Pocket Garden ~今日の一冊~

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情熱って伝染するもの

 

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昨日は、この夏のイベントとして前々から楽しみにしていた『いのちの木のあるところ』刊行記念トークイベントを聞きに行ってきました!

 

著者の新藤悦子さんのお話は、いつ聞いても毎回違うお話をしてくださるし、もう楽しくて楽しくて。お話が楽しいのに加え、今回はトークイベントの場所が、なんと東京ジャーミイ隣接の講堂というではないですか。

 

東京ジャーミイとは、渋谷区代々木上原にある日本最大のイスラム教寺院。

大きくて、全体像写せない。日本じゃないみたい

 

 

新藤悦子さんの物語を読んで以来、文様の一つ一つが気になる!

 

以前、一度行ったことがあったのですが、そこだけ神聖な異空間で、大好きな場所だったんです。流れてくる祈りの歌の美しいこと。不思議な気持ちに包まれます。キリスト教の環境で育った私は、実は、なんとなくイスラム教にはいい印象を抱いていなかったのですが、留学時代に実際にムスリムの友だちがたくさんできたり、物語を通じて、いまではなんて素敵なんだろう、と思うようになりました。偏見がゆえに、この良さが分からなかっただなんて、なんて損してたんだろう、って思う。

 

今回の新刊『いのちの木のあるところ』もそんなモスクについての物語なんです。今なお多くの謎に包まれたトルコの世界遺産「ディヴリーの大モスクと治癒院」について書かれた壮大な歴史物語。すぐに一気読みしましたが、いろんな思いがふれて、なかなか感想がまとまらないので、まずはトークイベントの感想から。

 

今回のイベントは、挿絵を描いた佐竹美保さんの原画展もあり盛りだくさん!新藤さんの描く物語は、毎回どれも食べ物が美味しそう、という特徴があって食いしん坊の私たちを魅了してやまないんです。そして、今回はなんと併設のカフェで物語に出てくる料理の再現メニューが味わえるというので、ワクワクで向かいました。

見た目よりお腹ふくれる!

 

写真、見た目シンプルに見えるかもしれませんが、これがじんわりと優しく身体の中に入っていく感じの味で、すっっっごく美味しかったのです。物語に出てくるものが味わえるだなんて、感激ひとしお。物語の時代はセルジューク朝時代ですが、その頃のレシピが見つからなかったため、メインに関してはオスマン帝国時代のレシピから再現してくれだんだとか。鶏肉の煮込みは干しアンズも入っていて、素材の味がひとつひとついきていて、なんとも誠実な味。お米のプリンは……日本人には、うん、ちょっと甘すぎましたが(笑)。トークイベント自体はワンデイでしたが、原画展は8月21日まで開催されていて、この間の土日はこの限定メニューが提供されるそうです。ご興味のある方はぜひ!!!併設のHalalショップも珍しいものがいっぱい並んでいて楽しいですよ。

 

さて、おなかがいっぱいになったところで、いざトークイベントへ!世界遺産だというディヴリーの大モスクと治癒院の存在、この物語を読むまで全然知りませんでした。いやはや、すごい建物に志の高い人々。こんな場所、こんな人たちがいたんですねえ。

 

ディヴリー建築の第一人者のクヴァン先生という方が、モスクの装飾を手掛けた天才石工・フッレムシャーのことを「ガウディのような天才」と絶賛しているそうなのですが、まさにまさに。クヴァン先生いわく、フッレムシャーの魅力を伝えるにはもう小説にするしかないと考えたこともあったそうで、「想像したまえ。想像することでしか、フッレムシャーに近づけない」とおっしゃったそう。

 

そこで、トルコに造詣の深い新藤悦子さんが、想像に想像をふくらませて描いたのがこの物語。出合えてよかった。きっと歴史で習っても、それほどは感銘は受けなかったと思うんです。すごいな、とは思ってもきっとすぐに忘れてしまう。でも、物語をいう形で届けてもらったからこそ、心に残るんですよね、としみじみ。

 

想像って、単なる妄想とは違うんです。自分の願望を妄想するのとは違う。さまざまな資料、話のエピソードを聞きながら、想像を重ねて重ねて膨らませる。そうすると徐々に見えてくる。これを、人は“(物語が)降りてくる”というのかもしれません。自分でプロット(筋書)を練るというよりも、導かれる感じ?

“ここまで情熱をもってくれるのなら、この人に自分たちの物語を託そう”と過去に生きた人たちが思い、何らかの形で書き手に伝えてくれているような気がしてならないんです。だから、リアリティがあるんだなあ。

 

今回、さまざまな興味深いお話を聞くことができたのですが、中でも印象に残ったのは、“情熱って乗り移っていく、伝染していく”という新藤さんの言葉でした。

 

そうなんです。物語を読むだけでももちろん面白かったのですが、今回のお話を聞いたことで、会場中の人たちにも情熱が伝染したことは間違いなし。挿絵を描いた佐竹美保さんの情熱もすごかったです。資料の写真から、職人たちの思いを読み取り、人物像までも立ち上げていく。作家と画家の情熱によって、物語が立ち上がっていくさまを聞けたのは感動でした。こうやって、思いって受け継がれていくんですね。それにしても、佐竹美保さんが日本から一歩も出たことがないという話は驚きでした。想像の翼ってスゴイ。

 

閉塞感のあるいまの時代に、こういう物語を届けたい。私も情熱を伝染させる一人になりたいなあ、と改めて思った素敵な時間でした。

新藤悦子さん、佐竹美保さん、企画してくださった福音館書店さん、YUNUS EMRE ENSTITUSUさん、ありがとうございました!