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『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』(2019年)ブレイディみかこ作 新潮社

 

今日の一冊は文学ではなく、話題のノンフィクションから。

子どもと見る風景”のkodomiruさんが熱く語られていたので、書店を探し回りました。

 

内容は、イギリスで暮らす著者の息子さんが通う元・底辺中学校の日常を綴ったもの。学校のシステムから文化的背景や環境が日本とは随分違うなあ、と思わされる一方で、そこで起きていることを“我がこと”のように感じさせてくれる貴重な本だと思います。とても他人事とは思えない。

 

扱っているテーマは、教育、人種、アイデンティティから政治に関することまで、結構難しいというか深いのですが、文体は堅苦しくなく、とても読みやすい。なので、気負わずに読めます!

《『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』あらすじ》

 

大人の凝り固まった常識を、
子どもたちは軽く飛び越えていく。
世界の縮図のような「元・底辺中学校」での日常を描く、
落涙必至の等身大ノンフィクション。

優等生の「ぼく」が通い始めたのは、人種も貧富もごちゃまぜの
イカした「元・底辺中学校」だった。
ただでさえ思春期ってやつなのに、毎日が事件の連続だ。
人種差別丸出しの美少年、ジェンダーに悩むサッカー小僧。
時には貧富の差でギスギスしたり、アイデンティティに悩んだり。
世界の縮図のような日常を、思春期真っ只中の息子と
パンクな母ちゃんの著者は、ともに考え悩み乗り越えていく。

連載中から熱狂的な感想が飛び交った、私的で普遍的な「親子の成長物語」。

(出版社紹介文より)

 

もし、6月に開催した“愛しき思春期アホ男子母会” の前にこちらを読んでいたら、母たちへのおススメの一冊には間違いなくこちらを選んでいたなあ。

親子の会話がいいんです!こういう母ちゃんに私もなりたい。そして、息子くんが実にしなやかで素晴らしいんですよね。

 

いつの時代だって、子どもたちは成長しつづけている。そして、実は一番良く物事を見ている。曇りのない目で。

それを表現する言葉や機会を持たないだけで、子どもたちのなんて頼もしいことか。

一方で、大人に影響されて言動がミニ大人になっている残念な子どもたちもいる。差別的発言も、周りにそういうことを言う大人がいるから。大人のせいなんだなあ、と改めてしみじみ。

 

ところで、この息子くん、小学校は公立ながらカトリック系の進学校という守られた環境の中で過ごしていたんですね。でも、中学は同じカトリック系には進まなかった。

そして、息子くんが選んだ多様性に富んだ元・底辺中学校の様子を著者と共に見て追体験していると、似たような人種(家庭環境)しか集まらない環境のほうがなんだか歪んでるのでは?という気分になってきます。

 

私自身も中高は私立の女子校に通っていたので、似たような恵まれた家庭環境の子の集まりの中にいました。当時の私はこわがりだったので、多様性に富んだ環境の中でやっていけたかと問われると自信がなくて、親ではなく自らの意志で守られた環境を選んだのです。が、自分が母となって、ママ友という形で、いままで出会わなかったような人とたくさん知り合いになり、いかに自分の世界が狭かったかに気づかされました。そして、中高のころの私だったら、絶対に近寄らないであろう人々と知り合いになり、彼ら彼女らの人間性の豊かさに触れて驚いたものです。

 

今の私だったら、ブレイディみかこさんと同じような中学を選ぶだろうなあ。ただし、それは支える側の大人・学校が素晴らしい、という前提があってこそなのですが。

 

どこの学校でもやってこれなかった問題児ばかりが集まるけれど、この学校に来たとたん不登校ゼロ!という奇跡のような大阪の公立小学校のドキュメンタリー『みんなの学校』を思い出しました。こちらの映画もとにかく素晴らしいのでぜひ!子どもがいるいないに関わらず、会社勤めの男性陣にもすすめたい。多様性ってどういうことなのか。自分とは違う相手を受け入れるって、どういうことなのか。

 

minna-movie.jp

 

子どもたちはいつだってしなやかなんです。子どもを導いてあげようなんて、もはや傲慢な気がしてきます。大人がやっきになって何かを教えようとしなくても、子どもたちは案外自分で発見して気づきを得てゆく。じゃあ、放置しておけばいいのかというとそうではなくて。理解ある大人たちがいないと、やっぱり潰されていってしまうんですよね。ただの荒れた学校、地域になってしまう。大人の役割は、子どもたちが安心して自分を出せる場所を作ることなんだな。そして、答えを教えるのではなく、一緒に考える。

 

内容はどれも興味深いのですが、特に差別やいじめに関する息子くんの考えには、うならされるものばかりでした。

 

お子さんがいるいないに関わらず、価値観や自分の中の正しさが凝り固まった大人は、ぜひご一読を!