Pocket Garden ~今日の一冊~

大人も読みたい、大人こそ読みたい、大人のための児童文学の世界へご案内

そもそも、というところを突き付けられる

『子どもの文化人類学』(2023年)原ひろ子著 筑摩書房

夏休み!

子どもたちはかわいいけれど、正直ずっとご飯作り続けるのに疲れた、元気すぎる子どもたちに疲れた、という方もいるのでは?(はい、私です)

 

もー、少しの時間でよいから静かにしてくれない?

どうしたら、片づけてくれるの?(床にモノが散らばってるの、もうイヤ(涙))

どうしたら、兄弟げんかしないでいてくれるの?

ねえ、食べてる最中に席立って何かし始めるのやめてくれない???何歳?

 

はああああ。うちの両親は子煩悩で、「ああ、夏休み終わっちゃうの寂しい。もっと一緒にいたかったなー」とかいうタイプだったので、娘の私は、自分の子育てはあまりにも理想とは違うので、びっくりしています。

 

でもね、理想とはなんぞや?

そもそも子育てって???

 

そんな根本的なところに立ち返らせてくれるのが、今日の一冊なんです。

 

もともとは1970年代に刊行されたものが、このたび文庫化された形なのですが、内容は全然古びない。いや、むしろ今読みたい一冊。

 

時間がない、という方は、巻末にある奥野克巳氏(『ありがとうもごめんなさいもいらない森の民と暮らして人類学者が考えたこと』著者)による解説だけでも読むのをおススメ。これ読むと、きっと本編も読みたくなっちゃうかと。

 

さて、著者の原ひろ子さんは、文化人類学者だったので、極北の狩猟民族ヘヤー・インディアン、インドネシアの子育て、バングラデュ、イスラエルキブツニューギニアやアフリカ、アメリカなどさまざまな国での子育て事情について、とても分かりやすく書いてくれています。

 

これが、文化人類学の視点なので、とっても面白い!

自分がたくさんの「〇〇すべき、〇〇ねば」に縛られていたことに気付かされます。

ところ変われば、とはいうけれど、いやはやここまで違うか。

 

どちらがいいとかそういうことではなくて。でも、たくさんの”問い”をもらえます。そして、子どもをどうこうしたいと思うこと自体が違うんだなあ、とすーっと受け入れられるんですよね。ぱあっと視野が広がります。世界は広いなあ。

 

個人的に一番興味深かったのは、ヘヤ―・インディアンには「教える、教わる」という概念がないというところ。彼らの間に師弟関係のようなものは存在しえないというのです。”自分で観察し、やってみて、自分で修正する”ことによって、自分の興味のあることについて覚えていく。こういう”学び”がいま、ないよなあ。周りの大人が待てないから。

 

文化人類学の視点って、調査対象へのリスペクトがあり、研究者の姿勢がとっても謙虚だなあ、って思います。そこが、私は好きなのかもしれない。

 

思い返せば、受験が終わった高3の冬。図書館で偶然手に取った、原ひろ子さんの『ヘヤー・インディアンとその世界』との出合いは、当時の私にとっては衝撃でした。こんなに面白い学問があるのか!と。あ、入学する学科間違えたかも、と卒論は、文化人類学の先生につくほどまでに影響を受けました。

 

子どもの文化に興味のある方はもちろん、「そもそも人間って......」というところを考えさせてくれる一冊なので、全ての方におススメです。ぜひ!